九話 シュヴェーレン
シュヴェーレン それは僕を変えた魔法
シュヴェーレン これは君を変える魔法
だからここで始めてみよう 僕たちの物語を
変わらない毎日に
逃れられない運命に
絶望するのは仕方ない
でもね、僕が君を探している
だって、君は誰かを待ってる
君の心が助けてって僕を呼んだんだよ
シュヴェーレン それは僕を変えた魔法
シュヴェーレン 次は君を助ける魔法
シュヴェーレン 僕じゃ頼りないかもしれないけど
この言葉が君と僕を結んでくれる
だから僕と君で一緒に踏み出そう 未来への一歩を
「「ズゾ、ズゾゾ」」
テレビから流れる九条葵の歌声に耳を傾けながら、私はラーメンを啜っていた。鶏ガラベースの昔ながらの味は、少し疲れた田舎町の中華料理屋にぴったりだ。仕事終わりに、もう何年もここに通っている。
あの九条村の一件からほどなくして、彼は上京し路上ライブを始めた。中々芽が出なかったみたいだが、少しずつファンを集めたらしい。そしてある時、レコード会社の社長の目に止まってスカウトされ、その後のファーストアルバムで脚光を浴びることになる。
九条葵はあれから約五年の月日を経て大ブレイクを果たしたのだった。現在はそれから三年経ち、活動は絶頂期を迎えていた。
「素晴らしい歌声でしたね! では、歌い終わった九条葵さんにひと言伺ってみようと思います」
司会者は歌い終わってすぐの葵に近づいた。
「お疲れ様でした。少しお伺いしますが、いつも九条さんは歌詞に実体験などを含んでいると聞いています。では、今回の歌にはどのよう思い出があるのでしょうか?」
「そうですね……僕が高校生の頃に経験した、歌手を真剣に目指すきっかけになった人に贈る歌、ですかね」
「それはもしかして、初恋ですか⁉」
「いや、そんなものじゃないですよ。でも、あの人が僕をここまで連れてきてくれたのは事実です。だから、この曲が届いてくれていると嬉しいですね」
「さて、今回の【シュヴェーレン】はリリースから一週間で既に総再生回数五百万を超えており、この年を代表する一曲と言っても過言ではないでしょう!」
「あの、一言だけマイクをお借りしてもいいでしょうか?」
葵の提案に少し困惑する司会者だったが、すぐに快くマイクを手渡した。
「堺瑞稀さん。貴方のおかげで、僕は生きてこれました。夢を諦めないでいられました。本当にありがとうございました‼」
画面越し、視界の先でそう叫ぶ葵に瑞稀は微笑んだ。おかしな話だと思ったから、間違っていると思ったからだ。
「面白いことを言うなぁ。私のおかげじゃないよ。君が、君の人生を変えたんだよ。そして、そんな君だから多くの人を救えるんだ」
瑞稀は正面を指さした。そして、残り少ないスープを飲み干して席を立つ。
「すまない、お勘定を」
お坊様、【石狩王帝】をめぐる瑞稀の戦いはこれからも続いていくのだった。
────完。
とはならないのが、現実である。
「まさか大人気歌手がこんな田舎の町中華にいるとは思わないだろうね」
「ですね」
「で、少年。新曲のネタは集まっているのかい?」
「それはもちろん。僕だって遊びで付いてきているんじゃないですからね」
二人の物語はまだ続いていた。
【作者コメント】
ここまで読んでいただきありがとうございました。本作は章ごとを基本まとめて投稿しようと思うので、次回作は少し先になると思います。
それまでどうかお待ちくださいませ。




