七話 怪異の本質
「これで残りは七本。ラッキーセブン、なっちゃって」
後ろで少年がむせた。煙草の煙でも吸ったのか?
「仕事終わりに吸うから……帰りはなんとか足りるかぁ?」
ひとまず一息ついた私は、残り短くなった煙草を大事そうに使っていた。果たして、この建物のなかで許される行為なのだろうかとも考えたが、置かれている状況が状況のためあまり考えていない。
「……あの、堺さん」
「瑞稀でいいよ」
「なら、瑞稀さん。僕、そろそろ結界を直しに行こうと思います」
「あぁ、ここは私が何とかするから君はそっち頼む。君ならできるよ。だって、少年は守られている」
彼になら少年を任せられる。
「いったい誰に?」
私の言う彼が分からない少年が聞き直した、その時だった。何かヒビが入っていく音が周辺一帯の空気を揺らし、地面もそれに合わせて揺れ始める。
「すぐに分かるさ。ほら、早く行くんだ。結界が壊れ始めた」
少年は気になる気持ちを何とか飲み込み、別れの挨拶を軽く済ませた。
「言い忘れていたことが一つあった」
少年が本殿の扉に手をかけたとき、私は最後に彼を呼び止めた。
「君の歌は誰かを傷つけるための呪いじゃないよ。それは誰かを助けることができる力だ。感情的にも、物理的にも。だから迷わず歌ってこい!」
どうやら余計な一言だったらしい。去っていく彼の目には迷いなど浮かんでいなかった。
***
残り時間を告げる炎が徐々に先へと進んでいく。人生最後がこの一服でも文句はない。
薬にもなる魔法が私の体を駆け巡る。毒は体を侵していく。残り時間だったはずの炎は消えてもなお、私の身体の中で針を刻んでいく。少し進んだ残り時間を私は見ることはできない。
煙がそれを隠してしまうから。
その煙とともに、火が消える。
それは少年が去ってから間もないときだった。建物の内部、本殿に祀られていた本像からグチョグチョと何かが混ざり合う音が聞こえてくる。その像は人を象ったものが幾重も重なりあい、まるで取り込まれているかのようだった。
「あれが怪異の本体というわけか」
音が徐々に大きくなるとともに、人の像が藻掻き始め、そこから人影がいくつも落ちていく。
何かが起こっているのは明白だった。重要なのはそれについての認識を間違えないこと。最初、私が【お陰様】に負けかけたのも認識を誤ったからだ。
しかし、同じ轍を踏む私じゃない。
現状、【お陰様】についての情報は多くない。だがしかし、集めたものを組み合わせることで見えてくるものが確かにあるはずだ。
影を操ること。そして、それ自体に攻撃は効かないこと。
生贄が必要なこと。人の形をした像が本体であること。
今生み出されているのは人影。
人影、生贄……まさか⁉
「あの影は今までの生贄達かッ⁉」
人の負の感情、恐怖や悪意の成れの果て、怪異の本質を瑞稀は見た。
【お陰様について】
言及されていた通り、この怪異は祟り神です。基本的に、『神』と名のつく存在は他のものと強さが別格です。とは言っても、全力の瑞稀なら余裕で勝てます。
ただ、後書きでちまちま言っているように、今は弱体化に次ぐ弱体化で中々に厳しいです。
それに対して、お陰様は生贄の儀式の邪魔をされたのでブチギレており、全力以上の力を出してきます。
いやぁ、何もないと瑞稀は負けちゃいますね。




