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二話 探し人


「あっぶなっ‼」


 私は振り返り、自らに迫る毒牙を確認して横に避ける。突然の出来事ではあったものの、私からすれば意外性のない一手。飽きるほど使い回された凡夫の技に今さら対処が遅れるはずもない。


 だがしかし、


「随分と殺気立っているみたいだが、そこまでのことを私はしたか?」


 さっきまで私がいた場所を見ると、地面には大きな傷跡があった。どうやら、問答無用で殺すらしい。


「君、話はできるかい?」


 神社に入ってからではなく、この建物の跡を発見してから襲ってきたのを見るに、これについて嗅ぎ回ることが引き金の可能性がある。私は少しだけ試してみることにした。


「謌代縺逕溯」


 少しでも情報を集めようと声をかけたはいいが、返ってきたのは又も人の話す言葉ではなかった。


 それ、黒い人影を前にして、私は様々な策に思考を巡らせる。どう逃げるか、どう戦うか、はたまた倒すことはできるのか。だがどれも面倒くさい。


「さっさと祓おうか」


 私は携帯していたケースから一枚の紙を取り出した。それには謎の模様とともにいくつもの漢字が記されている。


「力はあるみたいだが、速さならば私のほうが上だよ」


 黒い人影は迫る私を前にしても何も変わらない。感情がなく、私の持つ御札に恐怖しないのだろうか。


 なぜ動かない。一抹の不安が頭をよぎるが、問題ないと自分を無理やり納得させる。距離が詰まり、お互いの一手が急所を削り合うほどにまで近づいた。


 先に仕掛けたのは、瑞樹だった。そして、自らの予感が的中したのもまた、瑞樹だった。


「効いていない?」


 確かに人影には御札が張り付いた。そして私は呪文を唱え、勝利を確信する。


 慢心、瑞樹は陰陽師だった。相対する人外の存在、怪異を人知れず祓う者達の一人。まして瑞稀はその中でも最強の一角を担う者だった。戦っている存在の正体が不明であってもそれは揺るがないという絶対の自信があった。


 しかし、現実は想像を凌駕する。いくら空上の理論を思いつこうが、それを発揮できなければ意味がないのだ。


 私の攻撃が失敗に終わることを分かっていたかのように、今度は人影が片腕をこちらに振り下ろす。


 刹那、私は腰に下げていた刀の鞘に手をかける。


 抜刀、幾度となく繰り返した動作は正確かつ最速の動きで対象を捉えた。


 刀と影が交差し、一歩も譲らない駆け引きが繰り広げられたかと思うと、影がもう片方の腕を振り下ろしたことで、拮抗した状況が一転する。


 防戦に回った私へ、影の手が徐々に形を変えながら迫ってくる。鋭く尖ったその形は肉体を容易く切り裂くだろう。かろうじて攻撃を防いではいるが、正直押し負けるのは時間の問題だ。


「かごめかごめ、籠の中の鳥は」


 命の殺り取り、瞬き一つすら決着を分けるその戦いに侵入者が現れた。人影の後ろから誰かの歌う声が聞こえたと同時に、今まさに私と真っ向勝負をしていた怪異が目の前から消え、上空に現れた大きな鳥籠に捕まっている。


「逕溯騾繧峨縺縺」

 今までの様子とは違って、人影は縦横無尽に暴れ始める。籠を何度も叩きつけながら何かを叫び、相当な力で壊そうとしているが、変形は疎か、傷一つ付いていない。


「いついつ出やる」


 歌っている誰かの足音が近づき、私の視界には制服を着た男が見えた。逆光でよく見えないが、背丈的に高校生といったところだ。


「後ろの正面だーれ?」


 人影の後ろに何かが現れた。だが、それを私の五感は認識しなかった。


 世界の仕組みの外側、理から逸脱した第六感が死を感じ取り、思考すらも追い越して虎の子の拳銃を反射的に取り出した。それほどまでに、私が感じた気配というのは恐ろしかった。


「何が起こったんだ……?」


 このわずかな時間で起こったことを説明するのならば、目の前の空間が裂け、人影はそこから現れた能面をつけた何かに身体を押さえられて連れ去られた。


 ありえないと私は思った。あれほどの存在を、今この瞬間まで認知できなかった事実への衝撃と動揺は計り知れない。


「助かったよ少年。危ないところだった」


 様子見といったところだ。敵か味方かの判断があいまいである状況で、自身の動揺を悟られることを私は避けた。


 少年はこちらに近づいてくる。それを何の意図をもって行っているのか、私には分からない。


 手元の銃を自身の背中に隠し、万が一に備える。見られていたかもしれないが、確証はないはずだ。最悪の場合の連戦まで覚悟する。


「ちょっと、貴方。そこは立ち入り禁止ですよ? 勝手なことをされては困りますし、何より危険です」


「え?」


 九条葵、探し人は思っていたよりも早く見つかった。逆光に隠されていた少年の素顔は、依頼を受けるうえで読み込んだ資料の重要事項のものと一致した。


 私が探していたのは護り手の行方を知る九条村の村長、彼の母親だ。だが今、【巫女】様によって予言された結界の護り手、少年自体を無事に発見したのだった。


「あの、これ見えてます?」


 私の驚きを話が理解できずに出た言葉と勘違いした少年は、私の斜め後ろを指さした。その先には看板が一つ立っており、赤い文字で立ち入り禁止と大きく書かれていた。


「ここ、老朽化のため立ち入り禁止だって、そう書いてありますよね?」


「あぁ、ほんとうだ。ごめんね、ちょっと気になることがあったから、つい」


「お探しの本殿でしたら結構前に老朽化で取り壊されましたよ。もう過去のものですからね」


 過去のもの、何かが引っかかる。この神社が過去のものだというのなら、新しいものがあるのか?


「ここには他に神社はあるのかい?」


「いや、ありませんよ? 唯一この村にあったこの神社も老朽化が進んでいますし、ここもいずれなくなるでしょう」


 老朽化が進んでいるというのはまだ理解できる。なら何故本殿が取り壊されて何もなくなったこの場所が老朽化で危険なのかという疑問が浮かんでくる。


 鳥居の前に規制線などはなかった。そして、あの存在が反応したのはその空間に侵入してすぐだった。あの看板が示したのは、老朽化などというものではなく、あの存在そのものの可能性。


「一つ聞いてもいい? 少年はあの人影を倒したみたいだが、あれが何なのか知っているかい?」


 私の攻撃はあれには届かなかったのに対し、少年は驚いた様子も見せずにあれを祓って見せた。一瞬同業者かと疑ったが、体から溢れている力がまだ制御できていないことを表している。それに、少年自体からも何かの気配を感じる。だがそれは淀んだものではない。


 呪い……いやこれは……愛情?


 結論が出ずに悩んでいると、少年が私の問いに答えた。


「あれは【お陰様】ですよ。この村の守り神です」


 この村で感じていた狂気、目に見えない違和感の正体が解明したのはその言葉だった。


 村で信仰されているあの人影、【お陰様】は少年の言う神様などではない。あれは似ても似つかない別の存在、私達陰陽師が倒すべき怪異である。その中でも、奴の種類は祟り神、危険度は計り知れない。そんな化け物への信仰がこの村では行われていた。


 私が陰陽師であることは、護り手の少年にも話すべきではないと判断したのだった。


【銃】

急に手に現れた銃ですが、あれはこの少し前に手に入れたばっかりの代物です。使うために莫大なエネルギーが必要なことや、慣れていないことにより、今は奥の手としています。

なお、未来ではメイン武器としてバンバン使っている模様。(シリーズ設定してあるので、よければそちらも見てください)


【瑞稀の実力】

本来であれば、お陰様相手でも余裕で勝てます。神術という魔法みたいなものが存在するのですが、前述した銃のために無茶をしたせいで、一時的に力を使うことができなくなっています。そのため、お札と刀をメインに使っていたというわけです。


【巫女とは】

主に別シリーズ(本編)二章のメインキャラです。あらすじに載せている作品で、今後登場予定です。なお、堺瑞稀は既にそちらでも出ています。

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