第八話 お礼は何がいい?
お待たせしました!
何とか再起動を果たした私は、その後拠点に帰還することにした。取り合えずはレイカさんも一緒に。
「だ、ダンジョンに住んでるっ!?」
レイカさんに拠点のことを話したら、目ん玉が飛び出るほど驚かれた。まあ最初の頃は、自分でもちょっと無茶かもとは思ったものだ。だけど、住んでみれば何てことはない。まだ二日目だけど、案外生活できている。
「す、凄いです。エミリさんは逞しいですねっ」
「そんなこと無いけど。今時キャンプぐらい少し調べれば誰でも出来るって」
「そう、なんでしょうか?」
「そうそう」
そうして階層を上がり、第一階層。端っこの方に行けば懐かしの、というほどでもないが我が家が見えてきた。
「ほ、本当にテントがある」
「いや、言ったじゃん。信じて無かったのかよ?」
「そんなことはありませんっ。でも実際に見ると……」
まあ、気持ちは分かるけどさ。
拠点に着いてから気付いたんだが、ここに人を迎えるような準備なんて無い。椅子だって一人分しかないし、コップも一つだけ。コーヒーどころかお茶も無い。
「すまんレイカさんっ。誰かを招くなんて無いと思ってたから、何も無くて……」
「そんなっ、気にしないでください! 私が無理矢理ついてきたようなものですので! 別に私なんて地べたで構いませんからっ」
「いや。アイドルを地面になんて座らせられないっ。取り合えずこっちの椅子に座ってくれ」
ごねるレイカさんを何とか宥め、普段は私が座っているアウトドアチェアに座らせる。コップもお茶も無いけど、幸いペットボトルの水があった。いささか恥ずかしかったが、それをレイカさんに渡すと喜んで受け取ってくれた。優しい人だ。
私は地面にドカッと胡坐で座り、ペットボトルの水を一気に半分ぐらい飲み干す。
「ぷはぁー! 生き返るー!」
「ふふっ、良い飲みっぷりですね。では私も――はぁ、美味しいですっ」
「ならよかった」
ただ水を飲んだだけなのに、この人の場合絵になるというか。どことなく気品が漂っている。育ちの良さとでもいえばいいのか。佇まいといい、ひょっとすると良いとこのお嬢様なのかもしれない。
お互い一息ついたところで、レイカさんの方から口を開いた。
「エミリさん。この度は本当に申し訳ございませんでした」
「謝罪はもういいって、さっき言っただろ? 配信の件にしたって、あの状況なら不可抗力だろうし。それよりむしろそっちの方こそ心配だよ。あんなことがあって、このまま冒険者続けるのか?」
レイカさんは、事務所の方針で冒険者をしているらしい。さっきスマホで調べたら、事務所のホームページにデカデカとそれが書かれていた。アイドル界隈でも随分騒がれたらしい。私は知らなかったが。
しかし、だ。
今回のことで、レイカさんは――命を落としていた可能性がある。
色々な偶然が重なった結果、今があるだけ。もし何か歯車が狂っていればレイカさんは、あと私も。かなり危険な状態に陥っていたかもしれないのだ。
何よりレイカさん自身が、ダンジョンやモンスターに今後も関わっていけるかという問題もある。
果たしてどうなのだろうか……
「ああ。私については心配いりません。モンスターに襲われたことよりも、もっとずっと衝撃的な出来事がありましたから。もうすっかり、そちらに上書きされてしまいました」
そう言いながら、こちらに向かってウィンクをするレイカさん。
衝撃的な出来事って、つまりモンスター爆散だよな……
「その……気持ち悪くなかったか? 色々、その、酷い絵面だっただろ? むしろトラウマになってたりとかは?」
「そんなことありませんっ!」
そんな私の懸念を、レイカさんは強く否定する。
「舞い散る紅の中で歌うエミリさんの姿……本当に恰好良かったです! 爆殺歌姫だなんてとんでもない! しいて言うなら『真紅の歌姫』なんてどうでしょう? あの時のエミリさんを言い表すなら、それぐらいでないと!」
「ちょ、ちょちょっと落ち着いてっ。そんな小っ恥ずかしい二つ名はいらないから! というかレイカさんってそういうの分かるの!?」
どうやらトラウマにはなってないようで一安心した。しかしレイカさんの知られざる一面を知ったというか。まさかこの人、現役で厨二なんてことはないだろう? 別の意味で心配になる。
「こほんっ――ともかく、グロさなんてほとんど感じませんでした。死体も何も残りませんでしたから」
「それなら良かった」
「ただ――冒険者を続けるかどうかは、微妙なところです。私がどうこうではなく、事務所がオーケーを出すかどうか。私のミスでこの企画に水を差すような形になってしまったのでは、申し訳が立ちません」
「ああ、そこなぁ……」
「あまり心配しないでください。そこは戻ってからマネージャーや他のメンバーと相談しますから――それよりも、エミリさん。私に何かお礼をさせてくれませんか?」
「それもいいって、言ったんだけどなあ」
「いいえっ。こればっかりは譲れません。姫川家の者として、受けた恩をそのままにしておくのは恥。私に出来ることであれば何でも致します! ですから、どうか!」
なぜ、お礼をする側が懇願しているのか甚だ疑問ではあるが。
さすがにここまで言われて断るのも悪い気がしてくる。
しかし、お礼か……
何かいいのはあるだろうか。あまり金額が大きいのは、逆に申し訳なくなるので却下だ。すると、菓子折りなどが無難だろうか……いや。レイカさんにしか出来ないお願いがあるんじゃないか?
そう。例えば事務所、アイドルの伝手を借りるとか。
「――なあ。レイカさんって、ボイトレとかするよな?」
「え? ええ、はい。アイドルですから」
「じゃあさ。出来ればでいいんだけど、私にボイトレの先生って紹介してもらえたり、しない? ほんと、出来ればでいいんだけど!」
「そんなことでいいのですか? 住む家ぐらい用意できますよ?」
「っ!? い、いや先生の紹介でいい! むしろそれがいい! それ以外認められないから!」
「そ、そうなのですか」
レイカさんは何故か残念そうな顔をする。
この人、やはり良いとこのお嬢様に違いない。そう簡単に家が用意できてたまるものかっ。そんなの出来たら、私だってダンジョンになんて住んでいないのだっ。
「承知いたしました。姫川玲華の名にかけて、エミリさんにピッタリの先生を探してみせますっ」
「いや。普通にレイカさんを教えてる先生を紹介してくれればいいんだぜ?」
「はいっ。勿論分かっています!」
……もう、いいや。
どうにでもなれ。どうせ悪い人が紹介されるとも思えない。だったらなるようになればいいさ。ははっ。
「それでは、あまりお邪魔してもご迷惑になりますから。私はこの辺でお暇させていただこうと思います。連絡はしましたが、事務所の方々も心配しているでしょうし」
「ああ、その方がいいだろうな」
「エミリさんは、これからどうなさるのですか?」
「うーん。一先ずまだ鉄臭いから軽く流して、それから昼飯食って。あとは歌の練習してって感じだな」
「なるほど…………」
「レイカさん?」
レイカさんは、何かを考えるように顎に手を当てて黙り込む。
ああ言ったものの、今日は少し休んでもいいかもしれない。先ほどの二曲でかなり消耗した。それに二日連続でかなり喉を使ったのもある。少し喉休めをしてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、レイカさんが口を開く。その顔は何か名案を思い付いた!とでも言いたげに輝いていた。
「エミリさん。もしよければ、昼食を一緒にしませんか? 事務所に来ていただければシャワールームもあります。血と汗を流すなら、そこでもいいでしょう」
「え? でも、いきなりそんな悪いんじゃないか? 別に気を遣わなくてもいいぞ。適当にそこら辺で水浴びするだけだし――
「そこら辺で!!?」
「――お、おう。なんだよ急に」
いきなりの大声に驚いた。レイカさんは悲鳴にも似た声を出しながら、驚きに目を見開いている。身体がわなわな震えているのは、何だ? 怒ってるのか?
「なんだよ、ではありません! 年頃の娘が誰が見ているとも知れない場所で、適当に水浴びをするなど言語道断! これは無理矢理にでも事務所まで来ていただきますっ」
「あ、はい」
別にどうってことないんだけどなあ……
そうして私は、レイカさんが所属する事務所まで行くことになってしまったのだった。
いかがでしたでしょうか?
ここまで殆どダンジョンの中の話でしたが、遂にエミリが外に出る!?(買い物とかで出ていたけど) という訳で次回はレイカの事務所に行くことに! 新たな出会いはあるのでしょうか!?
思わぬところからボイトレの先生のフラグが立ちました。想像してた人もいますかね? レッスン開始はもう少し先ですが、そちらもお楽しみに!
次回の更新は明日を予定しています!
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