第七話 配信か録画か。それが問題だ。
お待たせいたしました!
さすがに疲れた……
というより。ここにモンスターが出ないなんて、とんだデマ情報だったじゃねえか。やっぱりネットの情報なんて信用できない。次はネットじゃなくて、ギルドで聞いてみよう。そうしよう。
この後は、ゴブリンの魔石を回収して、それを売って……風呂にはまだ、ちと早いな。
さて。どうするか――
「あ、あの……」
空を見上げながら次の行動を考えていると、そんな風に声をかけられた。もしかしてと思いつつ身体を起こすと、そこにいたのはやはり、さっきの子だった。
「ん、あんたか。無事か?」
「は、はい。貴女に助けていただきましたので、大丈夫です」
「大丈夫ってことは無いだろ。私の所に来る前にゴブリン共に襲われてたんだろ? そん時の傷とかは?」
「ああ。それでしたら、ポーションで治しました。ただ装備品の傷などは直せませんでしたが……」
言われて見てみると、確かに服とかがボロボロの割に身体の傷は無い。
ポーションか。そうけばそんな回復アイテムもあったな。高いから縁が無いと思って忘れてた。安いのでも一本数千円とか数万円とかするんじゃ、とてもやってられない。
「そっか。お互い、命があっただけ儲けもんだな。装備は外に出てから直してもらうといいさ」
「そうですね…………あ、あの!」
「なに?」
「――申し訳ございませんでしたっ!!!」
「っ!?」
その子は浮かない顔をしたかと思えば、次の瞬間、凄い勢いで謝罪をした。頭は地べたに着くほど深く、ほぼ土下座みたいな体勢だ。
私は謝られる理由が分からなかった。むしろ酷い光景を見せてしまって、私の方が謝らなくちゃならないとすら思っていた。だというのに目の前の女の子は、本当に申し訳なさそうに。身体を震わせながら謝罪をしている。
「ま、待ってくれよ。私には謝られる理由が分かんない。どいういうことだよ?」
「……それは――」
その子が語ったのは、先ほどのモンスターに関することだった。
私の想像通り、やはり彼女はあのゴブリン共に襲われたらしい。場所的にはここから少し離れた、第三階層に近い場所。そこにゴブリンの集落のようなものがあり、誤ってそこに踏み込んでしまったんだとか。
なんであんな数が?と疑問だったが、それで納得した。個別に集まって来たのではなく、最初から集団だった訳だ。
そしてここからが、謝罪の主題。
大量のゴブリンに襲われた彼女は、最初は戦ったのだそう。しかし多勢に無勢。対処できなくなり、逃げた。そうしてこの丘の近く、そこにある森の中でいよいよ追い詰められた――ところで、私の歌がゴブリン共の気を引くことになった、と。
つまり彼女が謝っているのは、私がいるところまでモンスターを引き連れてきてしまった事に対して、という事だ。
「ご存知かもしれませんが、この行為は『モンスタートレイン』と呼ばれます。所謂モンスターの押し付けです。冒険者の間では恥ずべきマナー違反とされています。必死だったとはいえ、やっていいことではありませんっ」
「ああ、うん……」
モンスタートレイン、か。
そんな言葉聞いたっけ? そういえば資格取得のときの講習で、聞いたような聞かなかったような……すごく漠然としてる。
「別に気にしなくていいぞ。ほら、ダンジョン何て狭いんだからさ。必死で逃げ回ってれば偶然人に出くわすこともあるだろうさ。それに――だからわざわざ、ここを選んだんだろう?」
「そ、それは……」
答え辛そうだけど、ノーって訳では無さそう。てことは、やっぱりそうだ。
「あんた、私と違って頭良さそうだもんな。ここが冒険者に人気が無い場所だって知ってたんだろ? だからここを選んだ。むしろこんなところで呑気に歌ってた私の方が場違いだぜ。だから、はい! この話はここでおしまい! もう話題に出すの禁止な!」
「え? え!? あの、えっと」
「それより自己紹介しようぜ。私の名前は甲本エミリ。今はこんなんだけど、将来は歌手になるのが夢だ」
「わ、私は『姫川 玲華』と申します。普段は高校生をしながら、アイドルをやっている者です」
「姫川さんか。高校生でアイドル……あ、アイドルっ!?」
アイドルって、あのアイドルだよな?
確かに、見れば見るほど美人だ。高校生だって言っていたが、よっぽど大人っぽい。さらさらと長い黒髪や整った顔立ちを見ると、大和撫子という言葉がピッタリ合う。
……よくちんちくりん扱いされる私とは大違いだ。
それにしてもアイドル、アイドルねえ……
さっきも思ったけど、なんか見覚えがあるんだよなあ、この子。正直、あまりアイドルには詳しくない。歌なんかはよく聞くけど、アイドル系の曲にはいささか疎い部分がある。
でも見覚えがあるということは、やはりMVを見たのだろうか。例えばミーチューブとかで。最近見たのでいえば――
「あの。甲本さん?」
「……も、もしかしてだけど姫川さんって。『クラルテ』のレイカ、だったりする?」
「あ、はい。そうです」
「ま、マジか」
何あっさりと肯定してるんだよ! クラルテと言えば、今人気沸騰中のアイドルグループじゃねえか!? どこかで見たと思ったら、クラルテの最新曲のMVだ! 映像の中で踊ってたのと同じ人じゃん!
「ま、まさかレイカ、さんだったなんて。何か生意気な口きいてすみません……」
「止めてください!? 甲本さんは私の命の恩人なんですから。そんなへり下った話し方をする必要なんてありません! むしろ先ほどの歌――大変素晴らしかったです! あんなに心が震える歌、私聞いたことがありません!」
「……そう言ってくれるのは嬉しいけど、所詮は素人歌だ。技術だって足りてないし。レイカさんの方がよっぽど上手いだろ?」
「上手い下手ではありません! 甲本さんの歌には、こう、パワーがありました! 人の心を震わせる凄いパワーです! それは技術じゃ誤魔化せず、それ以上に凄いものなんです! 私、甲本さんのファンになってしまいました!」
「お、おう」
レイカさんの勢いに思わず圧倒されてしまう。
だけど真正面から自分の歌が好きだって言われるのは――素直に嬉しかった。真っ直ぐに目を見ながら言われて、ちょっと気恥ずかしいけど。
「ははっ。なら、歌った甲斐があったな。こんな所でファンを一人獲得できたんだから」
「はいっ! また甲本さん、いえエミリさんの歌を聞きたいです! そういえばカメラを持っていたってことは、配信されていたんですか? よければチャンネルを教えて欲しいです!」
「いいぜ。さっきのは配信じゃ無くて撮影だけどな。まだ生配信が出来る状態じゃないし……ん? 配信?」
「どうかしましたか?」
あれ? よく考えれば、私がやってたのは配信じゃなくて撮影・録音だ。その場で撮った全てが公開される訳じゃない。
そうだよ。何で気付かなかったんだよっ!!
「そうじゃん! アップロードしなければいいじゃん!!」
「ひゃっ!?」
なんかさっきの一幕が全世界に公開される気になってたけど、別にそんなことは無い。公開するもしないも私の自由なんだから! だったら二曲目はカットして、一曲目の『アイムウィンド』の方だけをアップロードすればいい!
イメージアップ作戦はまだ終わって無かったのだ!!
「いや~、悪い悪い。実はさ――」
私はレイカさんに、自分の事情を教えた。
すると、話が進んでいくにつれて何故だかレイカさんの顔が青くなっていく。そして全てを話し終えると――
「申し訳ございませんでしたぁあああ!!!」
「今度はなんだ!?!?」
レイカさんの本日二度目の土下座が披露された。
「いやいや! もう謝る理由なんてないだろ!」
「あの、実は、その…………配信、してたんです」
「なんて?」
「さっきの、エミリさんが歌ってる姿……私のチャンネルで配信しちゃってたんです!!」
「……へ?」
「じ、実は事務所の方針でダンジョン配信をやってみることになってっ。それで今日は初めてのダンジョン配信の日だったんです! それで、それで……申し訳、ありません」
……つまり、こういうことか?
さっきのゴブリン爆殺ライブが、絶対に私よりも登録者が多いだろうレイカさんのチャンネルで配信されていた、と?
なるほど……
「あ、あの。エミリ、さん?」
「……は」
「は?」
「はは――あはははははっ!!!!」
「エミリさん!?」
一度は希望が見えかけた私のイメージアップ作戦は――やはりとっくに、終わっていたらしい。
いかがでしたでしょうか?
今回は前の話から一転、ギャグテイストな話になりました。そしてあの謎の少女の正体は、現役の人気アイドルさんでした~! さて彼女が今後、エミリとどう関わっていくことになるのか!? そこも注目したいですね!
という訳で今日はここまで。また次回の更新をお楽しみに~! 次の更新は明日を予定しています!
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