第六話 ステージは一人じゃ作れない
お待たせしました!
ああ認めてやるよ。私の武器は歌だ。色んな意味で。
もしこのゴブリンの群れをどうにか出来る可能性があるとすれば……それは歌しかない。
だけど、今のままじゃ駄目だ。私のスキルでモンスターが爆散するのは、歌によって蓄積された『熱』が原因。だからなのか、直感的に分かる。ゴブリン共を殲滅するには、まだ――熱が足りない、と。
理由には検討がつく。さっきの曲はそもそも爽やかな曲調のものだった。ロック系などの熱唱系の歌じゃない。加えて集まって来たのは歌のほとんど終わり頃。それじゃあ熱の蓄積が足りないのも理解できる。
だから、このアンコール。思いっきり熱く、盛り上がれる曲が必要になる――
「……」
曲を再生しようとした指が、一瞬止まった。
私の胸の中には、この期に及んでまだそんな葛藤があった。
あのゴブリン共を倒す、つまり爆散させれば、これまでで一番ヤバい絵図らになるのは間違いないだろう。わざわざここまで来た目的、爆散イメージの払拭は当然おじゃんになる。
本当に、私がそこまでしてやる必要があるのか?
もし私がこのまま歌うのを止めたとして。私もあの子も運が良ければ、無事に逃げられるかもしれないじゃないか。ゴブリンの体内には多少の熱は溜まっている。それを解放すれば、怯ませるぐらいの効果はあるんかもしれない。その隙に逃げれば可能性は上がる。
巻き込まれただけの私が、他人を優先する意味なんて……
指を止めたのはほんの一瞬だった。
親指が画面を触れるか触れないかの距離。その一瞬で視界に入ったのは、あの女の子の姿だった。ボロボロで、それなのに逃げずにこっちをじっと見ている。私の勘違いかもしれないけど、その視線に宿っていたもの。それは、期待だった。
「っ……!」
私の指はいつの間にか、曲の再生ボタンに届いていた。
ふざけんなっ! 違う、そうじゃないだろっ!
私の憧れた歌手ってのは、そんな卑怯な奴じゃない!
歌で誰かの心を揺らし、感情を引き出し、そして夢を与える。そういうもんじゃないのかよ。他人を優先する意味がない? 何を馬鹿なことを言ってるんだっ。誰かを生かしてこそ、自分が生きる。その逆もまた然り。
自分一人だけで完結するような。そんな歌手になりたいんじゃない。私がなりたいのは、歌で誰かを救ってしまうような。そんな歌手だ!
大体……聞き手がいる状況で逃げ出す歌手が、どこにいるってんだよ?
「まだまだ、ここからだ。お前ら全力でついて来いよっっっ!!!!」
別にレスポンスを期待した訳じゃない。だというのに――
「「「「「グギャー!!」」」」」
「っ!!」
どうやら今日のオーディエンスはノリがいいらしい。ざっと数えて四、五十匹。小さな箱にも足りない数だが、腕ならしにはちょうどいい。これぐらいとびっきり盛り上げてやらないと失礼にあたる。
私は耳に付けていたイヤホンを外した。そして音楽端末とイヤホンの無線を切り、音量を最大にした。
――~~♪♪
前奏が始まり、それが丘を中心に辺りに響き渡る。
場を盛り上げて、オーディエンスと一緒に熱くなれる――そんなイメージに、咄嗟に浮かんできたのはこの一曲だった。
「ふぅー……」
爪先でリズムを取るのに合わせて、ゴブリン共の首が上下する。どうやらまだ陶酔効果は残っているらしい。前奏の間が唯一不安だったけど、心配はいらないらしい。私のスキルは未だ謎な部分が多いのだ。
それよりも。本来、この曲は応援ソングだ。ある意味、戦う者に相応しい曲でもあるんだが。けれど間違っても、誰かを攻撃するために使う曲じゃない。
――だから、応援してやることにした。
何をかって? そんなの当然、このゴブリン共が盛り上がるのをさっ!!
「――ここまでの努力は 一体なんのために」
この歌詞が身に染みる。これで今日の私の努力はパーになるのだから。本当、何のためにわざわざここまで来たんだか。でも
「――知った気になった結末で 目の前の景色がくらくらっ」
今この瞬間に私は生きている。だったら先を考えて悩むよりも、今を楽しむのが一番だっ。
それに今日ここに来る前に決めたじゃないか。
今いるファン層を、全て私の歌のファンに塗り替えてやるって。だったらイメージ戦略だとか、そんなセコイこと考えてる場合じゃ無い。
だったら一曲でも多く歌えッ。
それでもって、一人でも多くのファンを増やせッ。
その先にこそ、私のなりたいものがあるッ!
「――女神が微笑むのは 涙噛みしめ 歩き続けた者」
山場が来る……
「伝説になる――ガムシャラ、ソウルッッ!!」
「「「「「…………ッ!!」」」」」
――クソっ。やっぱりか。
ここで恐れていたことが起こった。この曲では「ガムシャラ、ソウル!」の後に聴衆が「ハイッ!」と合いの手を入れるシーンがある。このレスポンスがコミュニケーションとなって、歌い手も聴衆もさらに盛り上がれるのだ。
しかし……
当然だが、ゴブリン共がそれを知る訳がない。ひょっとするとスキルでどうにかなるかもと考えたが――現実はそこまで甘くないらしい。
そしてこの曲は、比較的短いのだ。およそ三分前後で終ってしまう。そして今、一番を歌いきった。単純計算で残りは三分の二。そして合いの手を入れるシーンも残り二回。
果たしてこのままいって、ゴブリン共を殲滅できるか?
どうにも不安が拭えない。確かにゴブリン共の熱は着々と蓄積していっている。しかし確実に倒すだけの熱量が溜まるかと言われると、分からない。まだ使い慣れていないこのスキル。感覚を掴むには、まだまだ練習が足りないのだ。
そうして二番が始まる。
「――それで全力を出し切ったつもりか」
今更ここで止まれない。失敗できないこの勝負、勝ってみせるっ。
ゴブリン共のノリは上々。身体全体を使ってリズムを取り始める。隣のやつと手を打ち合わせたり、その場でジャンプもしている。
だけど、あと一歩。もう一つだけピースが足りない感覚がある。それが非常にもどかしい。歌にそんな焦りが乗らないように気を付けて、全力で歌い続ける。
「――女神が微笑むのは 痛みさえも 受け止めきる者」
二回目が来る。
「伝説を知れ――ガムシャラ、ソウルッッッ!!!!」
やはりゴブリンに合いの手を入れる兆候は見えない。
やはり駄目だったか――そう思いかけたとき。
「――ハイッッッ!!!!」
張り上げた声が聞こえた。私とゴブリンしかいないと思っていた、このステージ。しかし違う。もう一人。この場にはもう一人、いる!
あの子に視線を向けると、まるで「私に任せて!」とでもいうような視線を返された。
はっ、頼もしいじゃん。
まさか歌手が観客に助けられるなんて。
でも。そんな考えは傲慢だったのかもしれない。ド素人の私が誰の助けも借りずに綺麗に場を収める。そんなの簡単じゃない。だったら誰かの手を借りたっていいじゃないか。それを気付かされた気分だった。
なら私は、それ以上のものを返さなくちゃいけない。
この場を完璧に決めてやる。
ゴブリン共。さっきのがお手本だぞ。しっかり、ノッてこいよ。これが最後だ。ここに今の私の全身全霊を込めてやる。
短い間奏が終わり、そしてその瞬間が、来る。
行くぜっっっ!!!!!
「――ガムシャラソウルッッッッッ!!!!!」
「ハイッッッ!!!!」
「「「「「ギギャッッッッ!!!!」」」」」
空気を揺らす合いの手の大合唱が、辺りに響き渡った。
その瞬間、この場の温度が一気に数度上がったような感覚を味わった。
全身が火照り、顔には滝のような汗が流れている。顎の先からぽたぽたと垂れる汗が、地面に吸い込まれた。今この瞬間に全身の力を使い切った、そんな気分。それなのに不思議と爽快感すらある。
あとは――
「さあ。アンコールはここまでだ…………弾けろ」
顔を上げる気力も無く、だけど確信してその言葉を告げる。
そして。
――パンッ! パンッッ!! パンッ!!! パパパーーンッッッ!!!
響き渡る破裂音は私の、いや私達の勝利の証。
あの女の子には、この光景はちょっと刺激が強すぎただろうか。もしかすると、酷い光景にもう逃げてたりして。せめてさっきのお礼ぐらいは言いたかった。あの子がいなければ、どうなっていたか分からない。
そして破裂音が聞こえなくなってから、私は地面に仰向けに倒れた。
雲一つない青空を見上げて、拳を突き出す。
「勝ったぜ……」
あー……疲れた。今日もあそこの銭湯に血を流しにいかないとな。
いかがでしたか?
今回は戦闘シーン?に丸々注ぎ込んだ形になりました。ちょっと文字数少な目かも? でも書きたいことは書けました。もっと文章力とか表現力があればとも思いましたけど……
とにかく! そんな感じでVS集団ゴブリン戦、決着!
さあ次はどうなるのか? あの女の子の正体もまだ分かってない! 次回でそれは判明する?!
という訳で次の更新をお楽しみに! 次は明日を予定しています!
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