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歌手志望のダンジョン暮らし―【爆殺歌姫】は今日も歌でモンスターを爆破するー  作者: ミジンコ
第一章

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第五話 イメージ改善のために

お待たせしました!

 自分がバズるなんて永遠に、いや当面は無いと思っていた。

 まずは歌手になって。事務所に所属して。それからコツコツ仕事を重ねていって――バズっていうのは、その先にあるものだと思っていた。


 にも拘らず……


「マジかよ……」


 スマホの画面を一目見てから、今度は上を見上げてそう零す。


 もう何度同じことを言ったか分からない。何せ現実感が無さ過ぎる。今になってもまだこれは夢なんじゃないか?、とすら思っている私がいた……頬を抓ると痛い。間違いなく現実である。


 動画に残されたコメントを読んでみた。


 書かれていた反応の多くはおよそ二通り。

 一つは私の歌に対するもの。もう一つは最後に起こったモンスターの爆散に関してのもの。


 前者はまだいい。沢山の人に歌を聞いてもらって、様々な意見、感想を聞くことができる。例えば「めっちゃ熱くなる歌い方だった!」という好意的なコメントもあれば、「音程ズレまくり。技術は微妙」という辛口なコメントまで。


 褒められるのは嬉しいし、マイナスな感想が出るのは今後の参考になる。私自身、今の自分の歌を完璧と思ってる訳じゃない。特にどの部分が気になったとかのコメントは非常に参考になる。


 一方、問題は後者だ。


「モンスターの爆散って……そんなに面白いか??」


 ちょっとグロいか?と心配したのを嘲笑うように、何故かコメントのほぼ大半はそっちの話題で盛り上がっていた。それも私の行為を非難するようなものじゃなく、むしろ楽しんでいるようなコメントばかり。


 ただ書き方から何となく分かったのは――視聴者層が二つだということ。


 一つは純粋に私の歌を楽しんでくれている視聴者層。

 もう一つは、最後のシーンを面白がっている視聴者層。


 想像だけど、最後のシーンに関するコメントを残したのは、冒険者かそれに詳しい人なんじゃないかと思っている。


 今のところこの二つの層の割合は、歌と爆散で3:7ぐらいだろうか。


 いや、うん。インパクトが強いってのは分かる。


 分かるけどさ……


「――んだよっ! モンスターの爆散なんてどうでもいいだろ!? もっと、私の、歌を、聞けよっっ!! 動画のタイトルだって『歌ってみた』だろ! モンスター爆散してみたじゃねえだろ!! 誰が『これが本物の音爆弾www』だ! この野郎ぉおおおっ!!」


 実に納得がいかない。

 

 悔しい。私としてはモンスターの爆散なんてオマケのつもりだったのに、そのオマケの方が注目を集めている。そんなどうでもいいことに構ってないで、私の歌に集中しろよと思ってしまう。


 だけど――


「…………これも。私の歌が未熟な証拠、て訳か。くそっ」


 完全に後半のインパクトに食われた形になっているのが現状だ。どんなに足掻いたところで、既に出てしまったものが変わることは無い。


 なら、これから私に出来ることは一つ。


 残りの七割を全員、これから私の歌のファンにすればいい。


 最初はどうだろうが、最後にそうなっていれば私の勝ちだ。むしろこれはチャンスだと考えればいい。


 意図してない形だけど、私の知名度は確かに上がっている。昨日まで無名だった私が、一晩で知名度という武器を手に入れたのだ。これを利用しない手は無い。


「ここからが勝負だっ。今いる登録者を離れさせないようにしつつ、冒険者の層もまとめて歌で寝返らせる! いいねえ。ちょうどいい目標が出来たじゃん」


 まずはこのコメント欄を歌に関するもので一杯にしてやる。

 それで私が色物冒険者じゃなくて、ちゃんとした歌手志望なんだって全員に思い知らせてやるんだ。


「そうと決まれば歌うしかねえな!――と。さすがに場所は変えるか」


 ここで歌ったとしても、昨日の二の舞になるだけ。まずは一本、モンスターの乱入が無い動画を撮って様子を見たい。となれば、なるべくモンスターが少なそうな場所に移動する必要がある。


 スマホで代々木ダンジョンの情報を検索すると、都合の良さそうな場所がすぐにヒットした。


 配信道具を持って、すぐにそこへ移動する。


 朝飯は移動の途中で、昨日炊いたご飯をおにぎりにして食べた。中身は昨日、銭湯の帰りのスーパーで買った梅干し。結局これが好き。ツナマヨもいいけど、作るのが面倒なのだ。


 そうしてやって来たのは第二階層の丘。ぐるりと囲むように木々が生えている。


 一見すると目立つように見えるこの場所。しかしどうやらモンスターの出現率が低いらしい。かといって何か特別な採取物がある訳でもない。理由は書いていなかったけど、冒険者には不人気スポットなのだそう。


 だがしかし。私にとっては好都合。モンスターがいないなら、人も寄ってこない。歌を録音するのには、ちょうどいい環境だ。


「カメラは、ここでいいか。ん、傾くな。ならこっちで――よし」


 カメラをセッティングしつつ、何を歌うかを考える。


 勢いで飛び出してきたから、まだ考えていないのだ。


「ふむ……」


 昨日歌ったのは、どれもアップテンポな曲だった。ひょっとしたら、それも影響があったのかもしれない。激しい曲で盛り上げて、最後にあの爆発。ライブでいえば、最後に飛び出す銀テープの大砲みたいな。


 だとするなら、今日はがらりと雰囲気を変える方がいいか?


 ゆっくりと、のんびりした気持ちで聞くことが出来る曲。それを歌った方が、私についた物騒なイメージを払拭できるかもしれない。


 頭の中に何曲か候補が浮かんでくる。


 それから周りの景色を見渡した。


 こんな開放的な場所で歌うのにしっとりした曲は合わないだろう。どちらかといえば、爽やかな曲調の方がいい。


 であれば――決めた。今日はあの曲にしよう。


「ふぅー……始めるか」


 私は遠隔で、スマホの配信をスタートにした。


「どうも。初めまして。()()を目指してる甲本エミリです。最初に言っておきます。今日はモンスターの爆散とかはありません。それを目的に見に来たのなら、最初に謝っておきます。すみません」


 これでよし。


「あと、私のチャンネル登録者が一晩でとんでもないことになってました。なんつーか、その、驚いてます。もちろん嫌な訳じゃありません! ありがとうございます! 今日はその感謝の気持ちを込めて歌います――それじゃあ、いきます」


 これまでと同じように、曲をスタートさせる。


 今回選んだのは『アイムウィンド』という曲。明るく、そして爽やかに。自転車にのって走り抜けていくような爽快感のある曲調。ちょっぴり恋愛要素も入ってる。私に言わせれば、聞いてくれる人達全員が恋人、なんてな。


 ……絶対に声に出して言わないようにしよう。恥ずかしくて死ぬ。


 前奏は最初は静かなバイオリンと、ウクレレの打ち込み。そしてふにゃっとした感じから始まる、文字通り流れる風のような旋律。


 まさにこの場所で歌うのにピッタリだ。風が吹き始めたような気さえする。


 この曲はあのスタジオ・アニマの映画『犬と女子高生と不思議の国』の主題歌として使用されている。大人から子どもまで誰もが楽しめる作品だ。


 かくいう私のあの映画は好きだ。特に、最後の女子高生とその母親のちょっとしたやり取りに思わず笑ってしまったのを覚えている。


「――思い出して空見上げて」


 力強さよりも、意識するのは爽やかさだ。その方が曲に合ってるし、何より私のイメージ払しょくのために必要。気を抜けば力が入りそう、などと変かもしれないが意識して歌う。


「――一つしかない心」


 もうすぐ一番のサビに突入する。


 だというのに、今のところモンスターの影は無い。今までならとっくに数体のモンスターが顔を覗かせていたというのに。


 これは私の思惑が成功したということだろう。


 自分の発想の勝利に思わず、笑みが零れる。


「――光照らすあぜ道を♪」


 順調、順調。このままいけば宣言通りに、モンスターの影無く録音を終えることが出来るはずっ。


 ――なんて考えたのがいけなかった、のかもしれない。


 それは歌が二番が終わり、間奏に入ったときに起こった。


 丘を囲む木々の影から、ぬっと何かの影が覗いたのだ。


「っ――」


 まさか無いだろうと思っていたことだけに、少しだけ顔に出てしまった。すぐに開きそうになった口を閉じる。


 その影の正体はモンスター――ゴブリンだった。


 全身が緑色で、子どもぐらいの背丈のモンスター。そしてリスやウサギのような獣とは違う()()()()()()()()だ。


 もし……もし、だ。


 人型のゴブリンなんかを爆殺しようものなら。私の悪評は止まるどころか、さらに広まってしまうかもしれない。それこそコメントにあった不名誉な渾名『爆殺歌姫』が定着してしまうかも。


 ――それだけは何としても避けなければっ!!


 あの一体だけなら問題無いはずだ。この間奏が終われば曲の終わりはもう少し。およそあと一分から二分ほどで歌い終える。あの距離ならそれぐらいは稼げるはず。歌い終わったら即効で録音を止めて逃げればいい。


 私はカメラにモンスターが映らないよう、歌いながら微調整を行う。どうせ逃げるならいっそと思い、三脚からカメラを外して手持ちにしながら歌うことにした。


 間奏が終わる。


 もう少し、あと少しだっ。


 ……だがしかし。私の希望は脆く崩れ去る。


 木々の隙間から一体、また一体と他のゴブリンが現れ始めたのだ。その出現は止まることなく、次々と湧くように出てくる。その数はとっくに過去最多を更新している。ざっと数えた感じ、もう三十体は超えていた。


 幸いなのは、ゴブリンが現れるのは一方向からのみだということ。


 逃げ道は確保できている。


 これなら――そう思ったときだった。


 ゴブリン達の後ろに別の誰かの姿が見たのは。


「っ――!?」


 その存在と視線が合う。それは人間の女の子だった。その顔にどこか見覚えがある気がしたが、思い出せない。そっちに考えを割いている場合じゃなかった。


 なんでこんなところに!?、と思ったがその様子を見て何となく悟る。その子の装備は薄汚れ破損している箇所があった。それにその子自身にもあちこち傷があるように見える。


 間違いない。あの子はこのゴブリン共に襲われていたのだ。それもこの丘の近くで。


 だとすればもし、私がここで歌うのを止めれば。ゴブリン共の敵意は再びあの子に戻るだろう。果たしてあの傷で逃げ切ることは出来るだろうか?……分からない。私は冒険者としては、ペーペーもいいところなのだ。


 じゃあ逃げるのではなく、あの子と共闘するのはどうだ?


 ……それもダメだ。私はまともに戦闘なんて出来ない。多勢に無勢。大した戦力にならないだろう。


 どうする? 歌っている間は、ゴブリン共を私に引き付けて置ける。だがあの子に「逃げろっ!」と言おうものなら、陶酔効果が切れて襲い掛かって来るだろう。

 

 どうするっ?


 どうするっ!?


 どうすればいいんだよっっ!!


「――巡り合えたこの幸福」


 曲が終わる。


 もう迷ってる暇は無い。


「願うように~……」


 終わる瞬間、私は横目で音楽端末を操作する。


 しょうがねえ……そのアンコール。応えてやるよっっ!!!

いかがでしたでしょうか?

前回までをプロローグとして、ここから第一章が始まります。開幕早々にピンチ?に陥ったエミリっ。ここから何を仕出かすのか? アンコールとは!? そして新たに登場した女の子の正体は!?

気になる部分が多い!

という訳で、また次回の更新をお楽しみに! 次は明日の更新を予定しています!


また読んでみて面白い・続きが読みたいと思ってくださったら、ブックマーク・評価・リアクション(感想も)してくださると嬉しいです。執筆の励みになります! よろしくお願いします!

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