第三話 思いがけないバズ
お待たせしました!
よろしくお願いします!
と、その前に昼飯を済ませることにした。
サッとダンジョンを出て近くのコンビニに行き、おにぎりを二つとペットボトルの水を買う。節約を考えるなら自炊をすべきなんだろうが、今は少し時間が惜しい。
腹も減ってるけど、それ以上に歌いたくて仕方がなかった。
「お願いします……」
「お会計四百七十三円になります――ありがとうございました~~」
「……」
夕飯はちゃんと作るから、と誰かに言い訳をしながら会計を済ませた。心なしか人目が気になったから、店員さんの顔を見られなかった。別に悪いことをしてる訳じゃないんだけどな。
ダンジョンに戻りながらおにぎりを食べ、テントに着くと早速歌の準備を始めた。
さて選曲はどうしようか……
今日は私の歌手人生の始まりの日。そんな始まりに相応しい曲が良い。
「――うしっ。これにするか」
そう考えて私は、とあるアニメの主題歌を選曲した。
置きっぱなしだった三脚にスマホを取り付ける。下がって印をつけた所を探せばすぐに見つかった。念のためにカメラの映りを確認する。特に問題無く、しっかりと私の全身が映っていた。
そうして所定の位置に立ち……そういえば、配信を始める前の口上を考えてなかったことを思い出す。
さっきは勢いに任せて、適当にやってしまったから今度はちゃんとしたい。名前と、あと何を言えばいいだろう。意気込みとかはあった方がいいだろうか。メインは歌だから、あまり長くても仕方がないし。
少し考えた末、配信をスタートした。
「ど、どうも。初めまして。歌手を目指してる甲本エミリです。今はダンジョンの中に住んでます。えっと、今日は私が東京に来た最初の日で、歌手への道の日でもあって。それで…………歌いますっ!」
やっぱり止めた。無駄に言葉を重ねるより、歌った方が手っ取り早い。
端末を操って曲を流す。耳元に流れてくるのは、軽快な打楽器の音。その後に続くのは勢いのいいシンセサイザー。否が応でも、曲の期待感を高めてくれる。そして管楽器がそこに華やかさを足していた。
私の歌手人生という『冒険』の始まりに、これ以上の曲は無いだろう。
そして最初のフレーズが来る。
「――散らばった夢を追いかけて」
このアニメは漫画が原作だ。舞台はダンジョンのある異世界。そこで全てのダンジョンを踏破した者『ダンジョン王』を目指して冒険する少年の、王道バトルファンタジー。
その名を『ザ・ワン・ロード』。
日本のみならず、世界中で愛される日本を代表する漫画・アニメの一つだ。
これはそんな大ヒットアニメの一番最初の主題歌。少年少女の心のみならず、大人さえ虜にしてしまう。そんな魅力をこの曲は秘めている。歌に老若男女なんて関係ない。そう言われているような気さえする。
そうしていると予想、というより期待通り。モンスター共が集まって来た。さっきもやって来たリスに加えて、今度は角の生えたウサギのようなモンスターもいる。
スキルでモンスターだけを指定したつもりだったが、きっちり効果はあったらしい。
こうして収入源が集まって来るのは、大歓迎だ。
気合を入れ直して歌を続ける。
「――冒険の道はどこまでも」
そしてさっきと同じよう、徐々に包囲網を狭めてくるモンスター共。
尻尾や耳、身体を揺らしながら私の歌を聞いている。
歌は続き一番、二番とあっという間に流れ、いよいよクライマックス。
最後の三連発が、これまた気持ちいいのだ。
「――ワン・ロード!!」
「「「「「……っ」」」」」
私が片腕を突き上げると、それに応じるようにモンスターたちが跳ねる。
「――ワン・ロードッッ!!!」
「「「「「……ッ!」」」」」
まだまだ足んねえぞ!という気持ちで更に力強く腕を振り上げる。それに応えるようにモンスターもさっきより高く跳ねる。
そして最後。ここで全ての力を出し切っていけっ、と全力の感情を込める。
「――ワン・ロードーーーーッッッ!!!!!!」
「「「「「……ッッッ!!!!」」」」」
その瞬間、ジャンプしたモンスターたちの身体が弾け四散し、辺りに血の雨が降り注ぐ。
「……やっぱ、グロイな」
でも致し方なし。これぐらい我慢しなければならない。
そうして、それからもう二、三曲歌っているうちにモンスターの数がかなり減った。おそらく近場のモンスターはほぼ倒したのだろう。だから今日はそこまでにした。
夕飯時まではまだ時間があった。だから汗を流しに行くことにした。あとモンスターから飛び散った血をいい加減流したい。拭くだけだと、まだ鉄臭い気がする。
ダンジョンを出て向かったのは、近くにある銭湯。代々木公園から歩いて十分そこそこの場所だ。
「す、すげぇ……」
その銭湯は、下町の湯屋って言葉を体現したみたいな場所だった。地元の銭湯は行ったことあるけど、やっぱり違う。
茨城はどっちかと言えば田舎だから、銭湯もそこそこ大きい。だけどここは、家や店が立ち並ぶ狭い町の一角にポツンとあるのだ。これはこれで風情がある。
風呂場に入れば、正面にデカデカと書かれた富士山が出迎えてくれた。
「ふぅ~……気持ちぃ」
思えば今日は、早朝も早朝から動いていた。気付かないうちに身体に疲労が溜まっていたのかもしれない。湯につかると、まるでそんな疲れが溶けていくみたいだった。
下町の銭湯を存分に満喫した後、別の服に着替えて、着てきた服は銭湯の表にあった洗濯機で洗った。乾燥は、ダンジョンの中に干しとけばいい。あそこは夜が無いからすぐに乾くはずだ。
帰りの途中で、スーパーで夕食の食材を買い込んでダンジョンに戻って来た。
「えっとなになに。飯盒に水を米を入れて――浸水? 三十分もかかるのかよ!? 早く言ってくれよなぁ」
などと文句をたれながら、夕飯の準備を進める。
これらのキャンプ道具は、今日この日の為に溜めた貯金を使って揃えた。魔石式の小型冷蔵ボックスとかも買ったから、お陰で一文無しになったけど。これもいつか歌手として稼げるようになるその日までの我慢だ。臥薪嘗胆だ、エミリ。
出来上がるまでの間、昼間に録音した歌のチェックをする。
「ちっ。まだまだ、だな」
やっぱりまだまだ音程の甘い部分も多い。アクセントやビブラートなど、自分がやったつもりの部分が聞き取りづらい部分もある。それをメモしつつ、スキルは使わずにその部分を練習し直した。
ただ、どうしても一人でやるには限界がある。
歌手を目指してると言っても、今の私は素人だ。気付ける部分や直せる範囲にも限界がある。となれば、早急に歌の先生を探す必要がある。明日はそっちを調べてみよう。
そんなことを考えているうちに、夕飯が出来上がる。
作ったのは――カレー。ご飯は炊いた。カレーはレトルトだ。これが一番簡単で安いってネットに書いてあった。別にカレーは嫌いじゃ無いし、暫くはこれで我慢する。
「まあ、普通に美味いしな」
そうして夜。事前に準備してあったモンスター避けの結界を作る道具を起動。テントに入って、暫くだらだらしてから私は眠りに落ちた。
翌朝。私はスマホがブーブーと振動する音で目が覚めた。
「……ん」
寝袋から手を伸ばし、スマホを掴む。その間にも振動は鳴りやまない。
アラームをかけた覚えは無い。だとすれば誰かからの電話のはず。親は着信拒否にしたはずだから……あるとすれば、地元の親友たちか。
そう思いながらスマホの画面を見ると、そこに表示されていたのは電話の画面ではなかった。いつも通りのロック画面。しかしそこを凄まじい勢いで何かが流れている。
おぉー凄い、と思いながら画面を眺めること暫く。
「――何事だっ!?」
ようやく回転し始めた頭で、その異常を認識した瞬間飛び起きた。
「は? はっ? 何が起きてんだ!?」
慌ててロックを解除し、通知の正体を確認する。
するとそれは、動画視聴・配信の一つのアプリから来ている通知だった。今もなお次々と画面上にバナーが表示され、アプリアイコンの未読数を示す数字が増え続けている。それはとっくに百を突破していた。
何がなんだか分からぬまま、配信アプリを開く。
「う、うそだろ……」
漏れたのは、掠れそうなそんな声だった。
無理もないことだ。昨日までは十人ほどだったチャンネル登録者数が爆増しているのだから。カウンターは止まることなく、数字は上昇を続けている。
「一、十、百、千……」
数えるのが怖くなって画面をなぞる指を止める。しかし意を決して、再びカウントを始めた。一万より一桁上。つまり――
「チャンネル登録、十万人……」
その桁を見た瞬間、思わず「ははっ……」という乾いた笑いが漏れた。
それを現実のものとして認識することが出来なかった。だって、なぜ昨日までは地元の友人たちぐらいしかいなかった登録者が天文学的数字に跳ね上がる? こんなのあり得ないだろ?
しかし、何度数え直してもその桁数に間違いは無かった。
チャンネル登録者数、十万人越え。
「や、やったぜ」
口元が引き攣るのを感じつつ。
私はこの日、初めてバズるという経験をした。
いかがでしたでしょうか?
これにてプロローグ部分である三話の締めです。バズる瞬間まで書くことが出来ました!
エミリのバズは一体どんな影響を巻き起こすのかっ。また続きをお楽しみに! 次回の更新は明日を予定しています!
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