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歌手志望のダンジョン暮らし―【爆殺歌姫】は今日も歌でモンスターを爆破するー  作者: ミジンコ
第一章

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第十二話 傷つき、倒れ。そして、気付く――

お待たせいたしました!

 植物の集合体。根っこの化け物……


 そう表現するしかないようなモンスターだった。


 下膨れの形をしており、膨らんだ球根のような部分に大きな口がある。球根から太い根が一本上に伸びて、その一本から沢山の側根が伸びている。まるで木のようだが、葉は一枚もついていない。その代わりに、天辺に生えているのが、私が赤く染めてしまった元白い花々だった。


「――っっ!?」


 大きな口が開いたかと思えば、悲鳴のような、金切り声のような異音を辺りに響かせる。


 頭を揺らすような音に、思わず耳を塞いだ。


 開いた口の中には、まるで肉食動物のような鋭い歯が見えた。植物なのに歯があるなんてあり得ない――が、モンスターである以上、普通なんて存在しない。捕まった時のことを考えると、背筋がぞっとした。


 ――こいつは、ヤバい……


 そのモンスターを見た瞬間、逃げるべきだ!と頭が訴えてきた。


「……っ!!」


 だから私は、即座にその場から逃走した。


 何度も言うが、私には戦闘力なんてもんは備わってない。皆無といってもいい。何せモンスターと戦う為じゃ無くて、ここに住むために資格を取ったぐらいだからな。自慢じゃないが、このダンジョンでまだ一度も、武器を抜いたことすらない。


 あんな恐ろし気なモンスターとなんて、戦えるかってんだ! 

 逃げるが勝ちっ! 

 起こしちまったのは謝るから、ここは見逃してくれっ!!


 だがしかし。


 相手は完全に、標的を私に定めたようだった。逃げる私を追いかけてくる。あの身体でどうやって走っているのかと思えば、球根の下に生えた根っこを高速で動かしているらしい。土埃を巻き上げながら「ドドドドドッッッ」と地響きを鳴らしている。


「はぁ、はぁ――くそ!! こっちは走るの苦手なんだぞっ!!?」


 そういえば三脚もスマホも置いてきちまったし! 

 壊れてたら弁償してくれるんだろうな、チクショウ!


「――? ――!」

「――?」

「――! ――!!」


 逃げていると、進む先から人の話し声が聞こえた。


「っ!――ちっ」


 だから、慌てて進行方向を変える。


 レイカさんが言っていた。他の冒険者がいる場所にモンスターを引き連れたまま突撃するのは、マナー違反だと。たしかモンスタートレインといったか。先日の事件があったのに、私がそれを破る訳にはいかない。


 そうして人の気配を感じる度に、右へ左へ進路を変えて――逃げ続けた果てに私は、地面に大穴が空いた場所。元の花畑があった場所に戻って来てしまった。


「はぁ。ホント、しつこ過ぎんだろ……。はぁ、はぁ……どんだけ怒ってんだよ、アイツ……!」


 考えてみれば、私はアイツの頭の上で歌ってた訳だ。しかも頭の上に血の雨を降らせるってオマケ付きで。


 確かに私だったら、ブチ切れるかもな……


 寝ていたところに血をぶっかけられるとか、最悪のドッキリ過ぎる。


「でもさあ。こんだけ追いかけ回したんだから……そろそろ許してくれてもいいんじゃねえか?」

「キャィイイイイイイ!!!」

「……駄目かよ」


 どうやら、相手の怒りはまだ収まっていないようだ。


 さてどうするか?、と辺りを見回すと、さっき落としていったスマホと三脚が目に入った。


「……やっぱり私には、歌しかねえかっ――」


 怒れるモンスターを歌で鎮めるなんて。まるで漫画とかの巫女さんみたいでいいじゃねえか。まあ、私の場合は鎮めるじゃなくて、沈めるだけどな。


 流すのはさっきと同じ曲でいいだろう。


 私はモンスターと睨み合いながら、後ろ手で音楽端末を操作する。


 すると、辺りに音楽が鳴り響き始めた。


「キィイイイイイイ!!!」

「うわっと!?」


 それが気に入らないのか、根っこの一本を鞭の様に伸ばして私目掛けて叩きつけてきた。転がるようにそれを避けて、曲の入りを逃す。「くそっ」と悪態を吐きつつ、立ち上がりながら少し遅れて歌を始めた。


「――……それがっ、お前の気持ちなのか」


 歌い始めるが、まだ変化は見られなかった。


 変わらず繰り出される攻撃を何とか避けて。それでも歌を止めることなく、ヤツにスキルの効果が出始めるのを待つ。


 だがしかし――


「――不安だったら この歌を聞けっ!!」

「キャィイイ!!!!」

「――ッッ!?」


 一番を歌い終えても……


 ヤツからの攻撃は、止むことがなかった。


 ――どうなってやがる!?


 これまでのモンスターなら、もうとっくに陶酔効果が現れてるはずだろっ。なのに何でコイツは普通に動いて攻撃してくるんだよ!? まるで止まる様子がないじゃねえか!!


 そうなのだ。目の前のモンスターは、何故か私の歌が通用しなかった。


 攻撃を避けながら歌うのは、非常に体力を使う。ここに戻って来るまでもかなり走らされた。それに今日はレッスンを受けてきた後でもある。


 正直言って。体力的にはもう、限界が近かった。


 ――まさか……植物だから、歌が通じないとでも言うのか?


 これまでに歌を使って倒したモンスターは、そのどれもが獣型か人型だった。植物の特徴を持つモンスターとは、これが初めての遭遇だ。だから知る由も無かった。


 私のスキルに、こんな欠点があるなんて……


「あきらめたら負けさ、いつだって――がはっ!?!?」


 そして、ついに恐れていた瞬間が訪れた。

 

 鞭のように振るわれる根を避けようとして、足をもつれさせた。その結果、私は直撃を受けてしまった。咄嗟に腕で受けたが、その程度で威力を殺せる訳もない。


 私の身体は弾かれたように吹き飛ばされ、地面を何度もバウンドし、転がって。


 それから少しして、止まった。


「ぁ……」


 全身が痛い。特に右腕は焼けるように痛かった。攻撃を受け止めた方の腕だ。どうなっているのか、想像すらしたくない。


 辛うじて意識は保っているが、目の前の景色がチカチカしていた。


 今、自分がどんな状態なのか分からない。


 けれど。このまま立ち上がらなければ、あのモンスターに殺されるのだけは分かる。


 だから――


「ぐ、ぎっ……ふっ!」


 何とか身体を起こした。


 こんだけイジメたんだから向こうも満足だろうと思った。だけど、そうはいかないらしい。吹き飛ばされた私の方へ、ヤツが向かってくるのが見えた。根っこは縦横無尽に荒ぶっている。


 次に攻撃を受けたら、間違いなくお陀仏だろうな……


 まったく。調子に乗って三階層まで来たのが間違いだったか。しっかり身の程弁えて、二階層ぐらいで止めときゃよかった。ていうか、まさかスキルが通じないモンスターがいるとは思わなかったよなあ。感覚的には、アイツの身体に熱が蓄積してると思ったんだけど――


 そこまで考えて、私は自分の思考の違和感に気付いた。


 熱が蓄積してた……?


 こんな感覚は初めてだ。アイツに蓄積してる熱が、何となくだけど、分かる。多分、この感覚はスキル由来のもののはずだ。なら間違いとも思えない。この感覚を信じるなら――


 ――ヤツの身体には、しっかりと熱が蓄積している。


 スキルは通用しないんじゃなかったのか?

 熱は溜まるのに、陶酔だけ効果がない?

 どういうことだ?


 痛みの所為で、碌に回らない頭で考える。


 ……だからだったのだろう。


 私は、後から考えれば脳筋過ぎる考えに思い至った。


 ――あぁ……足らねえんだな


「なる、ほどな……」


 そうか。効果が無い訳じゃねえんだ。ただアイツにはいつもの歌い方じゃ足りなかっただけの話だ。


 なら、歌ってやろうじゃねえか。


 ()()()()()()()の為に。


 今日のステージは私と、そしてアイツだけの特別ステージ。


 確かに、何千人に声を聞かせるよりも。たった一人の感情を震わせる方が、難しいのかもしれない。さっきまではただ漠然と、広い対象に聞かせてやろうと思って歌っていた。だけど今はその必要は無い。


 アイツだ。アイツだけでいいんだ。


 アイツの魂を震わせて。それでもって、私の歌で落としてやる。


「ハッ。分かりゃあ……簡単なことじゃねえか――なあ。そんなに、慌てないで……もう一曲ぐらい、聞いていけよ。損はさせねえからさ」

「キャィイイイイイ!!!!!」

「いいね……温まってる、じゃん」


 だがしかし。


 さっき吹き飛ばされたときの衝撃で、音楽端末が壊れてしまっていた。どうりで音楽が止まっていたはずだ。


 すると、近くに私のスマホが転がっているのが見えた。三脚の下の部分はどこかに吹き飛んでしまったのか、無くなっていた。拾い上げてみると、スマホの電源はまだ生きていた。それどころか――


「おい。まだ録画してたのかよ」


 思い返せば、歌が終わった直後にあのモンスターが出現した。それからすぐに逃げ出して、録画を切る暇も無かったはずだ。


 こっちのスマホでも、録画を切れば曲を流すことは勿論できる。


 だが――


「あー、まあいっか」


 どうせ歌はアカペラでも歌える。むしろ今は、今の私の歌がどうなっているのか知りたい。何だか、これまでに無かった何かが掴めそうな気がするんだ。これを記録に残さないなんて、そっちの方が勿体ない。


 それからスマホに向かって「ちゃんと見とけよっ」と誰に向けるでもなく笑いかけ、そっと地面に置いた。転がって来た土の塊に立てかけ、私の姿がよく映るようにして。


「すぅー……行くぞっ」


 三度目の正直。やるのはさっきも歌ったあの歌。


 こいつで今度こそ、アイツに私の歌を喰らわせてやるっっ!!!!

いかがでしたか?

念のため補足しておくと、エミリは端末を二台使っています。音楽専用の端末と録画・録音用のスマホですね。

まあそれはいいとして、この一章もいよいよクライマックス。たった一人のために歌うことを思いついたエミリ。果たしてその考えは、強敵に通用するのか!? 無事にモンスターを爆散させることが出来るのか!? 続きは次回!


次の更新は明日を予定しています! ぜひお楽しみに~!


また読んでみて、面白い・続きが読みたいと思ってくださったら『ブックマーク・評価・リアクション』などをくれると嬉しいです! 執筆に励みになります!

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