閑話 あの日の出会い
お待たせしました!
読んでみて面白い・続きが読みたいと思ったら、ブックマーク・評価・リアクションとか感想をどしどしください! 執筆の励みになるので!
私、姫川玲華は思い返していました。
忘れられない、その日の出来事を。
その衝撃的な出会いを――
「ダンジョン配信、ですか?」
「そうよ」
マネージャーからそんな話をされたのは、数か月ほど前のことでした。
「今はアイドルも飽和している。昨日までのトップが今日の検索圏外になるような時代よ。だからこそ、貴女達『クラルテ』も油断していられない。もう一歩、周囲に先んじるような物が必要だと思ったの」
「それがダンジョン配信ということですか?」
「ええそうよ。ダンジョンで配信をするという行為自体は、これまでにもあった。だけどそこには、どうしても血生臭いイメージが付きまとっていたわ。でもね。最近は、そこにも多様性が生まれたの。例えば――」
マネージャーの話をまとめると、冒険者×アイドルという新ジャンルにチャレンジする、というものでした。
確かに。今も昔もアイドルは層が厚い。ローカルアイドルや、地下アイドルなど様々な形があります。アイドルの人口というのは、大小合わせると想像するよりもずっと多い……
その中で輝くためには、周りとは違う何かが必要という部分は納得できます。しかし、それがわざわざダンジョンである必要はあるのでしょうか?……私はそこが疑問でした。
そもそも冒険者とアイドルは両立できるものなのか。
歌って踊れる、運動ができる、勉強ができる――これらとは訳が違います。
例えるなら、アマゾネス?でしょうか。申し訳ありませんが、私は冒険者をしている女性にそんなイメージを持っていました。自分でも偏見が過ぎるとは思っていたのですけどね。
ふふっ。今となっては、それが大きな間違いだったと気付かされました――
「面白そうじゃないですか。その話、ぜひ受けさせてもらいましょう!」
けれども。そんな私の心配をよそに、我らがリーダーは乗り気の様子でした。
「ちょっと、オウカさん……そういうことは、決める前に私達に相談してっていつも言ってるでしょ!」
「なんだよいいじゃないか。実は冒険者には、前々から興味があったんだ。怪我する訳にもいかないから遠慮していたけど、事務所がやってくれと言うなら否やは無い!」
「はぁ? 全くこれだから……」
リーダーはいささかアグレッシブ過ぎる面があります。私を含めた他の四人のメンバーは、それに困らせられもするし、時には助けられもしました。ですから、呆れはしても本気で嫌がっている訳ではありません。
とはいえ、冒険者になるのはそう簡単な話でもありませんでした。
それから何度かメンバー、マネージャー、そして事務所で話し合いを行いました。そして色々と条件が付けられたものの、私達はアイドル兼冒険者としても活動を行うことになったのでした。
私としては……不安はあったものの、決まった以上否やはありません。
資格の勉強は少し大変でした。学業、アイドル業に加えてですから、さすがに。それでも他のメンバーと協力しながら、何とか資格を取得することが出来ました。
そして、今日。
初めてのダンジョンに挑むことになったのです。生憎と他のメンバ―は予定があって私一人で行くことになりましたが、私にはさして不安もありませんでした。勉強も講習も受け、私には勿体ないほど強力なスキルも手に入れましたから。
しかし――
「はぁ……はぁ……!」
そんな考えが油断に繋がったのかもしれません。
私は探索の途中、ゴブリンの集落を発見しました。見たところ数は十にも満たない、おそらくは五匹ほど。そこに至るまで苦戦らしい苦戦をしなかったことも、やはり慢心を招く要因だったのかもしれません。
:早く逃げて!!!
:だから言ったのに!だから言ったのに!!
:今そんなこと言っても仕方ないだろうがっっ
:そんなことより早く逃げて
:帰って来る部隊と鉢合わせとか最悪過ぎるだろ……
:死なないでレイカ様!!
そう。集落にいたゴブリンは何とか倒しきることが出来ました。しかしそれと時を同じくして倍、いえ三倍、四倍以上のゴブリンが集落に戻って来たのです。多勢に無勢。敵わないと思った私は、逃走を選択しました。
しかし。いつからそこにいたのか――私が逃げた方向からも、別のゴブリンの群れがやってきました。さらに膨れ上がったゴブリンの群れは、もはや私の手に終える範囲をとっくに超えていました。
逃げても逃げても追って来る、ゴブリンの群れ。
飛んでくる弓矢。振るわれる棍棒。聞こえてくる汚い声。
追われる中、私は身も心も徐々に疲弊していきました。せめて誰かを巻き込まないようにと、第二階層で冒険者がよりつかないと噂の丘の方へ走り……そこで限界を迎えました。
「っ……!?」
疲労した足をもつれさせて、ついに転んでしまいました。すぐにでも立ち上がって逃げなければいけない。だというのに、身体は言う事を聞かず。もたもたしている間に、とうとう私はゴブリンに囲まれてしまったのです。
「ゲギャッッ!!」
「っ……!」
追い詰められた。
そう思った瞬間のことでした。
――~~♪
「え……?」
どこからか、歌が聞こえたのは。
でもそんなはずありません。だってここはダンジョン。わざわざダンジョンで歌うなんてあり得ませんっ。それこそモンスターでもなければ……
――~~♪♪
けれど。私がどれだけ死に際に見る幻覚だと言い聞かせても、その歌は鳴りやみませんでした。
それどころか不思議なことが起こったのです。
「「「「「ギギ……」」」」」
今さっきまで私を殺そうとしていたゴブリン共が、私から離れていきました。全員が同じ方向に向かって、ふらふらと歩き出す。そしてその方向こそ――歌が聞こえる方向でした。
「……」
逃げれば良かったのに、私は自身の興味心を抑えることが出来ませんでした。歌声に導かれるようにゴブリンの後をついて、その方向へと歩いて行きました。
そして、その先の光景を見て――思わず息をのみました。
「――~~♪」
そこにいたのは、小柄な、金髪の少女。歌っているのは、私でも知っているスタジオアニマ制作のとあるアニメ映画の曲。
ダンジョンの中だというのに、その子は楽しそうに生き生きと歌っていました。自分の迫るゴブリンに気付いているのか、いないのか。どちらにせよ、そこだけダンジョンにあってなお、まるで異次元のような空間。
なにせあの狂暴なゴブリンが、黙ってその子の歌に耳を傾けているのですから。
――そこからは怒涛の時間でした。
二曲目になると曲調が、ガラリと変わり激しい王道ロックに。人もモンスターも一体となって盛り上がるライブフロア。
それに何よりっ。
危機的状況ということすら忘れて、聞き惚れてしまう少女の歌声。その歌に込められた熱量に心臓が高鳴り、体温が上がっていくのが分かりました。
そんな彼女が一度、苦々しい表情をする瞬間がありました。
それは曲の合いの手を入れるシーン。当然この曲を知る由もないゴブリンには、出来るはずもありません。その所為で、どこかあと一歩盛り上がりに欠ける。彼女の表情はそう物語っていました。
だから――
「ガムシャラ、ソウルッッッ!!!!」
「――ハイッッッ!!!!」
その瞬間、彼女と目があった瞬間。私は「こっちは私に任せてください!」と伝えたつもりでした。果たしてそれが伝わったのか、彼女の口の端がつり上がるのが見えた気がしました。
そしてクライマックス――
「――ガムシャラソウルッッッッッ!!!!!」
「ハイッッッ!!!!」
「「「「「ギギャッッッッ!!!!」」」」」
行ったことはありません。ですが、ライブハウスというのはこんな感じなのでしょうか。音楽で人と人とが繋がる感覚。瞬時、それを味わったような気分になりました。
すると、どういう訳か弾けるゴブリン達。
そして舞い散る赤い雫の中、堂々と歌い切り不敵に笑うあの人の姿。
目を奪われるという言葉は、あの瞬間にこそ相応しい……
その言葉通り。私はあの人から――甲本エミリさんから、目を離すことが出来ませんでした。気分は天上に上がったまま戻って来ず、早鐘のように鳴る心臓の音がやけに耳に五月蠅い。
アイドルである私が。
ファンを惹きつける存在である私が。
たった一人のステージに魅了されるなんて。まるであの人のライブを見た時のような高揚感を覚えました。
:すげぇ……
:なんだよ、今の
:ライブ、なのか?
:どう見てもライブだろ
:あの子、爆殺歌姫だろ
:誰それ?
:つい昨日話題になった子だよ
:美しい……
:かっけぇよ。マジで
「あっ!?」
そのコメントの流れに気付いた時には、時既に遅し。配信中なことも忘れて、許可も無い人を映してしまっていました。視聴者さんに慌てて謝りながら、急いで配信を切りました。
そうしてその後も色々ありました――
「ふふっ」
エミリさんからしてみれば笑い事じゃないかもしれません。ですが、あの慌てた顔を思い出すと思わず笑みが零れてしまいます。
その日、私は甲本エミリのファンになりました。
願わくば。いつか彼女と一緒の舞台で歌えるように。
その時まで、私も精進しなければいけません。ひょっとするとそれは、遠い未来の話では無いかもしれません。あぁ。本当に、待ち遠しいです……
いかがでしたか?
今回は姫川玲華視点の閑話となりました。ある意味、吊り橋効果的なものなんですかね。どうやら本当にゴブリンの爆散については、気にも留めていないようです。エミリ的には良かった良かったですねぇ。
という感じで今回は閑話にしましたが、次回はまた本編に戻る予定です。次の更新は、また明日を予定しています。それでは次回もお楽しみに!




