食い尽くし系脳筋ゴリラ(2匹)
魔の森での手合わせを終えた三人は、オーガの頭部から討伐の証である巨大な角を切り落とし、意気揚々と冒険者ギルドへ帰還した。
ドスゥゥゥンッ!!
ギルドのカウンターに血濡れた巨大な角が置かれると、静まり返っていたギルド内にどよめきが走る。
受付嬢は目を丸くし、震える声で尋ねた。
「こ、これは間違いなく魔の森のオーガの角……! あなた方三人が、討伐を!?」
「いや、私は手を出していない」
ジークは堂々と胸を張り、隣に立つ筋骨隆々の僧侶を指し示した。
「このオーガを仕留めたのは、この烈魁皇殿だ。ギルドの主力すら全滅させる魔物を、己の拳のみで粉砕したのだ。素晴らしい武術であった! 故に、討伐報酬はすべて彼に渡してほしい」
ジークの紳士的で潔い言葉に、ギルドの冒険者たちが「なんと欲のない……」と感嘆の息を漏らす。
しかし、当の烈魁皇は鋭い眼光を放ち、ジークの前にスッと立ち塞がった。
「待たれよッ!」
「ん? どうした、烈魁皇殿」
「私がこの魔物を仕留めたのは、ほんの僅かに到着が早かったという結果に過ぎんッ! たとえ遅れていようと、ジーク殿の槍ならば容易くこの魔物を討ち取っていたはずだッ!」
烈魁皇は力強く断言し、さらに言葉を続ける。
「我々は既にパーティを結成したッ! ならば、誰が獲物を仕留めようと、報酬は三等分とするのが道理ッッ! !」
「そうか! そこまで言うのであれば異存はない! 烈魁皇殿は義理堅い男だな!」
「当然のことッ!」
熱い友情を交わす二人の武人の足元で、チャチャがニチャァと邪悪かつ歓喜の笑みを浮かべていた。
(よっしゃァァァ!! ただ後ろでガクブル震えとっただけやのに、ウチにもオーガの討伐報酬が入ってくるやんけ! 金玉のデカい脳筋どもに拾われて大正解やったわ!!)
「そ、そういうことなら、ウチも遠慮なく三等分の前もろとくで! ウチは案内役やからな!」
チャチャは咳払いを一つして、受付嬢からズッシリと重い金貨の袋を受け取った。その重みは、これまでの彼女の人生で手にしたことのない金額である。
「さて、大きな仕事の後は腹ごしらえだな。受付嬢、この辺りで一番美味い飯を食わせる宿を紹介してもらえないか?」
「は、はいっ! それなら三軒隣の『海猫亭』が、お肉も美味しくてボリューム満点でおすすめです!」
こうして三人は、紹介された宿屋へと足を運んだ。
テーブルにつくなり、二人の武人は凄まじい勢いで注文を始めた。
「うむ!身体を動かした後の飯は格別だな! 店主、こっちのオーク肉の香草焼きを十皿! あとエールを樽ごと持ってきてくれ!」
「見事な食べっぷりだジーク殿ッ! だが、十分な栄養補給もまた武術の基本ッ! 私も負けてはいられんッ! 店主ッ! 鶏の丸焼きを五羽、いや十羽追加だッッ! あと白米を桶で所望するッ!」
「承知いたしましたァッ!」
運ばれてくる山盛りの肉、肉、肉。
ジークは豪快かつ上品な手つきで骨付き肉を平らげ、烈魁皇は一切の無駄がない流麗な動作で、次々と料理を胃袋へと放り込んでいく。
「シュゥゥッ!」
「ガッガッ!」
二人の咀嚼音とエールを飲み干す音だけが、店内に響き渡る。
空になった皿が、文字通り山のように積み上がっていった。
「おお……見事な食いっぷりや……。ウチも負けじと高いモン頼むでー!」
チャチャも最初は上機嫌で高級な魚料理をつついていた。
しかし、一時間経過しても、二人の「食事」という名の戦いは一向に終わる気配を見せない。
「追加だッ! 猪肉の煮込みを鍋ごとッ!」
「こちらも頼む! 海鮮の串焼きを二十本だ!」
(……あれ? ちょっと待てよ……)
チャチャの背筋に、冷たい汗が伝う。
目の前で積み上がっていく皿の山。それはそっくりそのまま、恐ろしい額の「請求書」へと変換されるのだ。
そして、宴から二時間後。
「ごちそうさまでしたー! お会計、金貨五十枚になります!」
店主が満面の笑みで提示した額は、先ほどギルドで受け取ったばかりの「オーガ討伐報酬の全額」と一寸の狂いもなく一致していた。
「「…………」」
スッ、と空になった財布を見つめるチャチャ。
綺麗に三等分するはずだった大金は、二匹のモンスター級の胃袋によって、たった一回の食事で完全に消滅したのである。
「ふう、実に良い食いっぷりだったな、烈魁皇殿!」
「応!異世界の料理、しかと堪能したッ!」
満足げに腹をさする二人の横で、チャチャは白く燃え尽きた灰のようにテーブルに突っ伏した。
「ウチの……ウチの取り分が……」
「ん? どうしたチャチャ嬢。君はあまり食べていなかったようだが、腹の具合でも悪いのか?」
「お前ら二匹の脳筋ゴリラが全部食い尽くしたんやろがいッッッ!!!!」
魔王討伐への道のりは、まだ遠い。
まずは明日の食費を稼ぐところから、彼らの極東での冒険は始まるのだった。
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