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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
俺より強い奴に会いに行く

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異世界から来た僧侶

ついに極東の島国へと上陸したジークとチャチャ。

魔法と魔王が存在するという未知の大陸。活気ある港町を抜け、二人がまず足を運んだのは、辺境の街にある「冒険者ギルド」であった。

しかし、ギルドの扉を開けてみると、中はひどく寂れ、数人の冒険者たちが暗い顔をして酒を飲んでいるだけだった。

「なんやここ、お通夜みたいやな……」

「ふむ。とりあえず、冒険者としての登録を済ませてしまおう」

チャチャの呆れ声をよそに、ジークは受付へと進み出た。

受付嬢はジークの巨体と黒鋼の大槍に目を丸くしたが、彼が登録と仕事の受注を希望すると、藁にもすがるような表情で一枚の依頼書を差し出してきた。

「お、お願いします……! 近隣の『魔の森』に住み着いた凶悪なオーガの討伐をお願いできないでしょうか。魔法の障壁を持ち、並の剣では傷一つつけられない化け物で……すでにギルドの主力パーティがいくつも壊滅させられているんです!」

「魔法の障壁、か。実にやり甲斐のありそうな相手だ。任せておきたまえ」

ジークは快く依頼を引き受け、意気揚々と魔の森へと向かった。

――しかし。

「……こいつは、驚いたな」

「うわぁ……見事なミンチやで、これ……」

森の奥深く、オーガの棲み処とおぼしき広場に到着した二人が見たものは、無惨にも地面にめり込み、ピクピクと痙攣している巨大なオーガの姿だった。魔法の障壁など何の役にも立たなかったとばかりに、その全身には無数の「打撃」の痕が深く刻み込まれている。

そして、その巨大な魔物の傍らに、一人の男が静かに佇んでいた。

見慣れぬ異国の道着に身を包んだ、筋骨隆々たる僧侶。

両手を後ろで組み、泰然自若とした空気を纏うその男は、ジークたちの気配に気づくとゆっくりと振り返った。

「……ほう。貴様らも、この魔物とやらを討伐しに来たのか」

「いかにも。だが、一足遅かったようだ。……見事な手際だな。君が一人でやったのか?」

ジークが尋ねると、僧侶は鋭い眼光を放ち、静かに頷いた。

「いかにも。私は別の世界からこの地へ転生してきた者……。この世界に満ちる『魔法』とやらは使えん。だがッ! 中国四千年の歴史が誇る中国武術……この拳ひとつあれば、魔物など取るに足らんッッ!」

異世界からの転生者。

その不可思議な言葉よりも、ジークの心を捉えたのは、眼前に立つ男から放たれる「達人の覇気」であった。魔法などというものに頼らず、己の肉体と技のみで凶悪な魔物を粉砕した力。

ジークの口角が、歓喜に吊り上がる。

彼は背負っていた黒鋼の大槍をゆっくりと構え、騎士としての最上級の礼をもって名乗りを上げた。

「私はジーク・ヴァン・レオンハルト。武の頂きを求め、この地へ参った。……異世界より来たりし中国武術の達人よ。その見事な拳、私の槍と手合わせ願えないだろうか!」

突然の決闘の申し込み。常人であればたじろぐであろうその申し出に対し、僧侶の瞳にもまた、武術家としての激しい炎が宿った。

僧侶はスッと腰を落とし、流麗かつ隙のない動作で両手を構える。

「我が名は烈魁皇……。私は一向にかまわんッッ!!」

ドゴォォォォンッ!!!

言葉が終わると同時、二人の巨体が凄まじい速度で激突した。

ジークの大槍から放たれる、暴風のような質量攻撃。

対する烈魁皇は、その凶悪な斬撃を紙一重の消力(シャオリー)で受け流し、爆発的な踏み込みで懐へと潜り込む。

「シィィッ!」

「シャァァッ!!」

空気が悲鳴を上げ、大地がすり鉢状に吹き飛んでいく。

ジークの槍が森の木々を薙ぎ払えば、烈魁皇の拳圧が岩盤を粉々に打ち砕く。

純粋な「技」と「力」のみのぶつかり合い。それは数合、数十合と続き、森全体を揺るがすほどの激闘となった。

「ヒィィィッ!? なんなんやこのバケモノ同士の戦いは! 巻き込まれたら死ぬわ!!」

はるか後方の岩陰に隠れたチャチャは、涙目で耳を塞ぎながら震え上がっていた。

やがて――。

「ふはははは! 素晴らしい! こんなにも胸躍る戦いはいつ以来か!」

「見事ッ……! ジーク殿、見事な槍さばきだッ! 力任せに見えて、その身のこなしには一切の無駄がない。我が中国武術においても、これほどの使い手にはそうそうお目にかかれんッ!」

クレーターと化した森の中心で、二人は互いの武器と拳を突き合わせたまま、滝のような汗を流して爽快に笑い合っていた。

互いに致命傷を避けた寸止めのため、決着はつかなかったが、その顔には、己と対等に渡り合える強者と出会えたという極上の歓喜が浮かんでいる。

「烈魁皇殿、素晴らしい武術だった。もし良ければ、私と共にこの世界を巡らないか? 魔王とやらをはじめ、まだ見ぬ強敵が我々を待っているはずだ」

「異存はないッ! ジーク殿と共に歩めば、私の中国拳法も更なる高みへと至る……問題はないッ!」

がっちりと熱い握手を交わし、意気投合する二人の武人。

その光景を見つめながら、岩陰から這い出てきたチャチャは、両手で頭を抱え込んで天を仰いだ。

(アカン……。ただでさえ手に負えん脳筋ゴリラが、もう一匹増えよった……!! ウチの胃袋、魔王倒す前にストレスで穴空くんちゃうか……!?)

魔法の世界を力業で蹂躙する最強の武人に、四千年の歴史を背負った異世界からの拳法家が加わった。

常識外れの脳筋二人と、絶望する小さなガイドの、さらなる波乱に満ちた冒険が幕を開けた。


お読みいただきありがとうございました。

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