表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
辺境伯流スローライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
91/115

陸がダメなら海で……『鋼鉄の船』

陸路である「大陸横断鉄道」を物理的・経済的に粉砕された東の覇王マオ・キンは、激怒と共に次なる近代兵器を西の海へと解き放った。

黒煙を上げて進む、数十隻の巨大な鋼鉄の船。

帝国が国家予算の粋を集めて建造した「装甲艦隊」である。

「陸の線路を絶たれた程度で、我が帝国の近代化が止まると思うな!」

旗艦のブリッジで、帝国海軍の提督が冷酷に笑う。

「西の蛮族どもがどれほど野蛮な身体能力を持っていようと、海の上を走ることはできまい。港の沖合、奴らの剣も槍も届かぬ安全な距離から、一斉砲撃で西の最大の貿易港を火の海に変えてくれるわ!」

艦載砲の圧倒的な長距離火力はまさに神の雷に等しい。海からの兵糧攻めと無差別砲撃。それは辺境伯領の生命線である「物流」を完全に断ち切る、致命的な一手となるはずだった。

「……なるほど。陸がダメなら海からですか。シンプルで理にかなった作戦ですね」

辺境伯領の港湾都市を見下ろす高台の執務室。

次男・クロードは、望遠鏡で水平線に現れた黒い煙の束を確認すると、手元の分厚い書類の束へと視線を落とした。

「クロード坊ちゃま。裏社会のネットワークを使って調べさせた、帝国の海軍予算の内訳だ」

部屋の影から現れたキースが、新たな帳簿をデスクに置く。

「あの鋼鉄の艦隊を建造し、維持するために、帝国は莫大な『海軍公債』を発行しているようだ」

「ええ。急激な軍拡の典型的なツケですね。艦隊が存在し、威容を誇っている間だけは、その公債は天文学的な価値を持つ」

クロードは冷徹な笑みを浮かべ、羽ペンを手に取った。

「キース義父上。ただちに西の王国の金融網をフル稼働させ、世界中の市場にある帝国の『海軍公債』を、限界まで空売りしてください」

「空売り、だと? まだ価値が上がり続けているあの債券をか?」

「ええ。現在の高値で債券を『借りて』売り払い……彼らの無敵艦隊が海の底に沈み、債券の価値が『ただの紙切れ(ゼロ)』になった瞬間に買い戻して返す。……その差額はすべて、我々の莫大な利益(軍資金)となります」

クロードの極悪な金融戦術に、かつて裏社会を牛耳ったキースすらも背筋を凍らせる。

「……恐ろしい男だ。だが、大砲の射程外にいるあの装甲艦隊を、一体どうやって沈めるつもりだ?」

「ご心配なく。……我が辺境伯家が誇る『最強の二振り』が、すでに迎撃ポイントでお待ちかねです」

港へと至る唯一の航路。

両脇を数百メートルもの切り立った断崖絶壁に挟まれた、通称『海竜のあぎと』と呼ばれる狭い海峡。

帝国の装甲艦隊は、単縦陣となってその海峡へと進入していた。

「提督! 海峡の崖の上に、人影が二つあります!」

見張りの兵士が叫ぶ。

「何? 西の蛮族か。構わん、艦載砲で崖ごと吹き飛ばせ!」

提督が命令を下した瞬間、砲術長が青ざめた声で叫び返した。

「む、無理です! 敵の位置が高すぎます! 大砲の『仰角(見上げる角度)』の限界を超えており、崖の頂上には砲身が向きません!」

「なんだと!?」

近代兵器である大砲の、物理的な構造的欠陥(仰角制限)。

その死角である絶壁の頂上ギリギリに立っていたのは、辺境伯家の当主レオンハルトと、ミラの母であり元・撃滅隊トップのルイーザだった。

「ガッハッハッハ! 見ろルイーザ殿、あの黒い鉄の箱を! あれが大砲とやらを積んだ船らしいぞ!」

「あらあら、随分と窮屈そうな箱船ですこと、レオンハルト殿! あんな重そうなものを浮かべるなんて、東の国の科学力も大したものですね!」

正装であるタキシードとイブニングドレスに身を包んだ、規格外の中年男女。

二人の手には、身の丈を遥かに超える巨大な大剣が握られていた。

「クロードからの指示通り、岩盤の『断層』は見極めたな?」

「ええ、完璧に。……さあ、かつて王都の悪党をすり潰した時のように、久しぶりに派手にいきましょうか!」

二人は同時に、規格外の大剣を天高く振り上げた。

狙うのは、艦隊ではない。彼らが立つ、数万トンの質量を持つ『断崖絶壁そのもの』。

「辺境伯家、当主の一撃……!」

「王都撃滅隊、隊長の一撃……!」

「「粉砕せよッ!!」」

二人の極大の運動エネルギーが、岩盤の最も脆い断層クリティカル・ポイントへと正確に叩き込まれた。

メキ……メキメキメキメキィィィィッ!!!

それは純粋な重力と質量の暴力。

数万トンの岩盤が悲鳴を上げ、海峡の絶壁が数百メートルにわたって完全に崩落した。

「なっ……崖が、降ってき、」

提督が絶望の声を上げた瞬間には、すべてが終わっていた。

どんな鋼鉄の装甲を持とうと、上空から降り注ぐ数万トンの岩石の雨に耐えられるはずがない。

凄まじい轟音と共に、帝国の誇る無敵艦隊は一発の大砲を撃つことも許されず、巨大な岩石群に押し潰され、海の藻屑となって真っ逆さまに海底へと沈んでいった。

「……提督からの通信が、途絶えました。艦隊は……全滅です」

帝国の宮殿で、青ざめた側近が報告する。

「ば、馬鹿な……。我が帝国の、無敵艦隊が……」

覇王マオ・キンは玉座から崩れ落ちた。

「陛下ァ! 一大事でございます!!」

そこへ、財務大臣が泡を吹いて駆け込んでくる。

「せ、世界中の金融市場で、我が国の海軍公債が紙屑同然に暴落しております! 国家の国庫はほぼ空!! これでは明日の軍の食料すら……っ!」

「なん……だと……!?」

物理的な無敵艦隊の撃沈と、それを見越した天才参謀の完璧な「空売り」

マオ・キンが恐れた西の悪魔たちは、大砲の弾を一発も浴びることなく、帝国の海軍力と帝国の国家財政の大半を、たった一日のうちに消滅させたのである。

「恐ろしい………西の蛮族どもは、まさに悪魔……っ!!」

遥か西の海を望む執務室で、クロードが優雅に紅茶を傾けていることなど知る由もなく、東の覇王は静かに瞑目していた。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ