表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
辺境伯流スローライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/106

掴み取った逆転

極寒の吹雪に閉ざされた辺境とは打って変わり、非武装・無税の巨大娯楽都市『ゴールド・フォール』は、眩いばかりのネオンと熱気に包まれていた。

VIP専用カジノの最上階。

大陸の流通を牛耳る「冬物資・燃料ギルド」の悪徳会長ガルドスは、葉巻を燻らせながら下品な高笑いを上げていた。

「ガハハハハ! どうした辺境伯の小僧! もうチップが底をついたか!」

彼の前には、山のように積まれた黄金のチップ。対面には、ディーラー服を着た次男・クロードが、冷や汗を流す……「フリ」をして立っていた。

「……ツイていませんね。さすがはギルド会長殿だ」

クロードの言葉に、ガルドスは得意絶頂で鼻を鳴らす。

ガルドスは神聖国の残党と結託し、辺境伯領への防寒具と燃料の供給を完全にストップしていた。「どうしても欲しければ平時の100倍の価格で買え」と足元を見ているのだ。

さらに神聖国の凄腕イカサマ師たちを護衛として連れ込み、このタックス・ヘイブンで辺境伯家の資金を合法的に巻き上げ、カジノごと破産させるという念の入った嫌がらせを実行中だった。

(馬鹿な田舎貴族め。この俺が**『鉛の重心移動』と『砂鉄入りの特製ダイス』**を使っていることにも気づかんとはな!)

ガルドスは心の中で嘲笑った。

彼が使っているのは、内部を空洞にして砂鉄と重りを仕込んだ精巧なイカサマ・ダイスだ。さらに彼の靴底には強力な「天然磁石(磁鉄鉱)」が仕込まれており、テーブルの下から足の角度を変えるだけで、磁力によって狙った目を確実に出すことができる、純粋にして極悪な物理トリックである。

その時である。

VIPルームの豪奢な扉が開き、このカジノの真の支配者――母・セレスティアが、優雅な足取りで入ってきた。

「あらあら、随分と楽しんでいらっしゃるご様子ね、ガルドス会長」

「おお、辺境伯夫人! 泣きを入れるなら今のうちですぜ? あんたの息子は、もう賭ける金がないようだ」

セレスティアは扇で口元を隠し、慈愛に満ちた聖母の微笑みを浮かべた。

「ええ、ですから『最後の勝負』をご提案しに来ましたの。……こちらがカジノの金庫にある全資金。そして、西の王国のオズワルド陛下からお預かりした国家予算の一部です」

ドサリ、とテーブルの上に天文学的な数字が書かれた小切手が積まれる。

「なっ……!」

「これをすべて賭けましょう。その代わり、会長。あなたが負けた場合、あなたの『冬物資・燃料ギルドの全株式(経営権)』を頂きますわ」

ガルドスは息を呑んだ。

勝てば、辺境伯家どころか西の王国の国家予算すら手に入る。どうせダイスの目は磁力で完全にコントロールできるのだ。負けるはずがない。

「……ガハハ! いいだろう、その勝負乗った! これが我がギルドの全株式と譲渡証明書だ!」

ガルドスは血走った目でダイスを握りしめ、テーブルに投げ入れた。

同時に、靴底の磁石をテーブルの裏へと押し当てる。これで確実に勝利の目が出る――はずだった。

しかし。

ダイスは不自然な軌道を描くことなく、コロンコロンと無軌道に転がり……ガルドスの「完全敗北」の目を出して止まった。

「なっ!? ば、馬鹿な! なぜだ!」

ガルドスが慌てて靴底をテーブルに押し付けるが、ダイスはピクリとも動かない。

「おや、どうかしましたか?」

クロードが冷ややかに眼鏡を押し上げながら、手元の銀のトレイから『一枚の布』を拾い上げた。

「先ほど、あなたの足元に飲み物をこぼしてしまった際、清掃員がテーブルの裏側にこの『鉛のシート』を貼り付けておきましてね。……ご存知ですか? 鉛は磁力を遮断するんですよ」

「き、貴様……最初から俺の靴底の細工に気づいて……ッ!」

「ええ。それだけではありません」

クロードは卓上のダイスを手に取ると、妹のセリアが調合した「骨材だけを溶かす特殊な酸」を数滴垂らした。

シュウウ……という音と共にダイスの外装(象牙)が溶け落ち、中から真っ黒な砂鉄と重りの塊がゴロリと転がり出た。

「ハウスルール第4条8項。『遊戯へのいかなるイカサマ器具の持ち込みもこれを禁じ、発覚した場合は全額没収とする』。……西の王国の法に基づき、たった今、ギルドの全株式は我が辺境伯家が買い取りました(敵対的買収・完了)」

「ふざけるなァァ!!」

完全にハメられたと悟ったガルドスは激高し、背後に控えていた神聖国のスパイたちに怒鳴った。

「殺せ! こいつらを皆殺しにして、証拠の書類を奪い返せ!!」

チャキッ、と数十人のスパイが一斉に隠し持っていた短剣や暗器を構える。

だが、セレスティアもクロードも全く動じない。むしろ、哀れみすら込めた目で彼らを見ていた。

ドゴォォォォォォンッ!!!

突然、VIPルームの分厚い壁が爆発したかのように粉砕され、土煙の中から二つの影が降臨した。

「はっはっは! 呼ばれた気がしてな!!」

タキシードの袖をパツンパツンに張らせた当主レオンハルトと。

「お客様、VIPルームでの暴力行為は禁止されておりますわー!」

なぜか超絶防御力を誇るバニーガール衣装を着込み、身の丈を越える大剣を構えた従妹のミラである。

「な、なんだこいつらは! 構わん、斬り刻めェ!」

スパイたちが一斉に襲いかかるが、レオンハルトが「フンッ!」と大剣の腹で床を叩いただけで、局地的な地震のような凄まじい衝撃波が発生し、屈強な男たちがピンボールのように天井へと叩きつけられる。

「うふふっ! ご退場いただきまーす!」

ミラが満面の笑みで大剣をフルスイングする。

まるで羽虫を払うかのようなその一撃は、スパイたちをまとめて窓ガラスごと吹き飛ばし、夜空の彼方へ「場外ホームラン」として消し去ってしまった。

「ひっ……! ぁ、あ、悪魔……ッ」

腰を抜かし、失禁しながら後ずさるガルドス。

クロードが、彼を見下ろしながら冷酷に宣告した。

「ギルドの元・会長殿。株を失ったあなたはただの無職ですが、莫大なカジノへの借金(違約金)が残っています。安心してください、我が領地は超ホワイト。借金が完済できるまで、雪山の鉱山で一生『石炭』を掘らせてあげますよ」

「いやだァァァァァァ!!」

【エピローグ:温かな食卓】

翌日。

辺境伯領の領主の館には、信じられないほどの大量の防寒具、最高級の石炭、そして毛布が運び込まれていた。

「すっげえ! ギルドの倉庫、マジで全部うちのモンになったのか!」

ジークが、真新しい極厚のコートを着て大はしゃぎしている。

「ええ。西の王国のオズワルド陛下も、悪徳ギルドの解体を大層喜んでおられましたわ。これで難民たちも、凍えることなく冬を越せますね」

セレスティアは、燃え盛る暖炉の前で温かい紅茶を淹れながら、家族に向けて優しく微笑んだ。

魔法などという不確かなものに頼らない。

あくまで「物理現象を利用した罠」と「合法的な株式買収」、そして純粋な武力によって、敵のインフラを丸ごと乗っ取るという極悪スマートな解決法。敵の慢心をへし折り、物資を奪い取るカタルシスに、クロードは心地よい疲労感と共に温かいお茶を飲み込んだ。


一方その頃。

遥か東の超大国「中華国」の宮殿。

「……マオ・キン様。西の大陸の流通ギルドが、一夜にして辺境伯家に乗っ取られたとのことです。これで彼らの弱点だった『冬の物資不足』は完全に解消されました」

報告を受けた覇王マオ・キンは、玉座に深く腰掛けたまま、感情の読めない酷薄な瞳で手元の杯をゆっくりと傾けた。

「……そうか。あの忌まわしき一族は、神聖国をも食い破り、さらに肥え太ったというわけか」

マオ・キンの視線の先、玉座の脇には、かつて辺境伯一家に突きつけられた屈辱の象徴――見事に剥製にされた「初代の愛馬の首」が飾られていた。あの夜、寝所を制圧された底知れぬ恐怖を復讐心に変えるため。

それは今も彼の心に消えない傷を残している。だが、超大国を束ねる覇王は、ただ震えて縮み上がるような男ではない。

「今は驕るがよい、辺境の悪魔ども。神聖国の崩壊によって西の大陸の均衡は必ず崩れる。……我らが動くのは、その時だ」

マオ・キンは杯の酒を静かに飲み干し、氷のように冷たい野心の炎を瞳に宿した。

「臥薪嘗胆。あの一族に舐めさせられた泥の味、決して忘れはせぬ。次に相まみえる時は、周到に張り巡らせた策を以て、必ずや朕の足元に平伏させてくれる」

辺境伯一家が過酷な冬を切り抜けたその裏で、東の超大国は静かに、そして確実に、次なる侵略の牙を研ぎ澄ましていたのである。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ