表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
辺境伯流スローライフ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
79/106

慈母の微笑み

辺境伯邸の最も奥深く、日当たりの良い温室。

そこで優雅に紅茶を傾けているのは、類まれなる美貌と慈愛に満ちた微笑みを浮かべる一人の貴婦人――辺境伯レオンハルトの妻であり、ジークやクロードたちの母であるセレスティアである。

「クロード。あなたが考案した共和国との『無関税貿易構想』、とてもよく練られていますわ。中華国からお預かりした資金の運用先としても手堅いですね」

「ありがとうございます、母上」

冷酷無比な天才参謀として恐れられるクロードが、この時ばかりは背筋を伸ばし、額に微かな汗を浮かべていた。彼が持つ底知れぬ知略の源流は、他でもないこの母にあるからだ。

セレスティアはふふっと微笑み、書類をパタンと閉じた。

「でもね、クロード。少し『おもてなしの心』が足りないのではないかしら? わざわざ貿易などという面倒な手順を踏まなくとも、世界中の富裕層が、自ら喜んで我が家に全財産を差し出す仕組みを作ればよいのです」

「……と、おっしゃいますと?」

「新・共和国の領土は、幸いにも今は独立した『緩衝国』です。あそこを『非武装・永世中立・無税の特区タックス・ヘイブン』として宣言させなさい。そして、大陸最高の娯楽都市を造るのです」

母の言葉の真意を悟った瞬間、クロードの背筋に悪寒にも似た戦慄が走った。

「なるほど……。各国で重税に苦しむ貴族や大商人たちの『隠し資産』を、合法的に吸い上げるブラックホールを創るのですね」

「ええ。我が家は彼らの資産を『匿名口座』で安全にお預かりし、復興資金として自由に運用させていただきます。彼らは税金から逃れられ、私たちは無尽蔵の資金を得る。誰も傷つかない、優しい世界でしょう?」

聖母のような微笑みで、国家規模の経済的略奪を語る妻。

後ろで控えていた最強の武人レオンハルトは、そっと目を逸らしながら心の中で呟いた。

(やはり……この家で一番恐ろしいのは、俺の妻だ……)


数ヶ月後。新・共和国の国土に、大陸中の富を飲み込む巨大娯楽都市『ゴールド・フォール』が誕生した。

表向きは永世中立国が運営する、華やかなカジノと高級ホテルの立ち並ぶ夢の都。

しかし裏では、セレスティアの指示を受けた元暗殺者のキースが、徹底的な情報管理と工作を行っていた。

「奥様の仰る通りだ。連中、税金逃れのためにペーパーカンパニーを作り、喜んで金を運び込んでくるぜ」

カジノのVIPルームの監視室で、キースは報告書をまとめる。

富裕層たちは「税金ゼロ」の甘い汁を吸うために資産を預け、カジノで豪遊する。

だが、セレスティアの罠は「資金の吸収」だけではない。

キースの配下たちが、VIPたちに極上の酒、ハニートラップ、そして「カジノでの貸付」を徹底的に提供していた。

富裕層の金だけでなく、スキャンダルと借金を彼らの弱みを外交カードとして丸ごとストックしていくのが、セレスティアの真の狙いであった。

この甘い罠に、一人の大物が食いついた。

王国の隣国である「神聖国」の財務大臣、バルディア侯爵である。彼は自国の国庫から横領した莫大な資金をロンダリングするため、この特区にやってきていた。

しかし彼は強欲だった。カジノで大負けし、借金が膨れ上がった彼は、護衛の精鋭騎士団50名を連れて支配人室に乗り込んできた。

「たかが辺境の成り上がり者が運営する遊技場風情が! 私の借金を全てチャラにし、この特区の運営権を神聖国に譲渡しろ! さもなくば、我が騎士団がここを制圧し、非合法施設として叩き潰すぞ!」

武力による恫喝。緩衝国であることを逆手に取った、大国ならではの傲慢な手口である。

だが、支配人室の奥のソファに優雅に座っていたのは、セレスティアだった。

「ようこそ、バルディア侯爵。ずいぶんと血の気が多いのですね。でも、ここは『平和な歓楽街』ですわ。乱暴はおやめになって?」

「女が口を出すな! やれ!」

侯爵が叫び、騎士たちが剣を抜いた瞬間――。

「「「母上のティータイムを邪魔するなァッ!!」」」

天井をぶち破り、レオンハルト、ジーク、そしてルイーザとミラの「規格外の脳筋家族」が降ってきた。

ドゴォォォォン!! という爆音と共に、大剣と槍の衝撃波だけで、50名の精鋭騎士たちが一瞬にして窓の外へゴミのように吹き飛ばされる。

「ひぃっ!?」

腰を抜かしたバルディア侯爵の前に、セレスティアが静かに歩み寄り、一枚の書類を差し出した。

「侯爵。あなたがサインした借用書の担保には、『あなたの領地』と『神聖国内の全ての権利』が含まれています。そして、あなたが横領した証拠も、既に神聖帝国の教皇陛下に匿名で送らせていただきました」

「な、なんだと……!? き、貴様ら、最初からこれを狙って……!」

「クロード、オズワルド王への法的手続きは?」

「すでに完了しております、母上。王の裁可により、侯爵の全資産は我が辺境伯領の管理下に入りました」

完璧な法網と、それを裏打ちする絶対的な暴力。

セレスティアは、震える侯爵の頬に優しく手を添え、極上の微笑みを浮かべた。

「私たちのカジノを楽しんでいただけましたか? あなたの資産は、我が領の復興のために大切に使わせていただきますね。さあ、祖国へお帰りなさいませ」


後日。

辺境伯邸の温室では、今日もセレスティアが優雅にお茶を楽しんでいた。

「母上、特区に集まった資金により、新街道の石畳への敷き詰めと、領内全域への魔導街灯の設置が完了しました。我が領は今や、王都を凌ぐ経済力です」

クロードが恭しく報告する。

「ご苦労様、クロード。でも、まだまだ世界には『迷える資産』がたくさんありますわ。彼らに、私たちの(タックスヘイブン)を提供して差し上げましょう」

「……ははっ。仰る通りに」

どれだけクロードが冷酷な知略を巡らせようと、どれだけ一家が物理で無双しようと、全てはこの美しき母が描く「家計簿」の範疇に過ぎない。

平和を謳歌する辺境伯領。

その真の支配者は、今日も慈愛に満ちた笑顔で、世界の富を静かに飲み込み続けている。


お読みいただきありがとうございました。

もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!

次回もどうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ