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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
第二次辺境伯領防衛戦

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代理戦争

共和国領、薄暗い雨の降る廃村。

かつては豊かな小麦畑が広がっていたその場所で、泥にまみれた数十人の男たちが、息を殺して「獲物」を待っていた。

「……来たぞ。中華国の補給部隊だ」

反乱軍の小隊長である元農民の男・ガランが、双眼鏡を下ろして低く囁いた。

ぬかるんだ街道を、中華国の軍服を着た兵士たちと、物資を積んだ装甲馬車が進んでくる。かつてなら、見つかれば即座に処刑される絶望の象徴だった。

だが今のガランたちの手には、辺境伯陣地から「デリバリー」された最新式の銃が握りしめられていた。

「クロード軍師殿の『指南書』通りだ。正面からぶつかるな。狙うのは馬と、荷馬車の車輪、そして指揮官だけ。……撃てッ!!」

ガランの号令と共に、廃屋の陰から一斉射撃が放たれた。

「敵襲ゥッ!? ゲ、ゲリラだ!」

銃声と爆音に包まれ、中華国の補給部隊はパニックに陥った。精鋭部隊であったはずの彼らの動きは、ひどく緩慢で脆かった。

それもそのはずである。彼らの多くは、本国から蔓延した『悪魔の薬(天界花)』の禁断症状に苦しみ、あるいは薬欲しさに装備を売り払っており、まともな戦闘状態にはなかったのだ。

「ひぃぃっ! や、やめ――」

反撃すらまともにできず、部隊はあっけなく壊滅した。

ガランたちは素早く荷馬車に群がり、弾薬と食糧だけを奪い取ると、中華国の増援が駆けつける前に、再び深い森の中へと霧のように消えていった。

「……辺境伯様、クロード様に感謝を。これでまた、俺たちの土地を取り返せる」

ガランは西の空――辺境伯領に向かって深く祈りを捧げ、奪った物資を肩に担いだ。

このような『非対称のゲリラ戦』が、旧・共和国領の全土で、毎日数百件規模で同時多発的に引き起こされていた。

「……素晴らしい。怒りに駆られただけの暴徒が、今や明確な指揮系統を持つ『軍隊』へと育ちました」

辺境伯領の執務室。

次男クロードは、地図上の旧・共和国領に、次々と「反乱軍の旗」の駒を立てていった。

「お前がばら撒いたあの『戦術指南書』のせいだろうが。ゲリラ戦の極意から、補給線の断ち方、果ては即席爆弾の作り方までご丁寧に書き記しやがって……」

キースが呆れたようにため息をつく。

「しかし、俺たち辺境伯軍の正規兵は、誰一人として国境線を越えていない。血を流しているのはすべて、共和国の民たちだ。……ひどく冷酷な戦い方だな、クロード」

「これを『代理戦争(プロキシウォー)』名付けましょう」

クロードは眼鏡を中指で押し上げ、冷徹な参謀の顔で答えた。

「大国・中華国と正面からぶつかれば、いかに父上や兄上の武力があろうと、我が辺境伯領の民にも少なからず血の犠牲が出ます。ならば、我々は『武器』と『食糧』と『知恵』だけを供給し、中華国への憎悪に燃える現地の民衆に代わりに戦ってもらう。これが最も効率的で、最も安上がりな防衛策なのです」

「相手の力を利用して相手を削る。中華国(やつら)のやり口をそのまま叩き返してやったというわけか」

オズワルド王が感嘆の息を漏らした。

失うもののない反乱軍の士気は異常なほど高く、逆に中華国軍は『悪魔の薬』による内部腐敗と、ダム決壊による補給路の寸断で士気は最悪。

当初は鎮圧できると高を括っていた中華国軍は、この底なしの泥沼に完全に足を取られ、数万の兵力と莫大な国家予算を日々すり減らしていくこととなった。

終わりの見えない地獄の代理戦争は、約一年に及んだ。

そして――ついに、超大国の皇帝マオ・キンが「冷徹な損切り」を下す日が訪れた。

「……ついに、休戦協定が結ばれたようです」

ある朝、クロードが持ち込んだ一枚の報告書と新しい地図に、執務室の全員が息を呑んだ。

クロードが地図上の、旧・共和国領の『ちょうど中央』を縦断する巨大な川に沿って、スッと赤い線を引いた。

「マオ・キンは、ゲリラ戦による被害により、これ以上の戦線の維持は割りに合わないと判断しました。我が軍が支援する反乱軍と、中華国軍は、この川を境にして戦闘を停止。……国土は完全に、真っ二つに分断されました」

赤い線の西側(辺境伯領側)は、民衆たちが奪還した国土。

赤い線の東側(中華国側)は、中華国がなんとか死守した傀儡政権の領土。

「休戦ラインには、すでに両軍によって無数の地雷が敷き詰められ、鉄条網と対魔力障壁が何重にも張り巡らされています。もはや、鳥一羽として越えることのできない『絶対の分断線(非武装地帯)』です」

「国が真っ二つに割れたか……。だが、西側はどうなる?」

レオンハルトの問いに、クロードは新しい駒――『新・共和国』と書かれた旗を、西側の領土に打ち立てた。

「西側の半国は、我々が支援した民衆による『新・共和国』として正式に独立を宣言しました。彼らは、我々辺境伯一家を『祖国を取り戻させてくれた恩人』として崇拝しています。……無論、彼らの国家運営の資金も、軍備も、すべて我々が支援(コントロール)する形となります」

その言葉の意味を理解し、オズワルド王は背筋に冷たいものを感じた。

「……つまり、この新・共和国は、辺境伯領を守るための肉の盾(バッファ)として機能するわけか」

「その通りです、オズワルド陛下。中華国が我が領地に攻め込もうとすれば、必ずこの新・共和国を通らねばならない。祖国を蹂躙した中華国への憎悪に燃え、我々の最新兵器で武装し、訓練された軍隊が立ち塞がる『分断線』を突破するのは不可能です」

クロードは、首を垂れて地図上の分断線を指先でなぞった。

「血の犠牲を払うことなく、敵国を内側から腐らせ、現地の民衆を独立させて、祖国として防衛させる。……これが『漆黒の作戦』であると、冷酷極まりない作戦であると自覚しております。」

辺境伯領の地政学的勝利。

辺境伯領と超大国・中華国の直接対決は避けられ、その間に生まれた「分断国家」という癒えない傷跡だけを残し、この恐るべき代理戦争はひとまずの幕を下ろしたのである。

お読みいただきありがとうございました。

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