ポンジスキームならぬキーススキーム
西の王国の王都、議会を牛耳る筆頭貴族・ギデオン侯爵の豪奢な屋敷では、その夜、密かな祝賀パーティーが開かれていた。
「では諸君。偉大なる中華国との永遠の友好と、我々の『莫大な富』に乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
最高級のワイングラスを打ち鳴らし、中華国に買収された腐敗貴族たちは高らかな笑い声を上げていた。
彼らの目的は、武力しか能のない野蛮な辺境伯との同盟を破棄し、中華国という超大国の強大な経済圏に丸乗りして私腹を肥やすことである。
「いやぁ、中華国の高官である『王殿』が持ち込んでくれたあの投資話。あれは凄まじい!」
「ええ! 共和国との国境地帯で極秘裏に発見された、手付かずの『巨大魔石鉱脈』! 中華国と王国で『共同採掘会社』を立ち上げ、その独占株を我々だけに譲ってくれるとは!」
ギデオン侯爵は、脂ぎった顔を紅潮させてワインをあおる。
この投資話は、彼らの「強欲」を完璧に刺激した。莫大な配当金を夢見た貴族たちは、一族の全財産をかき集めただけでは飽き足らず、自らの『領地』を王家直轄の国立銀行に担保として差し出し、天文学的な額の借金をしてまでこのダミー会社に資金を突っ込んでいた。
「あの昼行灯のオズワルド陛下も、我々が議会で同盟破棄を突きつければ何もできまい」
「ええ。数日後には配当金の第三陣が届く。そうすれば我々は王国一の資産家だ。辺境伯などという泥臭い番犬は、さっさと切り捨ててしまいましょうぞ!」
彼らが勝利の美酒に酔いしれ、辺境伯一族の破滅を想像して高笑いしていた、まさにその時だった。
「だ、旦那様ァァーッ!!」
バンッ! と乱暴に扉が開かれ、侯爵家の筆頭家令が血の気を完全に失った顔で転がり込んできた。
「なんだ騒々しい! 今は重要な祝賀の最中だぞ!」
「ほ、報告申し上げます! 共同採掘会社の王都オフィスが……もぬけの殻です! 金庫も、帳簿も、すべて消え失せました!」
「……は?」
「王殿も行方不明! さらに、国境の鉱脈を調べに行かせた視察団からの早馬によれば……採掘予定地には、空っぽの洞窟があるだけだと……っ!」
ガチャン、とギデオン侯爵の手からワイングラスが滑り落ち、粉々に砕け散った。
「な……にを言っている? 資金は? 我々が投資した莫大な金はどうなった!?」
「わ、わかりません! ただ、会社自体が最初から存在しない『架空』であったとしか……!」
その場にいた数十人の貴族たちの顔から、一瞬にして血の気が引いた。
騙された。全財産を持ち逃げされた。
その事実を理解した瞬間、彼らの脳裏にフラッシュバックしたのは、国立銀行から借金をする際に押した『領地を担保とする』という分厚い契約書の山だった。
「あ、ああ……あぁぁぁっ!? すぐにどんな手を使ってでもワンを捜し出せ! 奴を拷問してでも金を吐き出させろ!!」
「投資した資金がゼロになれば、私の領地は……爵位はどうなる!!」
阿鼻叫喚のパニックに包まれる広間。
だが、彼らが逃げ道を模索するより早く、屋敷の正面玄関が凄まじい轟音と共に破壊された。
「ひぃっ!? な、なんだ!?」
「動くな! 国王陛下直属、王立近衛騎士団である!!」
ずかずかと広間に雪崩れ込んできたのは、完全武装した精鋭の騎士たち。
そして、彼らが恭しく道を開けたその中央から、絶対的な冷気と威圧感を纏った王・オズワルドが、レイピアの柄に手を添えて悠然と歩み出てきた。
「……おはよう、強欲な豚共。朝早くから強制執行で申し訳ない」
いつもの飄々とした気弱な態度は微塵もない。そこにあるのは、罪人を断頭台へと送る「冷徹なる裁判官」の顔だった。
「お、オズワルド陛下! これは一体どういう真似ですか! 議会の承認もなく、筆頭貴族である私の屋敷に無断で押し入るなど――」
「議会の承認? ほう、莫大な借金を抱えて『破産』した無一文の平民に、いつから議会の議決権が与えられたのかな?」
「なっ……!?」
ギデオン侯爵が息を呑むと、オズワルドは懐から分厚い書類の束――彼らがサインした国立銀行の借用書――を突きつけた。
「貴公らが私腹を肥やすために全財産を突っ込んだあの採掘会社は、最初から存在しない架空の会社だ。……ちなみに、あの口の上手い中華国の高官『王』を演じていたのは、辺境伯麾下の凄腕の諜報員でね。貴公らは見事に彼の手玉に取られたというわけだ」
「な……辺境伯の、スパイ……? じゃ、じゃあ、まさか……」
「そうだ。貴公らは、我が国を脅かす『敵国(中華国)』のスパイと極秘裏に内通し、王国の資産を勝手に流そうとした。これは明確な『国家反逆罪』に該当する」
オズワルドの宣告に、貴族たちはその場にヘナヘナと座り込んだ。
最初から、すべてはクロードが描いたトラップだったのだ。
オズワルドは絶対零度の声で、最終的な『判決』を下す。
「国家に対する莫大な債務不履行。および、敵国スパイとの非合法な闇取引。……これで、忌々しい議会の手続きを踏むことなく、合法的に貴公らの爵位と領地を没収できる
「ま、待ってください陛下! 領地を奪われたら、我々はどうやってこの天文学的な借金を返せばいいのですか!!」
泣き叫び、オズワルドのブーツにすがりつこうとするギデオン侯爵。だが、王はそれを冷酷に蹴り飛ばした。
「安心しろ。貴公らは鉱山が大好きだっただろう? 命が尽きるまで、我が王国の地下深くの鉱山で、ツルハシを振って借金を返済させてやる。……連行しろ」
悲鳴と命乞いが交錯する中、かつて王国を牛耳っていた腐敗貴族たちは、一網打尽に縛り上げられ引きずられていく。
彼らは自らの「強欲」によって自滅し、オズワルド王は一切手を汚すことなく、合法的に議会のガン細胞を摘出することに成功したのである。
お読みいただきありがとうございました。
もし「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ページ下部にある【ブックマークに追加】や、【☆☆☆☆☆】の評価を押して応援していただけると、今後の執筆の何よりの励みになります!
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




