資源輸送ルート破壊作戦
共和国の生命線は、東の超大国・中華国への「資源輸出」にあった。
中華国からの莫大な軍事支援(銃や戦車獣)は、共和国が近隣諸国から略奪した鉱物資源や、自国の資源を安値で売却することで辛うじて成り立っている。
当たり前の事だが、今の共和国には致命的な弱点があった。
先の第二次辺境伯領防衛戦において、無謀な人海戦術で十万を超える主力を喪失した事だ。
国境の維持すらおぼつかないほどの深刻な兵力不足に陥った共和国には、長く険しい資源輸送ルートの全てに堅牢な防衛網を敷く余裕など、もはや残されていなかったのである。
スカスカになった物流の網の隙を、あの「化け物たち」が見逃すはずがなかった。
その日も、大量の鉄鉱石と魔石を積んだ共和国の重装甲列車が、中華国へ向けて荒野を疾走していた。護衛の数は、本来の規定の三分の一以下。
そして進路を塞ぐように、線路の上に『所属不明の野盗』が三人、立ち塞がっていた。
「おい、なんだあの馬鹿どもは。轢き潰――いや、待て! あの大剣と槍は、まさか辺境伯の……ッ!?」
少ない人員で駆り出されていた警備隊長が、血の気を引かせて絶叫した次の瞬間。
大剣を持った小柄な野盗が、信じられない跳躍力で列車の先頭車両へ飛び乗った。
「あははっ! フルスイングいっくよー!」
ドゴォォォォォンッ!!
振り下ろされた大剣が、分厚い鋼鉄の装甲を紙切れのように叩き割り、先頭車両を脱線・大破させる。
「な、なんだコイツら!? 撃て、撃てェッ!」
パニックに陥る警備兵たちへ、今度は長槍を持った野盗が疾風の如く肉薄する。
「遅い。マトのほうがマシだ」
槍の石突きで銃を叩き折り、流れるような連撃で数十人の兵士を瞬く間に無力化していく。さらに後方からは、優雅な所作でもう一人の野盗が、残る車両を大剣の峰打ちで次々とダルマ落としのように粉砕していった。
「さあ、お宝は全部いただきですわ。中華国の皆様には『品切れ』とお伝えくださいな」
こうして、辺境伯軍の武闘派トリオによる「物理的な兵站破壊」が始まった。
列車が次々と襲撃される事態を受け、共和国は残るなけなしの守備隊をかき集め、別ルートでの輸送を試みる。だが、兵力が足りないからこそ「地形」に頼ろうと選んだ大渓谷の巨大橋梁は、すでに『裏の支配者』の手の中にあった。
「橋脚の構造的弱点はここですわね。少ない護衛の巡回ルートには見事に穴が空いていますわ」
後方支援の要であるセリアの緻密な計算に基づき、前夜のうちにキース率いる暗殺部隊が音もなく橋の土台へ潜入。急造火薬を「最も致命的な一点」にのみ仕掛けていた。
翌朝、重い資源を積んだ車列が差し掛かった瞬間、轟音と共に巨大橋梁は中央からポッキリと折れ、車列ごと谷底へ崩落。陸の大動脈は完全に切断された。
「陸が駄目なら海だ! 海上ルートで一気に輸送しろ!」
焦燥に駆られた共和国の上層部は、ありったけの輸送船に資源を積み込み、厳重な護衛と共に港を出港させた。だが、もともと不凍港を持たず、陸軍偏重な共和国は、もともと海軍には力を入れておらず、あまり使い物にならない旧式の艦艇を中心とした艦隊を持つのみだった。しかも巨大な国土がこの時は災いし、中華国へは大陸沿いに大きく迂回し、尚且つ航路がバレバレであった。
それを見逃すような『王国』ではなかった。海上の覇権を握るの王国が誇る精鋭海軍が待ち構えていた。
海賊旗を掲げた(オズワルド王の偽装である)王国自慢の快速ガレオン船団が、共和国の鈍重な輸送船団を瞬く間に包囲。大砲の一斉射撃で帆柱をへし折ると、完全武装の王国騎士たちが斬り込みをかけ、全ての資源をごっそりと接収してしまったのである。
狂気の沙汰とも言える人海戦術のツケが、ここに来て共和国の首を決定的に絞め上げていた。
護衛の足りない列車が潰され、橋が落ち、海路すらも封鎖される。辺境伯陣営と王国軍の連携によって、共和国から中華国へ向かう資源ルートは片っ端から使えなくされ、破壊されていった。
結果、資源の供給がほぼストップした中華国の上層部から、共和国の指導者フーニン宛てに一通の親書が届けられた。
それは、超大国特有の慇懃無礼で、やんわりと、しかし明確に相手を下に見る文面だった。
『いやはや、このような事態となっては、困りましたな。相互の輸送路が荒らされているとのこと、大変憂慮しております。これでは、我が国から貴国へと約束した「支援物資や兵器」をお送りすることができません。貴国の偉大なる歩みを、これ以上手助けできないのは非常に心苦しい。至急、輸送路の安全を回復していただかないことには、我々としても今後のご支援を考え直さざるを得ません。問題の速やかな解決を、心より期待しております』
重く冷たい、超大国からのなんとかしろの通牒。
次男クロードが描いた盤面の通り、独裁者フーニンの首には今、目に見えない巨大な真綿が巻き付き、確実に絞め上げられようとしていた。
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