迫り来る脅威
「……以上が、我が領の東部国境から生還した数少ない偵察隊員からもたらされた、血塗られた報告です」
執務室の巨大な円卓に広げられた大陸地図。次男クロードは、地図上に駒を並べながら冷徹に事実を告げた。
現在の勢力図は明確に分断されている。
辺境伯領を中央とし、西側には長年の同盟国である【王国】が控えている。
問題は東側だ。辺境伯領と、フーニン率いる【共和国】の間には、通常であれば軍の大規模展開を阻む険しい『魔の森』が存在している。
さらに北東から東にかけては、かつて帝国崩壊時に独立した小国群が点在しているが、現在はすでに共和国の武力に屈し、事実上の衛星国家として取り込まれていた。その外周部には共和国に阿る国もあれば、潜在的敵国として睨み合っている国もある。
辺境伯レオンハルトも、キースやルイーザたちも、決して油断していたわけではなかった。魔の森に対する警戒網は常に厚く敷いていたはずだった。
しかし、共和国の進軍速度と「手段」は、彼らの常識を完全に凌駕していたのである。
「国境の警備隊は全滅。後続の偵察隊もほぼ壊滅。……まさか、あの魔の森を強行突破してくるとはな」
父レオンハルトが苦渋に満ちた声で唸る。彼らの尊い犠牲によってもたらされた情報は、あまりにも絶望的で、かつ不可解なものだった。
クロードは手元の羊皮紙を読み上げる。そこに記された共和国軍の「新たなる戦術」は以下の3点である。
* 装甲モンスター車(戦車)の運用
巨大な四つ足モンスターを使役し、分厚い鉄で覆われた「鉄グルマ」を牽引させている。矢や刃を弾き返し、あたかも動く城塞のごとく隊列を組んで前進してくる。
* 災害級モンスターの使役
本来ならば一匹現れただけで国が傾くと言われる『災害級』のモンスター サイクロプスを、なんと10体も調教し、軍の先陣として引き連れている。
* 謎の音響兵器(銃器の登場)
共和国の歩兵が持つ「黒い筒」から破裂音が鳴り響いた瞬間、警備隊や偵察隊の兵士たちが次々と見えない力で撃ち抜かれ、バタバタと倒れていった。
「筒から鳴る破裂音……飛び道具か。弓や魔法よりも速く、鎧を貫通する威力を持っていると推測されます。そして、モンスターの使役技術。奴らは『魔の森』を迂回するどころか、森のモンスターを自軍の兵器として取り込みながら進軍してきたのです」
さらにクロードは言葉を継ぐ。
「中でも最悪なのは、空を飛び火を吐く『ドラゴン』が3匹確認されていることです」
沈黙が落ちた執務室で、真っ先に動いたのは元・王都撃滅隊隊長のルイーザだった。
お嬢様のように優雅な所作で口元を扇で隠す。しかし、その奥の瞳は歴戦の狂戦士特有の獰猛な笑みの形に歪んでいた。
「まぁ、なんてこと。分厚い鉄の車に、見えざる矢を放つ筒。その上ドラゴンまでいらっしゃるなんて……ふふっ、久々に血が沸き立ってしまいますわ」
「あははっ! お母様、最高! ドラゴンなんて私、一回フルスイングでぶっ叩いてみたかったんだよね!」
ルイーザの言葉に、次女のミラが背中の大剣をバンバンと鳴らして目を輝かせる。
「こら、ミラ。あんまり派手に暴れすぎるとモンスターのお肉が潰れて、せっかくの素材が台無しになってしまいますわよ。……クロード、兵站と怪我人の輸送ルートと、西の王国への物資・援軍要請は私がすでに済ませておきました」
長女セリアがいつものおっとりとした口調で、完璧な後方支援の完了を報告する。
現状では、圧倒的な物量と未知の新兵器で迫る共和国軍を打ち破るには、地形を利用した遅滞戦術と、一人一人の「規格外の個の力」を押し付けるしかない。
「どうやら、奴らは内乱を経てもなお、覇権への執着を捨てきれなかったらしいな」
辺境伯レオンハルトが力強く立ち上がり、信頼する歴戦の盟友たち、そして頼もしい我が子たちを見渡した。
「全軍に布告しろ。 フーニンの野望ごと、奴らの未練をこの地で完全に断ち切るぞ!」
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