第二次辺境伯領防衛戦
時代劇シリーズもネタが切れて来たので、戦記物を始めます。
かつて、辺境伯レオンハルト率いる軍勢が、押し寄せた帝国軍を徹底的に粉砕してから、実に20年の歳月が流れていた。
辺境での致命的な敗北は、絶対的だった帝国の威信を完全に失墜させた。敗戦の混乱と重税に耐えかねた民衆の怒りが爆発して大規模な内乱が勃発し、皇帝は反乱軍の手によって捕らえられ、広場で処刑された。かつての大帝国は崩壊し、独立を宣言する属国が相次いで領土は激減。辺境伯領には、長きにわたる平穏な日々が訪れていた。
その平和な20年の間に、領地には新たな世代が逞しく育っていた。
辺境伯レオンハルトと、美しく聡明な妻セレスティアの間には、二人の息子が誕生した。
長男のジークは、父の血を強く受け継ぎ、圧倒的な武の才能を開花させていた。人柄は温厚で情に厚く、それでいて彼が振るう槍は疾風の如く、若くしてすでに騎士団を束ていた。
一方、次男のクロードは、母に似て恐ろしいほど頭がキレた。戦術論から内政、他国の動向分析に至るまで底知れぬ知略を誇り、十代にしてすでに領内の実質的な参謀長として機能していた。
そして、領地にはもう一組、欠かせない重鎮となる家族がいた。
かつて王都の治安維持でその名を轟かせた武闘組織「王都撃滅隊」。その隊長を務めた凄腕の大剣使いルイーザと、彼女を支えた副長のキースである。彼ら夫婦は王都が平和を取り戻し、撃滅隊解散後に辺境伯領へ帰郷しスローライフを始めたが、大事な案件は必ず相談され、領地の運営と防衛においてレオンハルトの絶対的な信頼を得ていた。
そんなキースとルイーザの間にも、二人の娘が誕生していた。
長女のセリアは、過激な経歴を持つ両親から生まれたとは到底思えないほど、おっとりとして優しい性格だった。しかし家事や管理能力は抜群で、領主館や騎士団の兵站を完璧に切り盛りする「しっかり者」である。
対照的に、次女のミラは完全なるお転婆だった。王都撃滅隊の隊長だった母ルイーザ譲りの身の丈ほどもある大剣を軽々と振り回し、日課のように辺境の森へ出向いては、生態系を荒らす巨大モンスターを嬉々としてどつき回すという、規格外の少女に育っていた。
若き世代が才能を花開かせ、領地が活気に満ちていたある日。
次男のクロードが、独自の情報網から集めた分厚い報告書を参謀室の巨大な円卓にのせ、報告した。
「……父上、母上。キース副長にルイーザ隊長。どうやら、20年続いた平和な時間はここまでのようです」
クロードの冷徹な声が執務室に響く。
内乱によって崩壊し、消滅に向かっていたはずの旧帝国。しかし、フーニンと名乗る得体の知れない男が突如として混乱を鎮めて権力を掌握し、国の消滅を力技で食い止めたというのだ。
フーニンは巧みな政治手腕で王政を廃止し、表向きは「議会制の共和国」として国を再建したと宣言した。だが、それは周辺諸国を欺くための仮面に過ぎなかった。
議会はフーニンの完全な傀儡であり、実態はかつての帝国以上の苛烈な権威主義体制。水面下で着々と軍備を拡張し、周辺諸国を恫喝と甘言で取り込んで巨大な包囲網を敷き、再びこの辺境伯領の領土を狙っていたのだ。
「表向きは共和国を名乗りながら、やっていることは領土の簒奪……ふざけた真似を」
報告を聞いていた長男ジークが、父譲りの鋭い瞳を光らせて槍の柄を握りしめる。
その横では、話を聞きつけたミラが自分の大剣をバンバンと叩きながら笑っていた。
「あははっ! いいじゃん、最近森のモンスターも狩り尽くして退屈してたんだよね。共和国軍だか何だか知らないけど、あいつらの新しい鎧、元・王都撃滅隊隊長直伝の『大竹割り』で叩き割っていいんでしょ?」
「こら、ミラ。あんまり暴れすぎるとお転婆と思われて嫌われますよ。……お食事の準備と野戦病院の手配は、私が進めておきます」
おっとりと微笑むセリアは、クロードからあらましを予め聞いていて、すでに戦時下の後方支援を支える準備を始めていた。
頼もしく、そして少しばかり規格外に育った子供たちを見つめ、レオンハルトとセレスティア、そしてキースとルイーザは静かに頷き合った。かつて血を流して勝ち取ったこの地の平和を、今は次なる世代と共に護る時が来たのだ。
「どうやら、奴らは内乱を経てもなお、覇権への執着を捨てきれなかったらしいな」
辺境伯レオンハルトが力強く立ち上がり、信頼する歴戦の盟友たち、そして頼もしい我が子たちを見渡した。
「全軍に布告しろ。これより、第二次辺境伯領防衛戦を開始する! フーニンの野望ごと、奴らの未練をこの地で完全に断ち切るぞ!」
父譲りの武と、母譲りの知略。
撃滅隊直伝の剛剣と、完璧な兵站を支える優しき支援。
20年の時を経て育まれた強靭な絆と次世代の力が交差する中、新たな防衛戦の火蓋が、今まさに切って落とされた。
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