女神よりも…
屯所での激務を終えたある日の深夜。
薄暗い隊長室で、ルイーザは机に突っ伏して小さくため息を吐いていた。手元には、王都の複雑な行政手続きに関する書類が山積みになっている。
「……やっぱり、私にはお姉様のような頭脳はありませんわ。こんな書類の山、お姉様なら瞬きする間に片付けてしまうのに」
しょんぼりと犬のように耳を垂らすルイーザ。
大剣を振るう時の凛々しい姿はどこへやら、身内しかいない空間で見せるその無防備で愛嬌のある落ち込み顔に、ソファでナイフの手入れをしていたキースは、愛おしそうに切れ長の目を細めた。
「隊長殿は、本当にセレスティア様を尊敬しているんですね」
「当然ですわ。あんなに美しくて、賢くて、完璧な女性はいませんもの。……私なんて、顔もお姉様みたいに綺麗じゃないし、すぐ感情的になるし、力任せに剣を振り回すことしかできない……」
自嘲するルイーザ。
しかし、キースは音もなく立ち上がると、ルイーザの背後に回り、その不器用で温かい小さな頭をポンと優しく撫でた。
「……えっ、キース副長?」
「俺は、そんは隊長殿の方が好きですよ」
「なっ……!」
突然の言葉に、ルイーザの丸く大きな瞳がパチクリと瞬き、瞬く間に頬が林檎のように真っ赤に染まる。
「セレスティア様は確かに完璧な女神様だ。だが、現場で泥にまみれて、仲間の怪我に本気で涙を流して、自分の身を挺して悪党から弱者を守る……そんな愛嬌たっぷりで真っすぐなあなただからこそ、撃滅隊の荒くれ者たちは命を懸けてついていくんです。……俺も含めてね」
悪には冷酷な暗殺者が、自分にだけ向ける甘く熱を帯びた声。
ルイーザは姉へのコンプレックスすら包み込んで全肯定してくれるキースの言葉に、恥ずかしさと嬉しさで胸をいっぱいにし、「も、もう! またそうやってからかって!」と涙目で抗議しながらも、その優しい手から決して逃げようとはしないのだった。




