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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
辺境の凄腕暗殺者は、不器用な大剣令嬢にだけは甘く微笑む〜王都の悪党はすべて【根切り】にしますが、隊長殿への愛も止まりません〜』

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王都撃滅隊再び

すみません、以前書いた小説をが活かせる状況になったので、せっかくだし設定は同じでも全く違うストーリーにリライトしてみようと思って、二章目を書きました。読んでもらえると嬉しいです。


帝国との戦も、辺境伯とその義理の父である公爵の活躍により、帝国軍は撤退し、王都は解放された。

その後の辺境伯夫人と公爵はの政治的に剛腕をふるい、王都はある程度の落ち着きを取り戻しつつはあった。しかし一度崩れた王都の治安と、何より人々の他人への不信は改善するどころか、ますます悪化の一途を辿って行く。そこで、辺境領に帰った辺境伯夫婦から、王都の暫定統治を任された公爵は密かに辺境伯夫婦に連絡をとり、王都の治安が戦前に戻る程度になるまで、ある超法規的な処置を取る事をきめた。


草木も眠りにつくであろう夜半過ぎ、折しも新月の夜である。

眠らぬ王都は辻々を灯りで照らしてはいるけれど、王都の全てを照らすには足らぬ。

その灯りが届かぬ街角に、黒覆面の男が地面から生えたように唐突に現れた。

その男に続き、やはり暗闇から生まれたかのように十人程ばかりの人影が現れる。黒い装束に身を包み、覆面を被ったその集団は、盗賊か、はたまた暗殺者か。いずれにせよ、なにがしかの犯罪を行おうとはかっているのは明白とみえた。

彼奴等がたがいに目配せし、背中合わせに各々散ろうとした、その時。

一条の光が、唐突に暗闇を照らした。

黒装束たちは目を迸らせて剣を引き抜き、光の方を見やる。

「あの〜すみません。こんな夜更けに、そちらで何をされてるのでしょう?」

一瞬で緊張に満ちたこの場を弛緩させるような、間延びした呑気な声。

声の主人は、暗くてよくは見えないが若い男のようだ。

黒装束たちは油断なく身構え、邪魔者を消すべく、声の主めがけて一斉に斬りかかった。

――転瞬。

何が起きたのか。先頭を走っていた黒装束たちが、悲鳴を上げる間もなくバタバタと地面に倒れ伏した。

暗闇からさらに十人ほどの人影が現れ、カンテラの灯りを差し掛けて黒装束達に立ちはだかる。

一人は先ほど声をかけた中肉中背の男で、黒地のビロウドの将校服を着ている。手には、血の滴る暗器のナイフが握られていた。

残るは、紺地に灰のだんだら模様の詰襟制服を着た男達だ。油断なく灯りと武器を構え、黒装束たちを包囲する。

「最近この辺りを荒らしまわっている盗賊団とは、こいつらのことですの?」

場に響いたのは、鈴が鳴るような、しかし威風堂々とした美しい女性の声だった。

ずいっと制服の集団の一番前に出てきたのは、ほっそりとした長身の女。彼女は己の身長と同じ程もある武骨な大剣を、重さなどないかのように軽々と片手で持ち上げ、刃先を黒装束に突きつけた。

「女か!」

黒装束たちは一瞬あっけにとられた。女が大剣を振るうなどと、場が再び一瞬だけ弛緩する。

しかし転瞬、それは極度の緊張と恐怖に変わった。

(もしや、こいつらは……王都撃滅隊か!? くそっ!)

黒装束の頭と思われる男が、さっと踵を返し逃走に入った。

それを助けるように、残りの黒装束集団は武器を構え、足止めのために女の前に立ちはだかる。

「死ねぇっ!」

だが、立ちはだかった女――ルイーザは、涼しい顔で大剣を振り抜いた。

凄まじい風圧と鋼の激突音。女の細腕から放たれたとは思えない圧倒的な一撃が、黒装束たちの剣を飴細工のようにへし折り、たちまちのうちに数人を吹き飛ばして打ち倒していく。

残りの制服の隊員たちが、打ち倒された黒装束たちを手際良く捕縛していく。

「愚か者。これ以上手向かいをするなら、この場で斬り捨てますわよ!」

凛々とルイーザがよばわると、その圧倒的な武威に心を折られた残りの黒装束達は、武器を捨ててその場に座り込んだ。

しかし、その騒ぎの間に、頭目の姿はすでに闇の奥へと消えてしまっていた。

捕らわれた黒装束達を、だんだら模様の制服姿の男達が手際よく連行していく。

しんがりに、大剣を肩に担いだルイーザと、将校服のキースが続く。

だんだら模様の隊員の一人が、隊長であるルイーザに尋ねた。

「逃げた頭目はいかがいたしましょう? 誰かに追わせますか?」

ルイーザは、隣を歩くキースの横顔を見遣る。

「キース副長。これからどうしますの? 泳がせて盗賊団ごとアジトを潰すおつもり?」

すると将校服のキースは、くるりと踵を返す。

「とりあえず屯所に帰ってから考えるよ、隊長。捕まえたやつらから、何か聞けるかもしれないしね」

キースはにっこりと笑った。

秀麗な顔だ。通った鼻筋、細く整った顎のライン。しかして最も印象的なのは、暗闇でも妖しく光る切れ長の目だろう。彼が醸し出す雰囲気は、周りの血生臭い武ばった空気にそぐわない、艶やかな印象すら与える。大抵の女は、それどころか男でさえも見惚れるほどの美貌。

だが、その切れ長な目が細められて街灯の闇に映えた瞬間、そこには一切の温度がない、純粋な殺意だけが宿っていた。


――王都の罪なき人々に仇なすものは、根切りだ。

男の胸の内に渦巻く冷徹な意志は、言葉とならずに新月の闇へと溶けていった。

王都撃滅隊。

最近、急激に王都に勇名を響かせはじめた超法規的警備集団。

悪事に手を染めている輩を、詮議なしで切り捨てる。その強大な権限を、現在王都の暫定統治を担うグランチェスター公爵から直接与えられた組織である。

初代隊長であるルイーザは、公爵の次女にして『完璧な公爵令嬢』セレスティアの実の妹であり、副長のキースは、あの『鮮血の辺境伯』レオンハルトの暗部の長であった。

「お疲れさん、隊長。まあ、怪我がなくて何よりだ」

王都の裏路地にひっそりと構えられた撃滅隊の屯所。

隊長室の古びた長椅子にどっかりと腰を下ろした副長のキースは、黒のビロウドの将校服の襟元を緩めながら、飄々とした口調で労いの言葉を口にした。

執務机の向かいで、先ほど振るった大剣を布で丁寧に拭いながら、隊長のルイーザは柳眉を不満げにひそめた。

「お言葉ですけれど、キース副長。あの程度の雑魚に後れを取るような柔な訓練は、この隊では受けておりませんわ。お姉様と義兄上様レオンハルトが治める辺境の過酷さに比べれば、あの程度の賊など児戯に等しいですわね」

「ああ、逃げた頭目のことか。気にしなくていいよ」

キースはサイドテーブルの林檎を手に取り、隠し持っていた暗器のナイフで器用に皮を剥き始めた。

「さっき報告が上がってきた。逃げた頭目は、王都の北門近くで『偶然』うちの別働隊に出くわしてね。少し抵抗したらしいが、超法規的措置に則り、その場で処分されたそうだ」

「……なるほど。泳がせるふりをして、逃走経路に伏兵を置いておりましたのね。相変わらず、辺境の暗部らしいえげつない手を使いますこと」

「褒め言葉として受け取っておこう。俺たちは騎士様じゃない。旦那様から義父上への『手土産』として王都に残された身だ。この街に巣食う害虫を、一番効率よく、一番確実に駆除するのが、影を歩く俺の仕事だ」

キースが細く整った顎を傾け、艶やかな切れ長の目でからかうように見つめると、ルイーザはふん、と鼻を鳴らして大剣を鞘に納めた。

「戯れ言を。暗部の長であるあなたが隊長として表舞台に立てば、不要な反発を招きますわ。だからこそ、公爵家の人間である私が『撃滅隊の隊長』としてこの屯所に身を置いているのです。……私はやり遂げなければなりませんの。あなた方が守ったこの国を、今度は私自身の刃で浄化し、お父様の統治を支えるために」

「怖い怖い。おっかない公爵様と、優秀すぎる隊長殿に見限られたら、俺なんて明日に寝首を掻かれちまうからな。せいぜい期待に応えられるよう、馬車馬のように働くとするさ」

飄々とした態度を崩さない暗殺者の男と、凛と背筋を伸ばし真正面から悪を睨みつける公爵令嬢。

光と影のように対極な二人は、しかし『王都の浄化』という絶対的な目的のもと、奇妙なほどの信頼関係で結ばれていた。

「さて、夜明けまでにもうひと仕事だ。大剣の刃こぼれはないか?」

「ええ。いつでもよろしくてよ」

キースが立ち上がり、漆黒の将校服の裾を翻す。

彼らが屯所の扉を開けると、夜明け前の最も深い闇が、王都の街を覆っていた。

――罪なき人々に仇なす者は、すべて根切りにする。

その信念のもと、公爵家の令嬢と辺境の暗部が率いる、血塗られた『大掃除』の幕が今、静かに上がったのである。


お読みいただきありがとうございました。

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