大乱闘!!
(俺の……俺のあの王としての熱い決意と覚悟を返せェェェッ!!)
ジークとガロンが放つ激しい衝撃波の風に吹かれながら、ポツンと取り残されたカナタの奥歯が、ギリギリと嫌な音を立てた。
行き場を失った莫大な魔力と、無視されたストレスが、ついに臨界点を突破する。
「……バカにすんのも……」
ゴゴゴゴゴゴォォォォォッッ!!
カナタの足元から、先ほどまでの「王の威厳」などとは比べ物にならない、純粋な『怒り(キレた)』による漆黒の魔力柱が天を貫いた。
「いい加減にしろォォォォォォォォォッッッ!!!」
ドッッッッガァァァァァァァァァン!!!
特大の魔力爆発が闘技場の中央で炸裂し、キャッキャと闘っていたジークとガロンを纏めて吹き飛ばした。
「おおッ!? 魔王が拗ねたぞ!」
「フフフ、素晴らしい魔力ですカナタ様! ならば三つ巴と参りましょう!」
吹き飛ばされながらも、二人の戦闘狂は最高に嬉しそうに体勢を立て直す。
そして、この特大の魔力爆発という『合図』を見逃すような大人しい連中は、この会場には一人もいなかった。
「ふはははは! 大乱戦とあらば、私も黙って見ているわけにはいかんッ!!」
控え席から烈魁皇が跳躍し、闘技場へ乱入する。
「うふふ、私も混ぜてちょうだい!」
ミラが大剣を構えて突撃し、
「我が推し(魔王様)の御怒り、このディルクが先陣を切って鎮めようぞ!」
オタクエルフがペンライトを放り投げて弓を番え
「実況解説などしている場合ではないッ! 我が戦斧も混ぜろォォ!」
ゴードンが実況席からダイブする。
「やれやれ……。ヴィンセント殿、少しだけ残業(延長戦)と行こうか」
「御意に。残業予算の範囲内で、存分に暴れましょう」
クロードとヴィンセントまでが、ニヤリと笑い合いながら魔法陣と暗器を展開して乱入してきたのである。
『ああもうメチャクチャやァァァ!! 副将戦も大将戦も関係あらへん! 全員参加のスーパー大乱闘の始まりやァァァッ!!』
チャチャのヤケクソの実況が響き渡る。
もはや陣営も勝敗もない。闘技場は、物理最強のゴリラ、中国四千年の拳、吸血鬼のナイフ、天才の魔法、暗殺者の大剣、エルフの光矢、ヴァイキングの斧、そして黒竜のブレスが入り乱れる、文字通りの『地獄の坩堝』と化した。
「だから! なんでそうなるんだよお前らァァァッ!!」
カナタは涙目でツッコミを叫びながら、襲いかかってくる全方位からの理不尽な暴力を、覚醒した魔力剣で泣きながら捌きまくった。
観客席の人間も魔族も、あまりのカオスと圧倒的な火力の応酬に、野次を飛ばすことすら忘れてヤンやの大喝采を送っている。
――そして、数時間後。
「…………」
カナタは、煙を上げる巨大な『すり鉢状のクレーター』の底に座り込んでいた。
かつて闘技場と呼ばれていたものは、跡形もなく消し飛んでいた。周囲の森の木々もなぎ倒され、文字通りの更地(焼け野原)である。
「……終わった。金が、完全に吹き飛んだ……」
真っ白に燃え尽きたカナタの横で、ヴィンセントがボロボロの燕尾服のまま、綺麗に製本された『闘技場再建見積書兼・損害賠償請求書』をそっと差し出してくる。
だが。
「ふはははははッ! 痛快! 実に痛快だったぞカナタ!」
「あいたた……。我が四千年の歴史でも、これほどの乱戦は初めてだッ!」
「うふふ、皆いい汗かいたわね」
クレーターの底には、大の字になって倒れ込み、泥だらけになりながら腹を抱えて笑い合う規格外のバケモノたちの姿があった。
ジークも、烈も、クロードも、ガロンも。人間も魔族も関係なく、互いの健闘を称え合い、心底楽しそうに笑っている。
ふと上を見上げれば、観客席だった場所の瓦礫の上に人間と魔族が入り混じって座り込み、「すげえ祭りだったな!」「ああ、最高だ!」と酒を飲み交わしているではないか。
「……なんだこれ」
酷い有様だ。経理官としては絶対に認めたくない、バッドエンドである。
しかし、吹き飛んだ会場の真ん中で、種族の壁を越えて大笑いする彼らの姿を見ていると――カナタの胸の奥にあった重いプレッシャーが、嘘のようにスッと軽くなっていった。
(理不尽で、メチャクチャで、計算なんて一つも合わない。……でも、悪くない)
人間と魔族が共に笑い合う、このバカバカしくも温かい景色。
これこそが、特区『魔の森』が目指すべき、ひとつの完成形なのだ。
「……仕方ない。明日からまた、徹夜で予算の組み直しだな」
カナタは呆れたように息を吐くと、泥だらけの顔に、今日一番の――少しだけ未来が楽しみになるような、柔らかい笑みを浮かべた。
最強のゴリラたちと、完璧な執事と、元経理官の魔王。
彼らがゼロから創り上げる、最高に騒がしくて型破りな「スローライフまちづくり」の物語は、この巨大なクレーターの底から、今ようやく本当のスタートを切ったのである。
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