大将戦1
闘技場の中央。
先ほどの狂騒が嘘のように、深い静寂が降りていた。
ジークとカナタは、互いに構えをとったまま、瞬き一つせずに見つめ合っている。
最初に動いたのは……いや、動いたように見えなかった。音もなく間合いが詰まる。
ジークの黒鋼の大槍が、滑らかな軌道を描いて突き出された。
対するカナタもまた、漆黒の魔力剣を流水のように這わせ、その一撃を完璧な角度で受け流す。
それは凄惨な殺し合いではなく、極限まで洗練された『演武』のようだった。
借方と貸方。力と反作用。
ジークの放つ莫大な物理エネルギーを、カナタの武術の型で一分の狂いもなく相殺していく。
ギィィィン……! カキンッ!
幾重にも重なる剣戟の音が、徐々にその間隔を狭めていく。
瞬く間に二人の動きは加速し、残像すらも置き去りにしていく。
観客の目には、もはや散る火花と、石畳が抉れる衝撃波しか見えない。
(……凌ぎ切れる。ジークさんの理不尽な暴力を、僕が完璧に相殺している……ッ!)
カナタは極限の集中の中で、歓喜に似た手応えを感じていた。
そして――闘争の速度は、ついに常人の理解を凌駕する極致へと達した。
ピタリ、と。
闘技場の中央で、激しく打ち合っていたはずのジークとカナタの姿が『完全に静止』したのだ。
いや、止まっているのではない。
余りにも速く、余りにも無駄のない完璧な力学の均衡状態。
互いの攻撃と防御がコンマ一秒、ミリ単位で相殺され続けているため、視覚情報として「動いていないように錯覚している」だけなのだ。
異常な光景だった。
構えたままで向き合っているように見える二人の周囲だけで、不可視の衝撃によって石畳が粉々に砕け、竜巻のような暴風が天に向かって吹き荒れている。
会場は水を打ったように静まり返っていた。
数千の観客が息を呑む音すら聞こえない。
実況のマイクを握るチャチャも、自称格闘評論家のゴードンでさえ、言葉を失って口を半開きにしている。ただ、新王オズワルドと烈魁皇だけが、その見えない攻防の果てにある『美しさ』に目を細め、静かに息を吐いていた。
永遠にも似た、静寂の中の極超音速の攻防。
だが、ふと
二人は申し合わせたように同時に足を引き、互いの間合いから大きく離れた。
闘技場に吹き荒れていた暴風が、嘘のように止む。
構えを解き、静かに向かい合う二人
無言
ただ、燃え盛る松明の爆ぜる音だけが、静まり返った闘技場に響いていた。
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