副将戦の終演と大将戦
極大の閃光と、全てを切り裂く白銀の連撃が、闘技場の中央で激しく交錯した。
凄まじい爆風が巻き起こり、観客席にまで熱波が押し寄せる。
土煙がゆっくりと晴れた後――そこには、互いの肩口や脇腹に攻撃を浅く突き立て合い、揃って石畳に片膝をつく二人の姿があった。
指揮棒の先端はヴィンセントの胸元をかすめ、ヴィンセントのナイフはクロードの首筋に薄い血の線を引いている。どちらも致命傷には至っていないが、完全に魔力と体力を使い果たしていた。
『あ、相打ちだァァァッ!! 副将戦、両者戦闘不能により……引き分けッッ!!』
チャチャのアナウンスが闘技場に響き渡る。
激闘を終えた二人は、ゆっくりと武器を引き、そして同時にふっと息をついた。
「……フッ。少しは計算が狂ったかな、執事殿」
「ええ。ですが、実に見事な魔力コントロールでしたよ、当主殿」
傷だらけになりながらも、二人の顔にはこれ以上ないほどの晴れやかな笑みが浮かんでいた。
来る日も来る日も書類の山と格闘し、身内の暴走の尻拭いに追われる日々のストレス。
それを全て互いの顔面に叩き込み合ったことで、二人の最高の実務担当者たちは、憑き物が落ちたようにスッキリとした表情で握手を交わしたのである。
『これで戦績は一勝一敗二引き分け! なんと、全てが決まる大将戦へともつれ込みました!!』
闘技場の熱狂が最高潮に達する中。
辺境伯陣営のゲートから、ズシン、ズシンと、大地の底を揺らすような重い足音が響き始めた。
熱気で歪む空気の中を割って現れたのは、身の丈を優に超える黒鋼の大槍を肩に担いだ巨漢。
最強の物理力を誇る戦闘狂にして、この親善大会の火付け役――辺境伯家長男、ジーク・レオンハルトであった。
歓声すら恐怖で凍りつくほどの圧倒的な覇気を放ちながら、ジークは闘技場の中央で立ち止まる。
そして、無造作に大槍を振り下ろすと、その切っ先を、魔王軍のVIP席へと真っ直ぐに向けた。
「……えっ? 誰?」
VIP席に座っていたカナタは、自分に向けられた殺気にキョロキョロと周囲を見回した。
しかし、背後には誰もいない。ジークの鋭い眼光は、間違いなく『魔王カナタ』の眉間を正確に捉えていた。
ジークは言葉を一言も発しない。
しかし、激しく燃え盛るその瞳が、雄弁に全てを語っていた。
『降りてこい! 降りて、俺と戦え!』
その強烈な眼差しの意味を悟った瞬間、カナタの全身から滝のような冷や汗が噴き出した。
(ま、待て待て待て! なんでお前が俺と戦いたがってるんだよ! 俺の味方じゃなかったのか!?)
だが、カナタの脳裏に、数日前の『地獄の型稽古』の記憶がフラッシュバックする。
基礎中の基礎だと言いながら、完璧な武術の型をカナタの身体に叩き込んだジーク。
その結果、カナタは暴走する魔力を完全に制御し、途方もない破壊力を振るうことができるようになってしまった。
『俺が、お前を目覚めさせたのは……お前と全力で闘いたかったからだッ!!』
ジークの瞳から放たれる、あまりにも純粋で、そして身勝手すぎる『戦闘狂の愛』
自分を鍛え上げたのは、ただ己の全力をぶつけるための極上の好敵手を作るためだったのだ。
「む、無理無理無理! 労災下りない! 辞表出します! 俺はただの経理官だァァァッ!!」
完全に生命の危機を感じたカナタは、椅子を蹴り倒し、闘技場とは反対方向の出口へ向かって全力で逃走を図った。
しかし、無情にも。
『さあさあさあ! 逃げ場のない大将戦! 魔の森の全てを懸けた最終決戦のカードはこれだァァァッ!!』
実況席のチャチャが、空気を全く読まない(あるいは全て読んだ上での)特大のボリュームで高らかに宣言してしまった。
『辺境伯陣営大将・【最強のゴリラ】ジーク・レオンハルトォォ!! 対する魔王軍大将は、この特区の長にして全てを統べる者! 【元経理官の超転生魔王】カナタァァァッッ!!!』
ウオォォォォォォォォォォッッッ!!!
闘技場を揺るがす、数千人の観客の地鳴りのような大歓声。
逃げ口の前に立ちはだかるように、烈魁皇が腕を組んで満面の笑みで頷き、リリスが「魔王様、ファイトです!」と拳を握っている。
「お前ら、後で全員減給だからな……ッ!」
逃げ場は完全に断たれた。
カナタは血の涙を流しながら、天を仰ぎ、一度だけ深々とため息をつく。
(……やるしかない。あの戦闘狂の脳筋ゴリラに、一泡吹かせてやる!)
カナタは静かに振り返り、足元の石畳を蹴った。
その瞬間、彼の周囲に漂っていた怯えの空気がフッと消え失せ、完璧に計算された『型』の静寂が全身を包み込む。
闘技場へと舞い降りた魔王の手に、キュイーンという極限まで圧縮された漆黒の魔力が収束し、一本の長剣を形作った。
最強の物理と、完璧な魔力融合。
互いに不敵な笑みを浮かべた二人が対峙し、ついに魔の森の命運を懸けた、真の大将戦が幕を開けた。
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