同じ穴のムジナ
開戦の銅鑼が鳴り響いた瞬間。
クロードの持つ指揮棒が、空中に流麗な弧を描いた。
「――第一術式展開。全砲門、一斉斉射」
タクトの先端から無数の幾何学的な魔法陣が虚空に現出し、そこから数十発もの極大の魔力弾が、追尾機能を持った流星群のようにヴィンセントへと降り注いだ。
対するヴィンセントは、一切の表情を変えぬまま、両手の指に挟んだ銀のナイフを放射状に投擲する。
「――『クリアランス』」
ズガガガガガガガッッッ!!!
空中で魔力弾と銀のナイフが寸分違わず衝突し、眩い閃光と爆音を撒き散らしながら相殺されていく。
先ほどまでの肉弾戦とは全く次元の違う、目にも止まらぬ超高速の遠距離戦。
炎と氷、光と闇の魔力が入り乱れ、ナイフの乱れ撃ちが魔法陣を次々と粉砕していく。闘技場は、まるで極彩色の花火大会の様相を呈していた。
『おおおおおッ! これは凄い! 今までとは全く違う、美しくも凄まじい火力と火力の撃ち合いでーすッ!』
実況席でチャチャがマイクを握りしめて絶叫する。
『完璧な陣形制御による魔法砲撃と、それを単体で相殺する恐るべき暗器の投擲精度……。まさに戦術と戦術の高度なチェスを見ているようだ』
『うむ、前線に立たずとも、彼らの頭脳そのものが最凶の兵器ということか。実に興味深い』
ゴードンと新王オズワルドも、その緻密すぎる遠距離戦に身を乗り出して見入っていた。
激しい爆発の閃光の中、クロードとヴィンセントは互いに一歩も退かず、凄まじい速度で魔法とナイフの弾幕を張り合っている。
彼らは普段、領主として、そして魔王の執事として、山積する書類仕事や予算管理を完璧にこなしている。
あまりにも有能で、実務が得意すぎるがゆえに、常に裏方に回って組織を支える役割を担ってきた。
……しかし。
周囲の人間はすっかり忘れているが、クロードはあの『最強のレオンハルト家』の血を引く男であり、ヴィンセントは『魔王軍最強の四天王』の筆頭なのだ。
こんな異常者だらけの闘技場に、代表として嬉々として出てくる時点で、まともな神経の持ち主であるはずがない。
そう、彼らの本質は――極めて理知的な皮を被った、生粋の『戦闘狂』である。
「ハハハハハッ! 素晴らしい暗器捌きだ! 計算速度を三倍に引き上げよう、これはどうかな!?」
クロードの端正な顔から冷徹な仮面が剥がれ落ち、狂気じみた笑みが浮かんだ。
彼の指揮棒が残像を残すほどの速度で振られ、空中に展開される魔法陣の数が一気に百を超えた。
「フフフ……! 痛快ですね、これほどのタスクいつ以来か! 処理してみせましょうッ!」
ヴィンセントの赤い瞳もまた、吸血鬼としての剥き出しの歓喜に染まっていた。
彼は影を無数に分裂させ、闘技場を高速で跳躍しながら、雨霰と降り注ぐ魔法砲撃の隙間を縫って何百本ものナイフを投げ返す。
ドゴォォォォォンッ! ズドォォォォォンッ!!
華麗なスーツと軍服に身を包んだ二人のインテリが、まるでタガが外れたように大笑いしながら、闘技場を焦土に変えるほどの絶え間ない火力をぶつけ合っている。
「ど、どいつもこいつも……やっぱりまともじゃない……ッ!!」
控え席でカナタが頭を抱え、胃薬の瓶を逆さにして振っていた。彼にとって一番の頼みの綱であった「常識人(実務担当)」の二人ですら、根本的には戦闘狂だったという事実に、完全に心が折れかけている。
弾幕と弾幕が交差する闘技場の中央。
無数の爆炎の向こう側で、クロードとヴィンセントの視線がピタリと交錯した。
膨大な魔力を消費し、息をわずかに弾ませながらも、二人は心底楽しそうにニヤリと笑い合う。
互いに言葉を交わす必要はなかった。日々の過酷なデスクワークから解放され、全力を出し切れるこの瞬間が、たまらなく快感なのだ。
だが、この規格外の火力戦も、永遠には続かない。
極限まで高められた魔力と殺気が、闘技場を一点に収束させていく。
互いの持ち駒を全て出し尽くした二人の実務担当者による、美しくも苛烈な副将戦。
その決着の時は、すぐ目の前に迫っていた。
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