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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地に育て上げます〜

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王都の泥沼と、魔の森の狂宴

セレスティアが放った二つの「偽情報」という猛毒は、王国と帝国の両陣営を、瞬く間に凄惨な同士討ちの地獄へと突き落とした。

王都の堅牢な城壁を囲む帝国軍の本隊。

豪奢な天幕の中で、帝国軍司令官は机を叩き割らんばかりの勢いで激怒していた。

「ええい! 意味がわからん、共闘しようと持ちかけておきながら、なぜ王国軍はあれほど頑強に抵抗している!しかも 内部崩壊して兵糧も尽きかけているはずだろうが!」

「はっ! 潜入させていた間者の報告によれば、王太子自らが『降伏要請は帝国軍を暗殺するための罠だ』と叫び、城門から煮え滾る油と矢の雨を降らせてきたとのこと! 完全に我々を騙し討ちにする腹積もりです!」

セレスティアの流した噂通り、王太子からの「同盟の提案」は自分たちを罠にはめるための策だったのだと、帝国側は完全に信じ込んだ。

激怒した帝国軍は降伏勧告及び共闘の密約を打ち切り、全軍をもって王都への総攻撃を強行したのである。

一方、城壁の内側にある王都もまた、阿鼻叫喚の狂気に支配されていた。

城の安全な高台から、王太子ユリウスが血走った目で兵士と市民たちを怒鳴りつけている。

「ひぃぃっ! 敵が城壁を登ってくるぞ! 撃て、撃ち落とせ! 奴らに降伏すれば、我々は最前線の肉の盾として使い捨てられるのだ! 決して城門を開けるな! 死に物狂いで戦えぇぇっ!」

極度の死の恐怖に駆られたユリウスの扇動により、飢えに苦しんでいた市民までもが「殺されるくらいなら」と鍬や包丁を握りしめ、城壁の上から石や瓦礫を投げ落として決死の抵抗を見せていた。

帝国軍は、もともと「王都はすでに崩壊状態であり、少し脅せばすぐに落ちる」と計算し、本命である辺境伯領に全力を割くため、王都に対しては攻城兵器を十分には用意していなかった。そこへ予想外の激しい反撃を受け、次々と兵を失っていく。

互いに「騙された」「殺される」という絶対的な不信感に囚われた両軍は、引くに引けない無益な消耗戦へと雪崩れ込んでいったのだ。


王都が血みどろの泥沼に沈んでいる頃。

王国領の最北端、『魔の森』の浅層周辺にて。帝国軍の別働隊(陽動部隊)は、半円形の陣を森の木々を伐採して強固に構築し、辺境軍の動きを監視していた。

「辺境の蛮族どもめ。我々が動かない限り、あいつらも迂闊に攻め込んでこれまい」

「このまま睨み合いを続ければ、本隊が王都を通じて背後から辺境伯領を襲う。挟み撃ちにして蹂躙してやる」

帝国兵たちが焚き火を囲んで談笑していた、その時。

彼らの頭上の樹上を、音もなく移動する漆黒の影があった。『鮮血の辺境伯』レオンハルトと、彼が率いる辺境の熟練レンジャー部隊である。

「……馬鹿な奴らだ。魔の森で、風下に向かって陣を敷くなど」

枝の上にしゃがみ込んだレオンハルトは、眼下の帝国陣地を冷ややかに見下ろした。

彼の手には、セレスティアが辺境の錬金術師たちを総動員して調合させた、数個の薄いガラス玉が握られていた。中には、魔物の生殖期にのみ分泌される特濃のフェロモンが封じ込められている。

「ここは俺の庭だ。招待状の送り先くらい、熟知している」

レオンハルトは小さく合図を送った。

レンジャーたちは音もなく森のさらに奥——危険度の高い魔獣である『装甲暴猪アーマード・ボア』や『鮮血熊ブラッド・ベア』の群れが棲む巣穴のすぐ近くまで接近。そこから帝国陣地に向かって、一定の間隔でガラス玉を地面に叩きつけていった。

パリンッ……!

割れたガラス玉から、甘く、むせ返るような匂いが風に乗って漂い始める。


「ん……? なんだ、この甘ったるい匂いは?」


森の奥深くから、地鳴りのような恐ろしい咆哮が連鎖的に響き渡った。

ドォォォォォン……!!

バキィッ、メキメキッ!

太い古樹が次々とへし折られ、大地が激しく震える。

「な、なんだ!? 敵の奇襲か!?」

「ち、違います! ま、魔物が……魔物が、我々の陣地に向かって突進してきます!!」

帝国陣地は、一瞬にして絶望の底に突き落とされた。

強烈なフェロモンによって完全に理性を失った強力な魔物が(帝国軍のみでなんとか対応できるよう計算された魔物達が)匂いの発生源である帝国陣地へと雪崩れ込んできたのだ。

「ひぃぃっ! 撃て、魔法を放てっ!」

「だ、駄目だ、装甲が硬すぎて魔法が弾かれ——ギャアアアッ!!」

猛り狂う魔物に飲み込まれ、帝国の防霊結界も柵も粉砕され、陣地は硬かったが破られた。その様子を見て、すぐに逃げ出すと被害が拡大すると判断した指揮官は、なんとか襲いくる魔物を可能な限り排除して、ある程度の安全を確保し、帝国側の森の出口へと撤退しようとする。しかし、帝国兵たちを待っていたのは、逃げ道を封鎖し、黄金と蒼の瞳を光らせて大剣を構えるレオンハルトの姿である。

「森の神よ、森を騒がすことをお許しください。そして、魂なくなるものへの森のお許しを賜ることを」

魔物を対処して、逃げ出してきた帝国兵たちは、待ち構えていた辺境精鋭軍の武力の前に、抵抗する間もなく次々と討ち取られていった。

軍隊では三割の兵を失うと全滅と判断される。しかしこの場合、文字通りの全滅。1人残らず地に伏して動かぬ。先ほどレオンハルトが祈った森の神への礼句『森の許し』とは、この森の生き物達の養分(いきるかて)としてほしいということを意味する。


自らの軍の兵を一人として損なうことなく、帝国の陽動部隊を消滅させた辺境軍。

セレスティアの恐るべき知略と、レオンハルトの地の利を活かした圧倒的な武。辺境の夫婦が放った『片側の顎を砕く』一撃は、見事に帝国軍の戦略を根底から打ち砕いたのであった。


お読みいただきありがとうございました。

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