中堅戦 美しき決着
永遠に続くかと思われた。
いや、その場にいた誰もが「永遠に続いてほしい」と願っていた。
戦斧と細剣が交差するたびに弾け飛ぶ火花は、まるで夜空からこぼれ落ちた星屑のように闘技場を照らし出していた。
ゴードンの重厚にして正確無比な連撃。それを柳のように受け流し、軽やかにステップを踏む若き王、オズワルド。
二人が奏でる剣戟の音色は、もはや殺し合いの騒音ではなく、極限まで洗練された管弦楽のようであった。
観客席の人間も、魔族も、誰もが言葉を失い、瞬きすら忘れてその『舞踏』に見入っていた。
種族の壁も、陣営の違いも、今はどうでもよかった。ただ目の前で繰り広げられる、命を燃やして描かれる究極の芸術に、全員の魂が震えていたのだ。
しかし、どれほど美しい曲にも、必ず終止符は訪れる。
「――素晴らしい刻だった。感謝するよ、戦評家殿」
オズワルドが、ふわりと春の風のような微笑みを浮かべた。
次の瞬間、彼の足元から踏み込みの音が消えた。重力から解放されたかのような、滑らかで幻想的な一歩。
(……見えない!? いや、軌道は読める! だが、身体が……その美しさに、魅入られてしまった……ッ!)
あらゆる武を分析し尽くしてきたゴードンの「眼」をもってしても、その一撃を躱すことはできなかった。否、本能が躱すことを拒んだのだ。
王族に代々伝わる、ただひたすらに洗練を極めた『王の剣』。その至高の芸術を前に、狂戦士の肉体はただ感嘆の溜息を漏らすことしかできなかった。
ピタリ、と。
時が止まったかのような静寂の中、オズワルドのレイピアの白銀の切っ先が、ゴードンの喉仏からわずか一ミリの距離で静止していた。
ゴードンの額から、一滴の汗が石畳に落ちる。
コロン……。
手から滑り落ちた二振りの戦斧が、澄んだ音を立てて転がった。
「……見事なり。我が分析の遥か高みを行く、あまりにも美しき一閃。……降参だ」
ゴードンはゆっくりと両手を挙げ、そのゴツい顔に、戦いを終えた者だけが浮かべることのできる極上の笑顔を咲かせた。
「貴殿の理詰めな斧捌きがなければ、私もここまで美しく踊ることはできなかった。素晴らしいリードだったよ」
オズワルドは流れるような所作でレイピアを鞘に収めると、戦斧を置いた魔族の巨漢に向かって、躊躇いなく右手を差し出した。
ゴードンもまた、その手に応える。
王国を統べる人間の王と、かつて修羅界を生き抜いた魔族の戦士。
二人の手が固く握り合わされた瞬間――闘技場は、割れんばかりの歓声と、涙ぐみながら送られる万雷の拍手に包み込まれた。
『け、決着ゥゥゥッ!!』
実況席のチャチャが、涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いながらマイクに叫ぶ。
『なんという美しさ! なんという気高さ! 闘いを通じて魂が通じ合う……これこそが、魔王様が目指した『人と魔の共存』の縮図ではないでしょうか! 中堅戦、辺境伯陣営・オズワルド陛下の勝利ですッ!!』
「よ、よかった……! 陛下に傷一つなく、しかも最高の雰囲気で終わってくれた……ッ!」
魔王軍の控え席では、国家反逆罪の恐怖から解放されたカナタが、ヴィンセントの淹れたハーブティーを飲みながら安堵の涙を滝のように流していた。
『さあ、これで戦績は! 先鋒戦の引き分けを挟み、魔王軍が一勝、辺境伯陣営が一勝! 完全なる五分と五分に並びました!!』
チャチャのアナウンスが、闘技場の熱をさらに一段階引き上げる。
宵闇が迫る魔の森の空に、無数の松明の炎が赤々と燃え盛り始めた。
『残るは二戦! 次はいよいよ、勝敗の行方を大きく左右する大一番……【副将戦】でありますッ!!』
一勝一敗一分。
重すぎるプレッシャーと、かつてないほどの熱狂の渦が巻く中。
両陣営の控え席から、次なる規格外の武人たちが、静かにその闘気を研ぎ澄ませていた。
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