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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
誠実魔王のスローライフまちづくり

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次鋒戦1

烈魁皇の一喝により、静寂に包まれた特設闘技場。


その静じまり返った空気の中、辺境伯陣営の控え席から、地響きのような足音と共に一人の巨漢が立ち上がった。


「ふむ……、先鋒戦の見事な寸止め、そして烈魁皇殿の気骨。隠居の身とはいえ、武の血が騒ぐわッ! 次鋒戦、ワシが出るッ!!」


現れたのは、前当主レオンハルト。


身長二メートルを優に超え、白髪交じりの髭を蓄えたその肉体は、鋼鉄の鎧すら窮屈そうに見えるほど、異常な発達を遂げた筋肉の塊であった。


前当主みずからの参戦に、人間側の観客からは「レオンハルト様ァァァッ!!」「最強の領主様だッ!!」と地を這うような大歓声が巻き起こる。



対する魔王軍(特区)陣営。

烈魁皇は静かに構えを解き、前当主を見据えた。その瞳には、先ほどまでの怒りは消え失せ、純粋な武人としての歓喜の炎が灯っている。


「ほう……、先代の領主殿みずからとは。ならば、私が出ざるを得まいッ! いずれ手合わせ願いたいと思っていたッ! 我が中国四千年の拳、貴様のその強靭な肉体に叩き込むッ!!」


烈魁皇が静かに、しかし一歩一歩が大地に根を張るような重みを持って闘技場の中央へ進み出る。


巨体から放たれる圧倒的なパワーの前当主と、極限まで練り上げられた技の烈魁皇。


二人の規格外の武人が、互いに不敵な笑みを浮かべながら対峙した。


「始めェェェッッ!!」


審判の合図と共に、前当主レオンハルトが、その巨体からは想像もつかない瞬発力で地を蹴った。

まるで暴走する蒸気機関車。闘技場の石畳が砕け散り、凄まじい風圧が周囲を襲う。


「ハァァァァァァッッ!!」

放たれたのは、技術など微塵もない、純粋な質量と腕力のみで構成された極大のパンチ。


直撃すれば、城壁すら粉砕されるであろう一撃。


しかし、烈魁皇は動じない。

「シィィッッ!!」

彼は前当主の拳が当たる寸前、吸い付くような動きで身体を逸らすと、その突進のエネルギーを自身の腕へと受け流し、さらにその力を乗せて前当主の鳩尾へと渾身の『寸勁』を叩き込んだ。


ドグゥゥゥゥゥォォォォンッッッ!!!

闘技場に、巨大な鐘を打ち鳴らしたような、重低音の衝撃波が炸裂した。


前当主の巨体が、ピタリと止まる。


「……ぬぅんッ!」

だが、前当主はニヤリと笑うと、腹筋をピクリと動かしただけで、烈の拳を弾き返したのだ。


「ふははは! 見事な拳だ! 中国拳法、伊達ではないなッ! ならばワシも、本気でいかせてもらうッ!」


そこからは、まさに壮絶な肉弾戦であった。

前当主の理不尽なパワーと質量を、烈魁皇が四千年の歴史を誇る『化勁かけい』と『発勁はっけい』で受け流し、弾き返し、的確に急所へと鉄拳を叩き込む。


技とパワー、防御と回避。高次元で噛み合った二人の攻防は、これまでのどの試合よりも激しく、美しく、そして破壊的であり、闘技場を埋め尽くす人間と魔族の観客は、その熱狂の渦に飲み込まれていた。



そうこうするうちに、どこからか、魔力で拡張された声が闘技場全体に響き渡った。


『ハァーイ、皆様こんにちはーッ! 実況は私、魔の森全土へ向けてお届けしまーす、チャチャでーす! どうでしょうお師匠様、今の烈魁皇選手の見事な回避はッッ!』


いつの間にか、観客席の最も見晴らしの良い場所に、実況席が作られていた。


そこには、魔力結晶のマイクを持ったチャチャが陣取り、興奮気味にマイクへ向かって叫んでいる。


『辺境伯家の前当主、そのパワーはまさに魔神ッ! 対する魔王軍の烈選手、その技はまさに神業ッ! この壮絶な肉弾戦、どうなるのでしょうかッ! それでは、ここで本日の自称格闘評論家、ゴードンさんにもお話を伺ってみましょう! どうでしょうゴードンさん、今の前当主の猛攻はッッ!』


チャチャに話を振られたのは、実況席の隣に座っていた、全身を分厚い毛皮で包んだ、岩のようにゴツい魔族の男であった。


彼はいつの間にか実況席に座っており、眼鏡をキラリと光らせながら、静かに、だが的確なトーンで話し始めた。


『ふむ……。レオンハルト殿の攻撃は、確かに粗削り。しかし、その全細胞が『闘争』のみに特化しており、無意識のうちに相手の重心を突いている。これは恐るべき戦闘本能だ。対する烈殿は、完璧な『せい』の状態。どんな攻撃も、一寸の狂いもなく受け流すことができる。……これは、どちらが先に『集中力』を切らすかの勝負になるぞ』


的確すぎる解説。


観客席の誰もが、そのゴツい魔族の言葉に「なるほど……!」と深く納得してしまった。


「……ちょっと待てやッ! で、お前誰やねんッッ!!」

チャチャが渾身のツッコミを入れた。

観客やカナタ、リリスもまた、心の中で同じ言葉を叫んでいた。



『評論家のゴードンだ。さあ、闘いの続きを……おっと、烈殿の見事な中段蹴り! これが入ったー! どうです、チャチャさんッ!』


「実況はウチやッ! で、今の蹴りは効いてへんのかッ、ゴードンさん!」


『いや、レオンハルト殿の腹筋が凄まじい。蹴りのエネルギーが外部へ逃げている。ダメージは最小限だ。むしろ、烈殿の足の骨が心配だ』


「ほんまかッッ!?」

チャチャとゴードンの実況・解説付きで進む、次鋒戦。


前当主レオンハルトの巨大な拳が烈魁皇の側頭部を捉えようとするが、烈魁皇はそれを紙一重でかわし、その腕に『発勁』を叩き込む。


衝撃波。砕け散る石畳。カナタの悲鳴。


チャチャの実況とゴードンの解説が、激闘の熱気と相まって、会場はカオスな盛り上がりを見せていた。


二人は互いに不敵な笑みを浮かべ、再び構えをとる。


レオンハルト「ふふ……、やるではないか、中国拳法ッ!!」


烈「貴様のパワーも四千年の歴史を唸らせるッ! さあ、ここからが本番ッ!!」


闘志がさらに燃え上がる。


チャチャの実況「勝負の行方はまだ見えなーい! 壮絶な肉弾戦、まだまだ続きそうです!!」


お読みいただきありがとうございました。

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