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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
誠実魔王のスローライフまちづくり

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先鋒戦

「なんで……。ただの親睦バーベキューが、どうして『特設コロシアムでの5対5の団体戦』に発展してるんだ……!」


数日後。魔の森の中央広場に建設された巨大な闘技場。


その魔王軍(特区)陣営の控え席で、カナタは胃薬を水で流し込みながら頭を抱えていた。


「カナタ様、本日の救護班の配置と、ポーションの在庫リスト、そして……闘技場が全壊した場合の再建見積もり書です」


「見たくない! その赤字の予測しか立ってない帳簿、今は見せないでくれヴィンセント!」


完璧な執事からの残酷な経理報告に涙目になるカナタ。

その横で、チャチャがポップコーンを頬張りながら呑気に笑っている。


「まあええやん! 観客席のチケット代と賭け札の売り上げで、初期投資分くらいはすぐに回収できるで! さあ、いよいよ先鋒戦の始まりや!」


銅鑼の音が鳴り響き、闘技場を埋め尽くす人間と魔族の大歓声が沸き起こった。


辺境伯陣営の先鋒として姿を現したのは、一人の小柄で美しい女性だった。


メイド服のような軽装に、身の丈ほどもある漆黒の大剣を背負った美女――現当主クロードの妻であり、元・暗部筆頭のミラである。

「うふふっ。お義兄様たちが楽しそうにしているから、私も我慢できなくなっちゃったわ。手加減はしないから、死なない程度に楽しませてね?」

ミラが可愛らしく微笑みながら大剣を抜くと、空間が歪むほどの殺気が闘技場を包み込んだ。

「あ、暗殺者って普通、短剣とか毒を使うもんじゃないの!? なんであんな馬鹿デカい剣振り回してんのよ!」


リリスがドン引きして叫ぶ。

対する魔王軍陣営。


「えっと、うちの先鋒は……」

カナタがリストを確認する。団体戦になったはいいが、こちらにはカナタ、烈魁皇、リリス(戦闘不向き)、ヴィンセント(裏方希望)しかおらず、人数が足りなかった。


そこで急遽、「その辺の森を歩いていた暇そうなダークエルフ」を頭数合わせとしてスカウトしたのだ。


「フッフッフ……。まさか、斯様な晴れ舞台で『推し』の為に戦える日が来るとは!」


闘技場に入場してきたそのダークエルフの男を見て、カナタは思わず飲んでいた胃薬を吹き出した。


「な、なんだアイツ!?」

男は美しいエルフの容貌を持ちながら、頭には『魔王様命』と書かれたハチマキを巻き、手には謎の光る棒(ペンライトのような魔力結晶)を握りしめていたのだ。


「我が名はディルク! この魔の森の深奥を統べるダークエルフ族の長にして……魔王カナタ様がこの地に降臨されたあの日から、陰ながら貴方様を『推して』きた、最古参のファンであります!!」


「えええええ!? お前、ただのその辺にいた魔人じゃなかったの!?」


急造の数合わせだと思っていた男が、まさかの森の最大派閥の長であり、おまけに自分の重度な推し活勢だったという事実にカナタは戦慄した。


ディルクはカナタの控室に向かって深々と一礼すると、光る棒をしまい、背負っていた流麗な長弓を構えた。


その瞬間、先ほどまでのオタクじみた空気が完全に消え去り、歴戦の強者としての冷酷なまでの静謐さが場を支配した。


「魔王様の理想とする、平和なまちづくり……。その邪魔をする者は、いかに辺境伯の身内であろうと、このディルクが容赦なく穿つッ!!」


「さあ、始めましょうか!」

審判の合図と共に、ミラが弾かれたように飛び出した。


大剣を持っているとは思えない、まさに暗殺者の如き無音の歩法ステップ。瞬きする間にディルクの懐へ潜り込み、下から上への強烈な斬り上げを放つ。


「遅いですね」

だが、ディルクはミラの剣速を完璧に見切っていた。


最小限の動きで大剣を躱すと同時に、弓の弦を引き絞る。矢は番えられていない。しかし、彼の指先から凄まじい密度の魔力が収束し、数十本の『光の矢』が瞬時に形成された。


魔力矢マジック・アロー……連ッ!!」

ズドドドドドドドッ!!

機関銃のような速度で放たれる魔法の矢の雨。


「あら、すごい数!」

ミラは空中で身を捻ると、巨大な剣を盾のように使い、あるいは風車のように回転させて、全方位からの魔法矢をガキンッ! ガキンッ! と弾き落としていく。

しかし、ディルクの攻撃はそれだけではなかった。


「甘い! 私の矢は全て、相手の魔力を追尾する!」

弾かれたはずの光の矢が、空中でUターンし、死角からミラへと襲いかかる。


さらには、ディルク自身も後方へ跳躍しながら、炎、氷、雷といった異なる属性の極大魔法をノーモーションでバンバン撃ち放ち始めたのだ。


「す、すげぇ……! あいつ、弓の腕も百発百中なら、無詠唱で魔法まで連発してやがる……ッ! 間違いなく、この森でトップクラスのバケモノだ!」


カナタが目を見張る。

「うふふ、あははははッ! 楽しい! 久しぶりに、ステップの踏み甲斐があるわ!!」

対するミラも、追尾してくる魔法の矢の雨と極大魔法の爆撃を、紙一重で躱し、大剣で叩き斬りながら、狂気的な笑い声を上げてディルクへと迫っていく。


ドゴォォォォォォンッッ!!

炎と氷の魔法が闘技場の壁を吹き飛ばし、ミラの斬撃が石畳をクレーターのようにえぐれていく。


「見事な身のこなし! しかし、我が『推し』への愛の重さ、貴女の大剣で受け止めきれるか!!」

ディルクが空中に飛び上がり、上空から極大の重力魔法を込めた一の矢を引き絞る。

「受ける気なんてないわ。

私は戦士だもの……『斬る』だけよッ!」


ミラもまた、闘技場の壁を蹴り上げて上空へ跳躍。大剣に黒黒とした闘気を纏わせ、真っ向からディルクへと突っ込んでいく。


「いけぇぇぇ! 先鋒戦から会場ごと吹き飛ばせェェェ!!」

チャチャの無責任な野次と、観客たちの割れんばかりの歓声の中。

魔王軍の狂信的エルフと、辺境伯家の最強暗殺者。

互いの必殺の一撃が、空中の中央で激突しようとしていた。


お読みいただきありがとうございました。

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