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完璧令嬢の辺境開拓記〜私を捨てた王太子が国を傾けている間、私は辺境を世界一豊かな地にし、私は運命の人と世界一幸せになります〜  作者: 虹の箸
俺より強い奴に会いに行く

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まさかの結果

静寂に包まれた玉座の間。

極限まで張り詰めた空気の中、魔王はゆっくりと顔を覆っていた禍々しい仮面に手をかけた。

カタッ、と音を立てて仮面が外される。


そこに現れたのは、恐ろしい魔族の素顔でも、老獪な化け物の顔でもなかった。

どこかひどく疲れ切ったような、生真面目そうな人間の青年の顔であった。


「……魔王なんて呼ばれているが、俺は元々、ただの人間だったんだ。名前は『カナタ』。王都から派遣された、しがない『経理官』さ」

カナタは玉座に深くため息をつき、信じられない過去を語り始めた。


あれは数年前のこと。カナタは、レオンハルト辺境伯領の帳簿に生じた現金の不一致を調査するため、現地へ調査に赴いていた。

その出費の元凶は、フラスコ片手にぶつぶつと化学式を呟きながら歩く、あからさまに常軌を逸した雰囲気の『マッドサイエンティスト』の長女。


カナタが路上で彼女を呼び止めたその時、整備不良の巨大な蒸気馬車が暴走し、彼女に向かって突っ込んできたのだ。


「とっさに突き飛ばして、俺が代わりに馬車に轢かれた。致命傷だったよ」


カナタの遠い目をした述懐に、ジークの肩がピクリと動いた。

「俺が血まみれで倒れた時、その白衣の女がパニックになって叫んだんだ。『私のメチャクチャな領収書をちゃんと計算して通してくれる経理担当はあなたしかいないのに! 死ぬなんて絶対に許さない!』って」


カナタは恨めしそうに宙を睨んだ。

「女は自分の懐から、蛍光色にドロドロと発光する薬を取り出して、俺の口に無理やり流し込んだ。……俺は、馬車の傷ではなく、その劇薬のあまりの激痛でショック死した。だが、次に目を覚ました時、俺の身体はその薬の異常な化学反応のせいで『超転生』を果たし、膨大な魔力を撒き散らす魔王として蘇ってしまっていたんだ」


極東の地に突如として魔法やモンスターが生まれた原因。

それは、一人のマッドサイエンティストが作り出した『絶対に飲んではいけない失敗蘇生薬』が引き起こした、世界規模のバグだったのだ。

「……帳簿の不備、マッドサイエンティストの長女」

ジークの顔から、みるみると血の気が引いていく。

彼は額に冷や汗を浮かべながら、恐る恐るカナタに尋ねた。

「カナタ殿……。まさかとは思うが、君が帳簿の確認をしていた相手というのは……白衣を着ていて、いつも寝不足で目の下にクマを作っている女性ではなかったか?」


「え? なんでお前がそんなこと知ってるんだ? 確かに、四六時中研究室に引きこもっているせいで、いつも酷い顔色をしていたが……」


その言葉を聞いた瞬間。

最強の物理力を誇り、いかなる強敵の前でも膝を折らなかった元・辺境伯長男が、勢いよく玉座の前の絨毯に両膝をつき、完璧な土下座を決めた。


「すまないッ!! それは間違いなく、俺の姉のセリアだ!!」

「……は?」

カナタの声が裏返る。


「姉は根っからの天才科学者なのだが……金銭感覚が完全に欠如していてね。弟の現当主クロード(が頭を抱え、王都から優秀な経理官を招聘したと聞いていたが……まさか、現金の不一致を正そうとしてくれた恩人を馬車から庇わせた挙句、自作の怪しい薬で魔王に超転生させていたとは……!!」


「ええええええええええええッ!?」

チャチャとリリスの絶叫が、暗黒城に響き渡った。

「ちょ、ちょっと待って! じゃあこの極東の島国が魔物の巣窟になったのも、魔王軍が生まれたのも、全部あんたのお姉ちゃんが原因ってことォ!?」


リリスが頭を抱えてしゃがみ込む。

「中国四千年の歴史においても、ただの薬で魔王に超転生させるなど聞いたことがないッ! 西洋の化学、恐るべしッッ!」


烈魁皇は別の意味で戦慄し、ブルブルと震えていた。


「申し訳ない、カナタ殿……我がレオンハルト家を代表して、心より謝罪する」

ジークは深く頭を下げたまま、力強く宣言した。


「これは我々辺境伯一家が責任を持って解決すべき問題だ。このまま君を魔王として孤独にさせておくわけにはいかない。我々と共に、俺の故郷である辺境伯領へ来てはくれないか? 姉のセリアと話し合い、君の身体を元に戻す対策を練ろう!」


「元に……戻れるのか? 俺、もう一度ただの人間として、帳簿の数字と睨めっこする平和な日常に帰れるのか……?」


カナタの瞳に、一条の光が差し込んだ。

強大な魔力など欲しくなかった。四天王を従えて世界を征服する気など毛頭なかった。彼はただ、静かな執務室で計算尺を弾き、数字のズレを綺麗に解決するあの平穏な日常に帰りたかったのだ。


「必ず戻してみせる。俺の誇りにかけて!」

ジークの力強い言葉に、カナタは思わず涙ぐみ、その大きな手を取った。


「ありがとう……! あんた、ゴリラみたいななりしてめっちゃ良い人だな……!」


「……なんやこれ」

壮大な魔王討伐の旅が、まさかの『お姉ちゃんの経理担当者を医療ミスから救済する旅』へとすり替わった瞬間を目の当たりにし、チャチャは乾いた笑いを漏らした。


こうして、新たに『元・人間の経理官にして現・魔王』カナタを一行に加え、最強の物理ゴリラ、四千年の拳法家、金狂いの案内人、そして魔王軍の元幹部サキュバスという、史上最もカオスなパーティが結成された。

彼らの次なる目的地は、諸悪の根源たるお姉ちゃんが待つ、西の大陸――レオンハルト辺境伯領である。


お読みいただきありがとうございました。

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