底なしのマジックバッグと終わらない迷宮
猿の魔物たちが逃げ去った後の、不自然なほど見晴らしの良くなった森林地帯であった更地。
その中央に残された宝箱を前に、チャチャはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「へへへ……こんな深層の宝箱や、絶対とんでもないお宝が入ってるに決まってるわ!」
期待に胸を膨らませ、震える手で宝箱の蓋を押し開ける。
しかし、中に入っていたのは、手のひらサイズの古びた革袋が一つだけだった。
「……は? なんやこれ。ただのきったない袋やんけ!」
チャチャはガッカリして革袋を放り投げようとしたが、ふと、その袋の口から微かな魔力のようなものを感じ取った。試しに、足元に落ちていたドロップアイテムのキラーエイプの巨大な爪を袋の口に押し当ててみる。
シュポンッ!
「えっ!?」
信じられないことに、自分よりも大きな魔物の爪が、まるで空間ごと吸い込まれるように小さな革袋の中へと消えてしまったのだ。袋の重さは全く変わっていない。
「こ、これ……伝説の『アイテム袋』や!!」
チャチャは革袋を天に掲げ、歓喜の雄叫びを上げた。
「やった! やったで! これがあれば、アイテムが持ちきれへんからって街に戻る必要があらへん! ダンジョン中のお宝を根こそぎ詰め込んで、一気に換金できる! ウチら、大金持ちやァァァ!!」
これでどれだけアイテムがドロップしても安心だ。もう重い麻袋を引きずって歩く必要もない。
チャチャが勝利のダンスを踊っていると、背後から二つの巨大な影がヌッと近づいてきた。
「ほう、いくらでも荷物を入れられる袋とな。それは素晴らしいアイテムを手に入れたな、チャチャ嬢!」
「左様ッ! それさえあれば、魔物の素材やドロップ品の保管場所には一切困らんというわけだッ!」
ジークと烈魁皇は、チャチャの掲げるアイテム袋を見て、満面の笑みを浮かべていた。
「せやろ! これでウチらは……」
「つまり、アイテムを置くために『わざわざ街へ戻る必要がなくなった』ということだな!」
ジークの嬉々とした言葉に、チャチャの動きがピタリと止まった。
「荷物の限界という唯一の懸念が払拭されたのだ! 食料は周囲に無限に生息しており、アイテム袋があれば野営の準備も全て持ち歩ける!」
「いかにもッ! 基礎となる型を反復し、実戦へと昇華するには、これ以上ない環境ッ! つまり我々は、このダンジョンを修練場とし、文字通り『永遠に潜り続けることができる』ッ! 問題はないッッ!!」
「……え?」
チャチャの顔から、スゥッと血の気が引いていく。
二人の戦闘狂の目は、さらに深い階層で待つ強敵への期待でギラギラと燃え上がっていた。彼らにとって、アイテム袋は「大量の富を持ち帰るための道具」ではなく、「迷宮から帰らなくて済むための究極のサバイバルツール」だったのである。
「さあ行こうか、烈魁皇殿! 次の第三層はどんな魔物がいるのか、今から楽しみで仕方ない!」
「応ッ! 我が拳も、未知なる強者との対話を渇望しているッ!」
意気揚々と迷宮のさらに奥深くへと歩き出す二人の巨漢。
その楽しげな背中を見つめながら、チャチャは手の中のアイテム袋をポロリと落とし、両膝から崩れ落ちた。
「あ……あかん……」
ふかふかのベッド。温かいお風呂。一流シェフのフルコース。
先ほどまで夢見ていた輝かしい下界の生活が、ガラガラと音を立てて崩れ去っていく。
「一生……一生ここから出られへん気ィするわ……」
丸坊主になった広大な更地に、小さな案内人の絶望に満ちた呟きだけが、虚しく木霊するのだった。
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