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【星間戦争SF小説】星よ、敵を照らせ ――盟約は恩讐を越えて――  作者: 藍埜佑


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第十六章 同日

 二八六七年十月十九日、午後。


 セリア・スピカは、引退先の小惑星コロニー〈カプア〉の自室にいた。小さな部屋。窓は一つ。鉱山コロニーの住居棟の一室。壁にはかつての勲章が飾ってあったが、先週全て外した。壁に、勲章の形の色の濃い跡だけが残っている。


 端末の画面が光った。


 ニュースアラート。


〈テロリスト、アニカ・バール死亡――ビチュニア星域で帝国特殊部隊が包囲、突入時にはすでに死亡、自殺と推定される〉


 セリアは画面を見た。


 ニュースキャスターの声が、部屋の空気を震わせている。


「長年にわたり帝国の安全を脅かしてきたテロリスト、アニカ・バールが本日未明――」


 テロリスト。


 セリアの手が画面に伸びた。音声をミュートにした。


 画面には、アニカの顔写真が表示されていた。軍服姿の古い写真。二十代の頃。右目の上の傷がまだ新しい。黒い髪。鋭い目。


 セリアは画面の前に座り続けた。


 時間が経過した。部屋の照明が自動で暗くなった。夕方の設定。セリアは動かなかった。画面の光だけが、銀色の髪を照らしていた。


 暗号通信の受信ランプが点滅していた。


 アニカからの最後のメッセージ。


 セリアはそれを開いた。


「セリア。私はもう逃げない。長い旅だった。あなたと戦えたことを、誇りに思う。もう一つの人生があれば、友人として語り合いたかった。量子戦術論の続きを。戦争倫理の矛盾を。あの匿名フォーラムの議論の続きを。さようなら」


 ()()()()()()()


 セリアの指が、端末の縁を白くなるまで握った。


 匿名フォーラム。量子戦術論の議論。〈技術が追いつかなければ、理論は墓碑銘だ〉。あの議論の相手が、アニカだったことを――セリアはいつから知っていたのか。ザマの戦いの前か。もっと前か。カンナエの戦闘データを分析したときか。


 それとも、今この瞬間に、初めて確信したのか。


 セリアは端末を閉じた。


 部屋は暗かった。窓の外に、コロニーの採掘ライトが点在している。黄色い光。鉱石の粉塵が光を散乱させて、ぼんやりとした輪になっている。


 セリアは立ち上がった。


 浴室に行った。棚から、睡眠導入剤の瓶を取り出した。処方されたこの薬を、セリアは秘かに貯め込んでいた。瓶の中に、三十錠以上が残っていた。


 居室に戻り、机に座った。

 メモ帳を開く。ペンはそこにあった。


 書こうとした。

 何を書くべきか、わからなかった。

 遺書?

 いったい誰に宛てるというのか。


 部下はもういない。

 家族はいない。

 友人もいない。

 もう、誰もいない。


 一行だけ書いた。


〈アニカ、私も行きます〉


 ペンを置いた。

 ペンがメモ帳の上で転がっていく微かな音。


 睡眠導入剤の瓶を開けた。白い錠剤が、掌の上に転がり出た。小さい。ひとつひとつは小さい。三十錠を数えた。数え終えて、そのまま口に含んだ。


 水。コップの水で流し込んだ。水の温度がぬるかった。コロニーの水道は、地下の鉱脈を通過するせいで、微かに鉄の味がする。


 セリアは椅子の背にもたれた。


 目を閉じた。


 閉じた目の裏に、展望デッキの窓が見えた。


 アンドロメダ銀河の光。

 アニカの骨ばった体の温度。

 抱擁の記憶。

 衣服越しの体温。


 二百五十万年前の光。


 それは、何かが終わった後にも届き続ける光だった。


 二八六七年十月二十日未明、セリア・スピカは〈カプア〉コロニーの自室で死亡しているのを発見された。


 帝国のニュース端末は、二つの死を別々に報じた。


 一方は「テロリストの死」。

 もう一方は「元英雄の孤独な最期」。


 二つの報道の間に、つながりを見出す者は一人もいなかった。


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