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 「はあ…お熱いのは結構なことですよ。正直ちょっとうっとうしいくらいですけど」


 その言葉、そっくりそのまま普段のミアとリュカに返してやりたくなった。ミアはわざとらしく溜息をつき、テーブルに突っ伏した。

 

 「でもそれだけ愛し合っていたのに、どうして別々に?」


 「リュカ、それ以上訊かないで…」

 

 「そうだよ!私はそれが聞きたかったんだ!急にいなくなって三年と四か月。お前なんで、黙って私のもとから消えたんだ⁉」


 壁とカリンの間に挟まれて身動きが取れないステラには逃げ場がない。カリンの圧を全身で受けると、体がビリビリと痺れてくる。助けを求めて二人を見たが、脛を蹴られた恨みからか、救いの手を差し伸べてくれる気配はなかった。


 もう観念するしかない。ステラはぽつぽつと話し始めた。

 

 「私は別に、カリンが嫌いになって逃げ出したんじゃないよ。むしろ好きな気持ちは変わってない。でもカリンは違うって知ってるから」


 「はあ?ステラお前何言ってんだ」

  

 「魔物討伐の依頼があればいつも二人一緒に行ってたのに、一回だけカリンが一人で行くって言い出したことあったでしょ。私が付いていくって言っても、何かごまかしてる感じで取り合ってくれなかった。だから絶対怪しいと思って、こっそりあとをつけていったんだよ」


 「マジかよ。全然気づかなかった」


 カリンを尾行してたどり着いたのは、漁村から少し離れた場所にある小屋だった。中から人の気配がするその小屋にカリンが入っていくのが見えたので、ステラは扉の外で耳をそばだてた。


 「中でカリンが話してるのが聞こえてきたんだよ。すごく親しそうに、私の知らない女の人と」


 会話の内容までは聞き取れなかったが、しばらくして静かになったあと、カリンが相手を押し倒すような音と気配がした。小屋の木の床が軋み、その揺れがステラにまで伝わってきた。


 とても耐えきれなかった。獣道を、高原を、河原を、わき目もふらず走った。ステラはその場から逃げ出し、そしてもう、カリンのもとへ戻ることはなかった。

 

 「まさかお前、それが原因で?」


 カリンが目を丸くする。


 「十分でしょ。あんなの見せつけられたら、誰だって嫌になる」


 当時のやるせなさを鮮明に思い出すと、涙で目が潤むのを止められない。


 「バカだなあ。それお前の早とちりだよ」


 「へ?」


 「魔物の討伐とかいって、私がよその女と逢瀬を重ねてたと思ったのか?んなわけないだろ。あの時小屋にいたの、魔物だよ」

 

 「ま、魔物とまぐわう趣味が…」

 

 「だから違うって!奴らの中には、人間の姿に擬態するのが得意なのがいるだろ?これが厄介でさ。こっちがもっとも親しくしてる人間に変身して、騙し打ちしようとしてくるのが常套手段なんだ。あの時私は、擬態生物の討伐依頼を受けてたんだよ。依頼内容を聞いて思ったね。ステラを連れていくのはまずいって」

  

 「なんで私がいたらまずかったの」


 「お前、私のこと大好きだろ?ってことは、敵は必ず私に擬態するに決まってる。お前、私の姿をした相手を斬れるか?」


 想像してみたが、カリンを攻撃する自分の姿が想像できない。おそらく対峙した時点で、剣を握ることすらできなくなるだろう。


 「な、無理だろ?だから私一人で行くことにしたんだよ。最初はこっちも騙されてるふりして、親し気に喋ってたんだ。で、油断したところを一撃さ」


 「じゃあ小屋の中で押し倒してたのって…」


 「馬乗りになってボコボコにしてただけ」


 全身から力が抜けてしまった。ずっと浮気されたと思っていた事の真相が、ステラの早とちりだったとは。安心すると同時に、ギリギリ堪えていた涙が決壊した。


 「おお、泣くな泣くな。私も説明してなくて悪かったよ。でもまさか、浮気を疑われてたとはな。帰ったらステラいないんだもん。必死に探したけど、見つからねえし。それであちこち探し始めて三年ちょい。ようやく再会できたな!」


 ステラはカリンの肩に顔を埋めて泣いた。


 「ごめん、ほんとにごめんなさい。何も言わずに消えて、心配かけちゃって。もっとカリンを信じてあげればよかった。バカ、私のバカ」

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