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「ステラと会ったのは、あれは確か5年位前だな。当時の私は、ってか今もだけど、一人で旅してたわけよ。その辺の魔物を狩っては銭を稼ぎ、立ち寄った街で男引っかけたりしてフラフラ、あてもない放浪の旅の最中だった。あ、ちっこいの。お前今、なんか失礼なこと考えただろ。露骨に顔に出てるぞ」
「別に。こんな獣みたいな女性になびく男性がいるだなんて信じられない、とか思ってませんよ」
「可愛くねえやつ。ま、いいや。そんな感じで放浪してた時のことだよ。魔王直属の配下に滅ぼされた村を見つけたんだ。よくあることだし、特に気にせず通り過ぎようとしたんだが、魔が差したっていうのかな。ちょいと火事場泥棒でもしようと思ってな。村人全員どうせ死んでるだろうし、金目のものが残ってないかと村を探索したんだよ」
「うわ、最低ですね」
リュカが嫌悪感を露わに、吐き捨てるように言った。
「黙って聞けよ。そこで見つけた唯一の生き残りが、こいつだったんだ」
カリンに背中を叩かれ、下ろした前髪が揺れた。額に髪が触れる感触が懐かしい。
「最初に会ったとき、びっくりしたよ。だってこいつ、剣持ってたんだぜ。ボロボロの服に全身血まみれ。そんな状態でも、剣だけはしっかり握りしめてた。正直警戒したよ。若い女の姿を真似た魔族なんじゃないかって。中にはいるだろ、人間に変身するタイプの魔物。こいつが村を滅ぼした犯人なのかって思った。でも違った。ステラの足元には、魔物の首が転がってたんだ」
カリンの話を聞いていると、その時に握っていた剣の感触や、村が焼ける臭い、目に煙が沁みる痛みなどが、生々しく蘇ってきた。
「こいつは魔族じゃないって確信した。だから私は訊いたんだ。お前ここで何してんのって」
「それでステラ様はなんと答えを?」
リュカの問いに答えたのは、カリンではなかった。ステラの口から自然に、あの時発したのとまったく同じ言葉がこぼれ出た。
「悪い奴を殺してる」
「そう、ステラはそう答えたんだよ。すげーんだぞ、こいつ。魔王の配下が村を襲った後、生き残りがいないかって下っ端の魔物に見回りさせてたらしい。下っ端っつっても雑魚じゃないぞ。そこそこ強い魔物のはずなんだが、ステラは隙をついてそいつ殺したんだ。まあ、相手も油断してたんだろうな。あんな小さい村だし、ほとんど全部焼けてた。まさか生き残りがいるとも思わないし、いたとしても抵抗されないだろって。そこをブスリとやったのが、ステラってわけ」
あの頃のステラは、ただの村の娘だった。剣の扱いも分からない。何の鍛錬も受けていない、非力な人間。そんなステラを突き動かしたのは、ただ殺意だけだった。生まれ育った村を壊され、親も友人も殺された。だから仕返しに殺す。そんな衝動に駆られ、暢気に見回りをしていた魔物に剣を振るったのだった。
「ビビッと来たね。こいつには素質があるって。そんで私はステラを拾ったわけよ。私は当時は勇者でもなく、ただの流浪の戦士だった。でも諸悪の根源である魔王を討伐したいっていうステラの願いを叶えてやりたい。だから勇者になったんだ」
「勇者ってそんな簡単になれるものなんですか。私は僧侶ですけど、結構修行とかしましたよ」
「ああうん、意外と簡単。ある程度の実力があって、魔王討伐に適した人物だと国に認められさえすれば、あとはちょっとした手続きさえすれば終わりだ。補助金とか出るし」
ただし国からの補助は、勇者として不適切とされる行為が確認され次第、すぐに停止される。それまで受け取った分の返還も求められる厳しい制度だ。具体的にどんな行為が不適切なものに該当するかは曖昧だが、街を壊滅させるのはどう考えてもダメだろう。クラレーヌの街を崩壊させたのは、あくまで魔物だということになっているが、ミアの機転がどこまで通用するか分からない。
「いいなあ。僧侶には補助金出ないのに」
「ステラ様もその時一緒に勇者になられたんですか?」
「いや、私がなったのはもっと後。カリンに武芸を叩き込まれたんだよ。二年くらいかな。勇者として認められたのはそれからだね」
「ふむ。ということはカリン様は、ステラ様の先生のようなものですか」
「先生って、そんな偉そうなもんじゃねえよ。私が持てる技術を教え込んだだけ。ステラは飲み込みが早くて助かった。あっという間にめちゃくちゃ強くなったからな。こいつ、可愛い顔してセンスあんだ」
皮膚の固くなったカリンの手が、ステラの頭を撫でる。
「もう、あんま人前で頭触んないで…」
「うぅ、しおらしいステラ様…やっぱ慣れないです」
ミアがいけないものを見たかのように、目を伏せた。
「いやだから、ステラはもともとこういう子だろ?なんかさっきから話がかみ合わねえなあ」




