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三人でテーブルを囲むときは、ミアとリュカが隣同士。対面にステラが一人で座るのが当たり前になっていた。だから隣に人がいるのは新鮮だ。妙に落ち着かず肩をもぞもぞさせていると、カリンがべったりと身を寄せてきた。壁とカリンに挟まれて身動きが取れなくなる。
「なんでも好きなもん食えよ、ステラ。金の心配ならしなくていい。荒稼ぎするいい方法があんだよ。魔物倒してくれって依頼があれば、まずは言い値で受ける。で、依頼を達成したあとに何かと理由をつけて法外な値段でふんだくる。私はこのやり方で稼ぎまくってるぞ。そのへんの貴族より裕福かもな」
「さ、最悪だ、この人。恥ずかしくないんですか。あなたも一応、勇者なんですよね」
ミアはカリンに向かって文句を言った直後、隣のリュカの腕を掴んだ。怖いなら黙っていればいいのに、一言言わずにはいられない性格らしい。
「別に?私は仕事をした。対価として報酬をもらった。それだけだろ」
「ステラ様、こんな人のなにがいいんですか」
「うるせえよ、ちっこいの!お前口だけは達者だな!」
「ひぃぃ…」
椅子の上でミアは丸まり、手足をひっこめた。草食動物が獰猛な肉食獣相手に食ってかかるようなものだ。返り討ちにされて当然である。殻にこもったミアをなだめるように、リュカがよしよしと頭を撫でる。
「ステラは確か甘いもん好きだったよな。ここの揚げ菓子が美味いって評判なんだよ。特に中にイチジクが入ってるやつ。それにするか。で、飲み物は?」
「どうせお酒でしょ」
顔を伏せたまま、くぐもった声でミアが言う。
「アーモンドミルクでいい」
「なっ⁉」
ミアが思わず顔をあげた。
「ステラ様がお酒以外を選ぶなんて、あり得ない!やっぱりこれ夢です」
「バカかお前。ステラが酒なんて飲むわけねえだろ。こいつ昔から酒が嫌いなんだよ。ま、私も飲まないからちょうどいいんだけどな。もしステラが酒好きだったら辛いだろうな。飲まない私に合わせて飲めないふりとか、やりそうだもん」
アーモンドミルクはねっとりとした甘さで、ステラの好みではない。今朝もミアのミルクを強奪した時、少し吐きそうになった。本当は酒が飲みたい。だがカリンの言う通り、彼女の前では飲めないふりをしてきた。微塵も飲みたくないミルクを我慢して喉に流し込んでいると、隣でカリンも同じものを飲み始めた。
「リュカ様、私怖いです。この悪夢はいつ覚めるのでしょうか」
「私もどうしていいか分かりません。ていうかステラ様、絶対無理して飲んでますよね。すごく嫌そうな顔されてます」
二人がひそひそと話すのが聞こえてくる。
「そうだ、風の噂で聞いたぞ。魔王配下のマダム・シスルが支配してた貴族の街。なんだっけ、そう、グラン・クチュールだ。あれ滅ぼしたの、お前だろ?」
あれはミアたちと出会い、三人のパーティーを結成してから初めての戦いだった。ミアが殺人的な治癒魔法の使い方をしたおかげで、勝利を収めることができた一件だ。あれから二月程度しか経っていないとは思えない。
「噂って、どんな?」
「深紅のドレスを身にまとった美しい勇者が、醜悪なマダムを成敗した!そういうふうに私は聞いたよ。ピンときたね。これは絶対ステラのことだって。けどお前、赤なんて着た事なかっただろ。どっちかっていうと、落ち着いた色ばっかりだったよな」
「ステラ様に似合うのは目に悪いようなきつい色でしょ。性格的にも」
カリンがテーブルを叩きつけ、ミアがまた丸まった。
「お二人は交際されているということですが、えっと、どういう馴れ初めで?」
ミアを庇いながら、リュカが話の流れを変えた。
「おお、よくぞ聞いてくれたな、青年」
「女です」
カリンがテーブルに身を乗り出して、ステラとの出会いを語り始めた。




