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 「ステラ様は昨晩、よく眠れたんですか?」


 ふうふうと息を吹きかけ、ホットミルクを冷ます合間にミアが訊いてきた。

  

 「んー、二時間くらいしか眠れなかった」


 「へえ、珍しい。いつもは私が起こすまで爆睡してるのに。あっ、分かった。どうせ深夜にまた飲みに出かけたんでしょう?」


 ステラの行動は筒抜けだった。別に隠そうともしていないが、年の離れた相手に容易く見透かされてしまうのは、年長者としての尊厳が傷つく。


 「またお店で暴れたんですか」

 

 「暴れる手前までは行ったんだが…。会いたくないやつに会っちゃってさ。そのせいですっかり酔いも覚めたよ」


 「誰なんです、その人」

 

 「…言わない」


 「なにそれ。言えないような関係の人なんですか」


 ミアがじっと目を覗き込んできた。詳しく話せと、その目が語りかけてくる。

 

 「なんだ。そんな顔しても喋らないぞ」


 「気になるんですけど。ステラ様の交友関係って謎ですし、その性格じゃあまり友達も出来そうにないっていうか。ましてや恋人とか、絶対にいなさそうですよね」


 酷い言われようだが、確かにステラに友達と呼べる人間はいなかった。酒癖が悪く、素面でも横暴な態度を取ることが多いので、自然と人は寄り付かなくなったのだ。こうして今、パーティーを組めていることが奇跡のようなものである。


 だが恋人となると…。


 「な、なんで黙るんですか。まさか店で出会ったのって恋人…」

 

 ミアが詰問しようと立ち上がりかけた時、店の奥で怒鳴り声が上がった。

 

 「なんだよこのパン、しなっしなじゃねえか!」


 テーブルを蹴って喚いている女を見て、ステラは肩を竦ませた。冷汗が止まらない。


 「早く店を出よう」

 

 「まだミルクが残って…」

 

 ミアからホットミルクを奪い、一気に飲みほした。まだ適温まで冷めておらず、喉を熱い液体が通る感覚にむせ返る。


 「ああっ、私のミルク!」

 

 「ミルクくらいまた買ってやるから。リュカも早く。とっとと行くぞ」


 リュカが食事を終えた後の食器は、綺麗に向きをそろえて並べられている。同じものを食べたはずなのに、ステラの皿の上は食べかすまみれだが、リュカの皿はまるで洗ったあとのようだ。

 

 「何をそんなに慌てているんですか。この後に予定でも?」

 

 「ないけど、とにかく今は店を出たい!」

 

 ステラはリュカの陰に隠れるようにして、店の扉まで進んだ。外に出るまであと一歩というところで、パンの生地に文句を言っていた女が「あっ!」と声を上げた。


 「ステラ!今度こそ本物だ!」


 店員へのいちゃもんなどすっかり忘れ、女がステラに飛びついてきた。

 

 「やっと会えた!いやー、昨日も酒場で似たようなやつに会ったんだけどさ、なんか別人だった。確かにいつもと雰囲気違ったし、酔ってんのか知らんがやさぐれてたんだよ。ステラが酒なんて飲むわけないもんな。てかマジで久しぶりじゃん。二年ぶりか?」


 「…3年と4か月」

 

 「ああ、もうそんなになるか!時が経つのは早いなぁ!」


 「あの、ステラ様。この方は」


 ミアが警戒心をむき出しにして、リュカの後ろから指をさした。

 

 「カリン。私の…まあその、知り合いだよ」


 「知り合い?なんでそんな他人行儀な言い方すんだよ。私たち、付き合ってんだろ?」


 ステラとカリンを交互に見て、口をぱくぱくさせるミア。無言で後ずさりしながら店を出たところで、ぺたんと尻もちをついた。

 

 「え、うそ、ほんとに恋人?いや、うん、そうですよね。別におかしくないですよ。私とリュカ様だって、そういう、関係ですし。でもステラ様が、うそ」


 「んだぁ、ちっこいの。私がステラと付き合ってたらダメなのか?」

 

 「ひぃぃ、ごめんなさい!文句とかないです!」


 肉食獣のような危険な雰囲気を纏うカリンに見下され、ミアは半泣きになっていた。

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