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 長女とその婚約者もろとも屋敷を破壊して、無事に逃げおおせるほど現実は甘くなかった。クラレーヌ家の人間によって血祭りに上げられても文句は言えない。縛り首にしろと叫ぶ者もいたが、ステラとて黙って刑に処されるのは、まっぴらごめんだった。


 街の至る所に肖像画が飾られていたクラレーヌ家の当主が、原型を失った屋敷を背にして問う。

 

 「最後に言い残すことはあるか?」

 

 集まった聴衆の中には、腕を組んで成り行きを見届けようとする者もいれば、売り物の果物を投げつけてくる輩もいる。食糧難で飢饉に陥っている集落もあるというのに、贅沢なものだ。

 

 「貴様らは我が娘、ジェイドを殺害し、あろうことか屋敷まで壊し尽くした。見よ、この有様を。我が一族が代々築き上げた歴史あるクラレーヌ家が、まるで廃墟のようではないか。この蛮行は万死に値する。勇者一行、いや勇者と呼ぶのもおこがましい。自らの死をもって罪を償うがいい」


 当主による死刑宣告に聴衆は沸き立った。

 

 「ミア、リュカ。君たちに2つの選択肢を与える」


 ステラは右手の指を2本立てた。

 

 「一つは私をこの場で暴れさせること。数は多くても所詮は人間だ。5分もあれば片がつく」

 

 「それ街の人達を殺すってことですよね。ダメですステラ様。人殺しは趣味じゃないって言ってたじゃないですか」 

 

 「しかしこの場を切り抜けるには暴力に訴えるしか無いだろ。黙っていれば私たちが殺されてしまう。ああ、あとこの方法を実行した場合だが、私は国中から指定手配されるだろうな。勇者の特権が剥奪されるのはもちろんのこと、仲間である君たちにも火の粉が降りかかる」


 「ならやめておきましょう。ステラ様一人が狙われるならまだしも…」


 死刑宣告される原因の半分を作ったミアが、一つ目の提案を却下した。


 「それで2つ目の選択肢というのは?」

 

 投げつけられる果物からミアを守りながら、リュカが問う。

 

 「とにかく全力でこの場から逃げ出すことだ。街の人間に危害は加えない。だがそうした場合、これから先ずっと追手に怯えながら旅をすることになる。おちおち酒も飲めないし、ゆっくり眠ることもできないな。いつどこでクラレーヌ家の手先に寝込みを襲われるか分からない」

 

 「ミア様がお休みの時は私が見張りをするとして、逆に私が寝ているときの見張りをミア様にお任せするわけにもいきませんから、必然的にステラ様の睡眠時間がぐっと減りますね」

 

 「なぜ君たち2人とも、私にばかり負担を押し付ける。ええい、やっぱやめだ。逃げるのもなし!」

 

 2つ目の提案はステラ自ら廃案とした。

  

 「万策尽きた」

 

 「2つで万策とか言わないでもらえますか」

 

 「文句言うならミアが代替案を出せよ。どうせないんだろ?…いたっ!そこのお前!さっきから投げてきてる果物が固いんだよ。こんなんで儲かるか!」

  

 まだ熟しきっていない果実を、商人の顔面に向かって投げ返す。ステラの剛腕で投げられたそれは、相手の鼻の骨を砕いてなお、形を保っていた。

 

 「ありますよ。案」

  

 「ほんとに?」

 

 「このパーティーの頭脳は誰だと思ってるんですか。私の機転でこれまで何度も助かってきたでしょ?」

 

 「それは素直に認めるが…」

 

 リュカが防ぎ損ねた梨をキャッチして一口齧ってから、ミアが腕を高く掲げた。治癒魔法の時と同じ、暖かな光がその手に灯る。

 

 「万一のために保険をかけておいて良かったですよ。私ってば用意周到ですね」

 

 しゃくしゃくと梨を咀嚼しながら、ミアは掲げた手を振る。

 

 「待っててくださいね、お二人とも。間もなく来ますから」

 

 「来るってなにが」

 

 「地下闘技場でリュカ様が倒したのはドラゴンだけじゃなかったでしょ?みんな私が傷を治してあげたんですよ。もちろん、ドラゴンと同じ交換条件付きでね。これはその目印です。私がここにいるって分かるように…。あっ、ほら来ましたよ」

 

 クラレーヌ家当主の首に回された、白く細い指はサキュバスのものだった。

 

 「なっ…なぜ化け物がここに!」

 

 当主はもう老齢だ。吸い取る精気もろくに残っていないだろうが、サキュバスは当主の顔を両手で包み、枯れかけの生命力を吸いつくした。骨と皮だけになり、かろうじて呼吸は出来るが、生きているとも死んでいるともいえない状態の当主。それを見た聴衆は、悲鳴を上げながら散り散りに逃げようとした。

 

 しかし退路は完全に塞がれてしまった。ミアの治癒魔法で復活を遂げた、一角獣によって。

 

 「うわ…ひどいな」


 ある者は蹴散らされ、ある者は精気を吸われ、クラレーヌの街は壊滅した。

 

 「私が提案した一つ目の案と大差ないじゃないか」

 

 「ステラ様が暴れて危害を加えるのとは訳が違います。勝手に魔物がやっただけ。私と交渉した証拠なんてありませんからね。よくある話じゃないですか。魔物に街が滅ぼされるなんて」

 

 既成事実を作り出すことで責任を逃れようという魂胆らしい。とても勇者として褒められたことではないが、国中から指名手配されるよりはマシだ。

 

 「つくづく思うんだが、君が魔族に生まれなくてよかったよ。敵に回していたら、私たちは滅ぼされていたかもしれない」


 「…褒め言葉として受け取っておきます」

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