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89

 ジェイドの元恋人たちが転がる部屋。その真ん中で、彼女は絶命していた。最愛のダミアンに覆いかぶさり、安らかな笑みを浮かべている。生前の宣言通り、本当にあの世までダミアンを追っていったのかもしれない。

 

 「幸せそうに逝きやがって。とんだ迷惑なやつだったな」

 

 「愛が重すぎたんでしょう。もう少しダミアン様に歩み寄ることが出来ていれば、2人はこんな結末を迎えなかったかもしれないのに」

 

 心臓を矢で貫かれたダミアンは、目を見開いたまま亡くなっていた。せっかくなら美しい顔で弔ってやろう。ステラはダミアンの死体のそばに跪いて、目を閉じてやった。 

 

 「しかしまた派手にやっちゃったな。屋敷が半壊してるじゃないか」

 

 原因のほとんどは、ミアが連れてきたドラゴンだ。

 

 「この子のおかげで助かったんですから、ステラ様も労ってあげてくださいよ」

 

 「…噛まない?」

 

 「そんな凶暴な子じゃありません。ほら、撫でてあげてください」

 

 近くで見ると、なかなか迫力のある顔をしている。黄金色の瞳の中にある縦長の黒目は、ステラを見ているようで見ていないような、曖昧な視線を送ってくる。ミアがやっていたように優しく鼻先に触れると、ドラゴンが低く唸った。ステラの触り方がお気に召さなかったのかもしれない。

 

 大男、弓矢男、鞭男、魔法使いの4人の死体の周りを、リュカがくんくんと臭いを嗅ぎながら四足で歩く。早く呪いを解けばいいのに、ミアはメス猫状態のリュカのまま放置していた。窮地を救ったことでリュカに懐かれ、気分がいいのだろう。

 

 「こいつらの処理はどうするにゃ?まだ死んで間もないし、食べていいなら私がもらうけど」

 

 「うえ…、獣人って死体食べるのかよ」

 

 「私は獣人の中でもグルメなほうだから、新鮮なやつしか食べないにゃ。死後硬直が始まったらもう食えたもんじゃない。この中で一番美味そうなのは…」

 

 リュカが飛び乗ったのは、ジェイドの体だった。

  

 「やっぱこいつにゃ。女のほうが肉が柔らかくてジューシー」

 

 リュカがぺろりと舌を出し、ジェイドの腹を掻っ捌きにかかった。

 

 「ダメ、そんなの食べたらお腹壊しますよ。故人を悪く言いたくありませんけど、その人ろくな人間じゃなかったんですから。リュカ様のお体に変なもの入れないでください」

  

 「ミア様がそういうなら…我慢するにゃあ」

 

 ずいぶんと従順になったものだ。ミアと獣人の間に、明確な主従関係が構築されている。ステラの言うことは聞かないが、ミアならうまくコントロールが出来そうだ。

 

 「庭にでも埋めてやるか。この家には有り余るほどでっかい土地があるし、6人くらい死体埋めても構わんだろ」

 

 「ステラ様って妙なところで人情味がありますよね」

 

 「褒めてるつもりか?」 

 

 埋める場所はどこがいいか考えていると、ドラゴンが鼻をひくひくと動かし始めた。鼻の穴が痒いのか、しきりに前足の爪で引っかいている。そして突然、ドラゴンが大きなくしゃみをした。轟音とともに吐き出されたのは、飛沫ではない。高温の炎だった。

  

 「ふにゃぁぁぁ⁉」

 

 リュカが毛を逆立てて飛び上がった。

  

 「くしゃみで一帯が大火事だぞ!ミア、止めてくれ!」

 

 「無理ですよ、消火の魔法なんて知りません!」

 

 「ここにいたら丸焦げにゃ!早く逃げないと!」

 

 3人は炎から逃れようと必死に走った。四足のリュカが一番速く、時折こちらを振り返っては、もっと速く走れと促してくる。


 やっとの思いで屋敷から脱出した頃には、炎は建物全体に広がっていた。ジェイドもダミアンも、みんな黒こげ、いや、もう形も残っていないかもしれない。

 

 くしゃみをしてすっきりした顔で、クラレーヌ家から飛び去るドラゴンが見えた。

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