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「どう?ダミアンほどじゃないけれど、いい男たちでしょう?彼らはみんな手練れよ。戦いたくてうずうずしてる。さああなたたち、思い切り暴れなさい。ご主人様の最後の命令ですわ!」
ジェイドの一声で、隷属魔法にかかった男たちが一斉に武器を構えた。首元めがけて放たれた矢を弾くと、間髪入れずに別の大男が斧を振り下ろしてきた。部屋の床に亀裂が走る。
「なんて馬鹿力だ。お前ほんとに人間か!?まるでオークじゃないか!」
岩のような大男の腹部に蹴りを入れたが、びくともしない。蹴ったステラの足のほうが折れそうになった。
ヒュッと鞭が空を切る音がして、ステラの腕を打つ。
「うっ、今度はなんだ。鞭使いかよ。ジェイド、お前の男の趣味はどうなってんだ。こいつとそういうプレイでもしてたのか?」
矢、斧、鞭による同時攻撃をなんとか防ぎながら立ちまわっていると、青い炎が天井から降り注いだ。
「魔法使いまでいるのか。まったく厄介だな!リュカ、敵を分断するぞ。君はあの大男を頼む。出来ればそっちの鞭使いも」
「お任せください!」
リュカは斧の攻撃を受け流し、大男の手首を斬りかかった。しかし丸太のような手首は、そう簡単には斬り落とせない。もう片方の手でリュカの首を掴んで持ち上げる。
「リュカ様を放して!」
だがこれもリュカの戦略だったらしい。首を捕まれた体勢から足を延ばし、大男の頭に両足を絡めた。そして体を捻った勢いで、相手の首をへし折る。ぽきん、という、見た目に似合わない軽い音とともに、大男は倒れた。もう息はない。
「あ、侮れないわね、リュカ王子…」
あっけなく散った元恋人の一人に、ジェイドは呆然としてる。
「王子じゃありません。私は女です」
大男の死体の影から鞭が放たれた。狙いはリュカ本人ではなく、剣のほうだ。刀身に鞭が巻きつき、男が腕を引っ張ると、剣がリュカの手から離れた。鞭を持った男がにたりと笑う。
「武器がないならさすがの王子も…」
リュカは剣など見てもいなかった。男に向かって突っ込み、顎に拳を叩き込む。男がのけぞったところへ、腰に差した短剣で心臓を一突き。勝負ありだ。
「う、嘘。一瞬で2人も?」
「大した事ありませんね。ジェイド様の交際相手の皆さんは」
「さすがですリュカ様!ああ、今の華麗な戦いをもう一度、いや何度でも繰り返し見たい!そういう魔法ないんですかね!?」
あちらはリュカに任せておいて大丈夫だ。ステラの相手は弓使いと魔法使い。遠距離攻撃の相手とは相性が悪い。どうにかして突破口を見つけなくては。
青い炎がステラを掠めた。髪がチリチリと焼ける匂いがする。
「ステラ様、私気づいちゃいました。あの人の魔法、まっすぐにしか撃てないみたいですよ」
ミアが世紀の大発見とでも言わんばかりの得意げな顔で言った。
「確かに炎の軌道は直線状だな。…で?」
「え?」
「だからどうしろと」
「それを考えるのはステラ様の役目でしょ」
「なんだよ、対策を考えてくれたんじゃないのか!」
期待させるだけさせておいて、特にそれ以上のアイデアは無かったらしい。ミアの近くにいては危ないので、ステラは魔法を避けながら走った。
「無様ですわね、ガサツ女。逃げるしかできないなんて!」
「死にかけのくせによく口が回るなぁ!?」
ジェイドの言う通り、逃げているだけでは勝機は見えない。魔法の軌道は単純で読みやすいが、それに加えて弓も避けないといけない。あの2人を一気に片づける方法なんて…。
「…そうか、閃いたぞ。私の足りない頭が捻りだした作戦だが、やってみる価値はある」
ステラは弓矢男のいる方向へと走り、徐々にその距離を詰めていった。走るステラを魔法使いの炎が追撃してくる。
「やはりな。こいつらお互いのことが認識できてないんだ。さっきの大男と鞭男だって、まるでコンビネーションのなってない戦い方だった。あの男は頑丈だから鞭が当たってもびくともしてなかったが、私は気づいてたぞ。ビシバシと鞭が大男に当たりまくってたのを」
隷属魔法で操られていると、対象を攻撃するという命令以外の動きは出来ないらしい。それなら、魔法使いだって弓矢男の存在を認識していないはずだ。
ステラは跳躍し、弓矢男の背後に回った。すかさず魔法が放たれる。当然、ステラを狙って。
「ああ、何やってるの!おバカ!」
狙い通り、青い炎が弓矢男に直撃した。体は瞬く間に焼かれ、肉が焦げる匂いが漂う。
男の持っていた弓は、炎に包まれる前にその手から離れていた。ステラは弓を拾い上げて矢をセットし、片目を閉じて狙いを定めた。
魔法使いの眉間に、矢が突き刺さる。目をぐるりと回し、相手は倒れた。
「ナイスショットです、ステラ様!」
ミアが飛び跳ねながら親指を立てた。
「な、なんで弓使えるのよ。聞いてない…」
「こちとら武芸の鍛錬は一通り受けてるんだ。勇者たるもの、弓くらい使えなくてどうする」
これでジェイドの奴隷、もとい元恋人は全員始末した。残るはジェイド本人だけだ。




