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 「ダミアン、どういうつもりですの?私に刃を向けるだなんて…」

 

 「く、来るなって言ってるだろ!」

 

 騎士団に所属していた時代からリュカが使っていた剣は、かなりの重量がある。男とはいえ、細身で筋肉量の少ないダミアンが持つに少々重すぎたようだ。剣を構えたダミアンの腕が震えている。

 

 「そんなに私のことが嫌い?私と一緒にいたくないの?」

 

 「好きなら逃げ出したりなんてしてない。君にはもううんざりなんだ。それ以上近づくな。本当に斬るぞ!」

 

 威勢だけはいいが、それが単なる虚勢であることはステラから見て明らかだった。ダミアンがジェイドを傷つけることはないだろう。魔物相手ならいざ知らず、人間に剣を振るうという行為には勇気がいるものだ。

 

 ジェイドは一歩、また一歩と間合いを詰めていく。ダミアンは壁に追い詰められ、逃げ場を失った。 

 

 「剣を下ろしなさい」

 

 からん、という金属音が響いた。ダミアンがそうしたのは、隷属の魔法にかけられたからなのか。それとも、ジェイドへの恐怖心から命令に背けなかっただけなのか。

 

 「よしよし、いい子ですわね。あなたもリュカ王子もとっても素敵。そうだ、2人とも私の奴隷にしてあげる」


 ジェイドの腕に嵌められたリングが光ると、ステラに組み伏せられていたリュカが痙攣し始めた。

 

 「こいつ、まだ動けるのか!なあミア、リュカがまた襲ってきそうだから、骨を折っていいか?」

 

 「答えの分かり切った質問しないでもらえますか」

 

 「ジェイドの魔力がすごいんだよ。リュカ本来の力が強いのもあるが、それが魔法で増幅されてる。このまま抑えきるのは厳しいぞ。せめて動けないように足の骨一本だけでも折らせてくれ。あとでミアが治癒すればいいじゃんか」


 「ステラ様には倫理観というものが欠如してます。絶対にリュカ様の骨、折らないでくださいよ!」

 

 不毛な言い争いをしている間に、リュカの反撃が始まった。四肢の自由は奪っていたが、唯一自由になっていた頭を使い、ステラの足に噛みついてきた。黄ばみ一つないリュカの白い歯が、ステラの血で赤く染まる。

 

 「この…ケダモノめぇ!」

 

 リュカの後頭部を掴み、地面に叩き付けた。大理石の床にリュカの顔がめり込む。ミアが絶叫しているのが聞こえるが、構っていられない。操られたリュカは危険だ。騎士道精神など捨て去り、邪道な攻撃でもなんでもしてくる。

 

 「さすがにこれでしばらくは動けないだろ。悪く思うなよリュカ。治癒魔法を使えば、綺麗な顔も元通りだから」

 

 ダミアンの助太刀に行こうと腰を上げた瞬間、足首に鋭い痛みが走った。

 

 「ぐっ…!なんだ⁉」

 

 「まだ勝負は終わってないですにゃあ」

 

 リュカの頭から猫耳が生えていた。また呪いが発動したらしい。よりにもよって、このタイミングで。

 

 「ちゃんと鞄に仕舞ってなかったのか!」

 

 猫耳と毛皮など、リュカをメス猫に変える呪いのセットは、ミアが管理していたはずだ。

 

 「嘘、ちゃんとここに入れてたはず。鍵もかけてしっかりと…あっ」


 「なんかやらかしただろ。怒らないから言ってみろ」

 

 「その、リュカ様のコーディネートをしてた時にですよ?猫耳と合わせたら素敵な衣装を見つけて、一瞬だけです。一瞬だけ鞄から出して、合わせてみたんです。実際に装着はさせてませんからね」

 

 言い訳をする時のミアは口数が多い。

 

 「それでですね、そのあと鞄に仕舞って…」

 

 「鍵は?」

 

 「かけ忘れました」

 

 「愚か者め!」

 

 「怒らないって言った」

 

 「早く呪いを解除しろ!呪われた上に魔法で操られてるって、もう手の付けようがない。私が抑えておくからその隙に…」

 

 リュカの姿がない。どこへ消えた?

 

 「こっちですにゃあん。ステラ様」

 

 リュカは天井から吊り下げられたシャンデリアにぶら下がり、愉快そうに笑いながら揺れている。シャンデリアのクリスタルを一つ取り外し、ステラに向かって投げてきた。

 

 「危ないだろ、降りてこい!」

 

 「もっと遊びましょうよ、ステラ様!」

 

 上を見上げればリュカからの攻撃。向こうを見ればジェイドに迫られているダミアン。自分の失態に狼狽しているミア。ダミアンの婚約者を騙すだけの作戦のはずが、収拾のつかない事態になってきた。  

  

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