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血眼になって探していた婚約者のことなど綺麗さっぱり忘れ、ジェイドは目の前のリュカに熱を上げている。リュカの顔を揉みしだき、頭を撫でまわす様子は、まるでペットを愛でる飼い主のようだった。
「ああ、愛おしいですわ、リュカ王子。あなたのような麗しい殿方が、私に求婚するために異国からはるばる来るなんて。なんて幸せ者なのでしょう!もっとお顔をよく見せてくださいまし!」
ジェイドがリュカの口の端に指をかけ、無理やり開かせた。
「ひゃ、ひゃめへ…」
こじ開けられたリュカの口から唾液が滴る。
「お口の中まで綺麗ですわ。ほんと見れば見るほどダミアンそっくり。あの人もどこを切り取っても画になる美しい方だった」
束の間、ジェイドは消えた婚約者の事を思い出して悲し気な表情を浮かべた。しかしそれも一瞬のことで、すぐにリュカに向きなおる。
「あなたのすべてが知りたいわ!リュカ王子、恥ずかしがらなくてもいいの。私に全部さらけ出してくださいまし。遠慮しないで。私を求めてここまで来たのでしょう?」
見るに堪えない光景だった。誇り高き戦士であるはずのリュカが、まるで動物のように愛でられている。尊厳も何もあったものではない。ステラでさえ目をそらしてしまうのだから、ミアが正気を保っていられるはずがなかった。
「ぐふっ…」
「大丈夫か、なんか吐いたぞ」
「すいません、ちょっと気分が悪すぎて。今朝のご飯が逆流しました」
「ミアが仕向けた作戦だろ。万事うまく行ってるじゃないか。まあ、ジェイドがここまでの女だとは思わなかったが。なあダミアン、君に対してもあんな感じだったのか?」
「確かにスキンシップが激しい人でした。そうか、やられてる時は分かりませんでしたけど、客観的に見ると…うん、なんか異様ですね」
ジェイドの指が、リュカの顔中を這いまわる。目尻を撫で、耳の穴をほじくり、喉の奥まで指を差し込んだ。おおよそ人間相手にするにしては、行き過ぎた触り方だ。
「かっ…がはっ」
喉を刺激されたリュカがえづくも、お構いなしで愛撫を続けるジェイド。ついに耐えかねたミアが、小さな体を揺らしながら、どしどしと足音を響かせてジェイドに向かっていった。
「あのお!王子へのおさわりを許した覚えはありませんが⁉」
「あら、誰ですのあなた」
「リュカ王子の付き人のミアです。今すぐ王子から離れてください。いえ、離れなさい」
「嫌よ。リュカ王子はもう私のものなんだから」
ジェイドがリュカの頭を胸元に抱き寄せた。
「離れて!」
「だったら力づくで取り返してみなさい。おチビちゃん」
ジェイドは挑発的な笑みを浮かべ、リュカを抱えたままベッドに飛び移った。
「わあああああ!」
雄たけびとともにジェイドに掴みかかるミア。しかし体格の差は明らかだ。富豪の娘とはいえ、引きこもりの不摂生な生活ではないのだろう。ジェイドは意外にも整った体つきをしており、一回り以上小さいミアが向かって来ても、それをものともしない。
「えい」
ミアの額に手刀を食らわせ、ベッドにふんぞり返った。
「いっ…」
ミアは額を押さえて、しばらく何が起きたのか分からないような顔をしていたが、痛みが徐々にやってきたらしい。瞳が潤んできている。
「ステラ様、あいつやっつけてください」
「やだよ。私なんにもされてないもん」
ここでステラが暴れようものなら、作戦はすべて水の泡だ。闘技場での戦いも、リュカの男装も意味が無かったことになる。
「あらあ、弱っちいですわね。いいわ、そこで見てなさい。王子が私のモノになるところを!」
ジェイドが右手の袖をめくると、手首に巻かれたリングが現れた。それは禍々しいオーラを放っており、見るからにただの飾りでないことが分かる。
「これが、魔力の正体…!」
ミアが涙をひっこめた。




