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 一角獣の血走った目がリュカを捉え、その巨体に似合わない速さで突進した。ダミアンのいう通り、凶暴性が魔法によって増幅されているらしく、その動きには理性の欠片も感じない。ただ目の前の相手を突き殺し、死肉をむさぼることしか頭にない。そんな様子だった。

 

 しかしいくら速かろうが、一角獣の武器は槍のようなその角だけ。攻撃の軌道が読みやすく、リュカほどの戦士であれば躱すのはなんら難しいことではない。ミアがコーディネートした貴族風の衣装では動きにくいのではないかと思ったが、リュカの身体能力の前では、衣装の素材など問題ではなかった。

 

 「おお、リュカ王子、見事な身のこなしだ!一角獣の一撃を躱した!」


 実況役の男が立ち上がり、拳を振り上げた。

 

 「ああ…最高です。高貴な衣装で舞うリュカ様…。ずっと見ていられますね、これ」

 

 客席のミアは、うっとりと戦いの様子を見下ろしている。

 

 全速力で突進した一角獣は、勢いあまって壁に激突。自慢の角が刺さり、抜けなくなっている。なんとも間抜けな姿を肴に、ステラはビールを呷った。

 

 「す、すごい。あんな速い攻撃を簡単に躱すだなんて。本当にリュカさんって強い戦士なんですね」

 

 「私が認めた女だぞ。酒癖は私以上に悪いし、ミアのことになると変に心が弱くなったりするが、実力は確かだ」


 自滅して動きを封じられた一角獣は、なんとか角を引き抜こうと必死にもがいている。その隙を逃すリュカではない。角の生え際、ちょうど肌質が柔らかくなっている部分に、鋭い一太刀を加えた。

 

 見世物にされるために雪原から連行されてきた哀れな魔物の断末魔が響いた。

 

 「勝負あり!一回戦、リュカ王子の勝利です!」

 

 女性客の黄色い声援に混じって、男性客の雄たけびも上がった。闘技場の観衆が美しい王子の華麗な戦いに熱狂している。一角獣の返り血を拭うリュカの姿は、とても画になった。ミアでなくても惚れこんでしまうだろう。

 

 「すごい盛り上がりだな。女性客が目をハートにしてるぞ。ミアのライバルが増えるんじゃないか?」

 

 「冗談でもそんな事言わないでください」

 

 「客の中にはかなりの美人もいるぞ。試合が終わったらリュカに求愛するやつがいても不思議じゃ…」

 

 ミアが無言でビールを叩き落としてきた。

 

 「あっ、ごめんよ…、そんな怒らないでいいじゃんか…」

 

 飲み物を失ったステラは、ウエイトレスに二杯目を注文した。

 

 「さてさて、お次はこちら。怒り狂ったドラゴンです!おっと火を吐いた。なんでこんなにぶち切れてるのかって?そりゃ子育て中に、赤ちゃんドラゴンを攫ってやったから!子供を取られたお母さんドラゴンは、さぞかし怒ってますよ。魔物の世界でも母は強し。リュカ王子、2回戦も勝利なるか。それともドラゴンの火で丸焦げか⁉」 

 

 「うわ、とんでもない事しますね。クラレーヌの人は」

 

 「ダミアン、お前の婚約者の街、治安悪くない?」

 

 「だから僕も知らなかったんですよ。闘技場でこんな事が行われているなんて」

 

 ドラゴンの吐いた火は客席にも及んだ。リュカの雄姿に歓声をあげていた女性客のドレスに火がつき、周りの人間が慌てて消火している。

 

 肝心の戦いは、あまりにあっけなく終わった。ドラゴンの死角に回りこんだリュカは、皮膚にびっしり生えた鱗を足がかりにして背中を駆け上がり、ドラゴンの翼を叩き切った。両翼を失ったドラゴンは、一気にただのでかい爬虫類のようになってしまった。


 首を回して炎を吐きかけようとするも、そこにはもうリュカの姿はなかった。ドラゴンの喉に向けて一閃。それで勝負は決まった。

 

 「こ、これはすごい!リュカ王子、怒れるドラゴンを圧倒!この強さは本物だ!」

 

 傷一つ負わず、ドラゴンの死体を見下ろすリュカ。ダミアンも驚きを隠せない様子だ。

 

 「僕はとんでもない人を身代わりに差し出したのかもしれません。あとで僕も切られたりしませんよね…?」


 「あんなのリュカにとっては朝飯前さ。あいつはパーティーの用心棒だからな。強くて当然」

 

 リュカが客席のミアに向かって、笑顔で手を振った。女性客の視線が、ミアに集中する。

 

 「んふふ…、ふふ」 


 手を振り返すミアの顔は、優越感に満ちていた。

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