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 「金持ちだと聞いていたが、まさかここまでとは驚いたな…」

 

 クラレーヌ家の門戸に立ったステラは、家と呼ぶにはあまりに大きすぎる建物に圧倒された。街一つ治めているというだけあって、その財力は計り知れない。小さな鍛冶屋から始まったクラレーヌ家は、今や王族に匹敵する影響力を持ち合わせていた。そんな家に嫁ぐとなれば、本来なら喜ばしいことのはずだ。だが屋敷を見ただけで顔を曇らせているダミアンを見ると、ジェイドという婚約者がいかに面倒な女なのかが窺い知れる。

 

 「これからジェイドのところへ行って、リュカとの顔合わせをセッティングしないといけないわけだが、問題はどうやって中に入れてもらうかだ。そのあたり考えてるのか?」

 

 作戦を指揮しているミアが肩をすくめた。分からないといったジェスチャーではなく、考えがあるのが当然、そう言いたげな仕草だ。

 

 「任せてください。万事うまくいきます。なんのためにリュカ様を男装させたと思ってるんですか」

 

 どこぞの国の王子、という設定をミアに付け加えられたリュカは、所在なさげに突っ立っている。慣れない煌びやかな衣装が落ち着かないらしく、しきりに服の裾や襟元をいじくり回していた。

 

 門の前には守衛が一人、覇気のない顔でボーっと空を眺めている。クラレーヌ家が敵の襲撃を受けるなど滅多になく、平和ということなのだろう。仕事にも緊張感がないわけだ。


 こほん、とミアが咳ばらいをして、守衛の注意を引き付けた。

 

 「何者だ?」

 

 ミアの見た目からして敵ではないと判断した守衛は、それでも一応は仕事なので形式的な質問を投げてきた。

 

 「私、シルヴァン王国から参りました、ミアと申します。リュカ王子の付き人をしております」

 

 ミアの自己紹介から、聞いたことのない王国名が飛び出した。ミアの後方で、ステラとダミアンがひそひそと囁きあう。

 

 「私そんな国知らないんだけど、ダミアンは知ってるか?」


 「僕も初耳です。シルヴァン王国?少なくともこの周辺にはないと思いますが」

 

 「もしかしてミアのやつ、リュカが王子っていう適当な設定をでっち上げるために色々作りこんでるんじゃないか?」

 

 「あの短い時間でそこまで考えを」

 

 「ウチの僧侶を侮ってはいけないぞ。リュカのことになると奇想天外な行動ばかりするようになるんだから」

 

 シルヴァン王国という存在しない国の王子に仕立て上げられたリュカも、困惑の表情を浮かべている。その反応を見るに、リュカと事前の打ち合わせもしていなかったらしい。今この瞬間、ミアがとっさに思いついた名前なのかもしれない。

 

 「シルヴァン王国だと?失礼だが、紹介状か通行許可証を」

 

 「リュカ様は王子なんですが?」 

 

 「怪しい者を通すわけには…」

 

 「この見た目で王子じゃないわけないでしょう?」

 

 「見た目とかではなくてね…」

  

 当然ながら身分を証明する公的な書類などは持っていない。それを偽装する時間と技術までは、さすがのミアにも無かったらしい。

  

 守衛はミアと話していてもらちが明かないと判断したのか、会話の相手をリュカに切り替えた。

 

 「えー、あなたが…どこだっけ、シルヴァン王国?の王子様だね。付き人の子がこんなこと言ってるけど、正直信用ならないんだ。なにか証明するものを見せてくれないか」

 

 「そ、そうですね。証明するもの…証明するもの…」

 

 何も入っていない服の内側をまさぐるリュカ。時間稼ぎのつもりだろうが、動揺が顔に出てしまっている。 

 

 ミアがリュカの後ろへ回り、肩をとんとんと叩いた。

 

 「いいですかリュカ様、これから私のいう通りに喋ってください。一字一句間違えないようにお願いしますよ」

 

 身長の低いミアが、リュカの耳元で囁くために背伸びをした。

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