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 「僕の婚約者を奪ってくれませんか」

 

 「…はい?」 

 

 リュカが困惑するのは当然だ。横で聞いていたステラとミアも、まったく同じ表情になっていた。

 

 「ダミアン様の婚約者といいますと、傍若無人なお嬢様とお聞きしたジェイドという方ですよね。えっと、私が奪うってどういうことでしょうか」


 「ジェイドはこれまでも政略結婚の相手を何人も打診されてきましたが、全部彼女が拒んだんです。ですが僕だけは気に入られた。それって僕の家柄というより、顔が好みだったらしくて…」

 

 ジェイドがどんな女かは知らないが、ダミアンの顔を醜いと思う人間などこの世にいないだろう。よほど美的感覚が狂ってでもいない限り、魔物でさえも見とれる美しさだ。

 

 「あなたなら僕の代わりになれると思うんです。あっ、お名前は…」

 

 「リュカと申します」

 

 「女性相手にこんな事をいうのは失礼だと承知ですが、怒らないで聞いてくれますか?リュカさんが男装でもすれば、ジェイドは簡単に惚れると思うんです。顔で人を選ぶ女性ですから」

 

 「だ、男装…?」

 

 リュカは頬を引きつらせ、あからさまに嫌そうな顔をした。

 

 「ほほお」とミアが顎を撫でる。

 

 「何を考えてるんだミア。ニヤニヤと」

 

 「悪くないんじゃないですか、リュカ様の男装。私、とっても見てみたいです」

 

 リュカが危険な一族に差し出されようとしているのに、暢気なものだ。

 

 「いいのか?ダミアンの話によれば、ジェイドって女はかなり厄介だぞ。性格が面倒なだけならいいが、クラレーヌ家ってのは相当な支配力を持ってるんだろ」

 

 「ステラ様が騒ぎを起こしたせいで、クラレーヌ家からはすでに敵視されていますよ。この店も全部、一族の息がかかっているんですから」

 

 「まあそうだけどさぁ。リュカが男装してジェイドを口説くってことだろ?それミアとしては不満じゃないのか」

 

 「あの、私まだ同意してません。勝手に話を進めないでください」

 

 パーティーの意思決定権は、基本的にミアにある。一応パーティーの長はステラのはずだが、気づいた頃には主導権を握られていたのだ。

 

 「大丈夫ですリュカ様。目的はダミアン様との婚約を無かったことにすること。そうでしょ?リュカ様の魅力で口説き落として、それからさっさと逃げればいいんです。ジェイドって人は独身に逆戻り。我儘なお嬢様は、誰にも相手にされずに寂しい人生を送るのです」

 

 嬉々として計画を語るミアの顔は、花が咲いたように輝いている。リュカの男装姿を思い浮かべて、楽しくなっているのだろう。

 

 勝手に舞い上がるミアを年長者のステラが止めないところを見て、ダミアンはこれを肯定と受け取ったらしい。リュカの手に自分の手を重ね、紺碧の瞳で見上げる。

 

 「ありがとうございます、リュカさん。出会ったばかりの僕のために身を挺してくれるなんて、とてもお優しい方なんですね」


 「やっ、ちょっと待ってください。だから私はまだ何も…」

 

 「そうと決まれば買出しに行きましょう、リュカ様!」

 

 ミアがパブの扉を蹴破らんばかりの勢いで開けた。

 

 「買うって何をですか」

 

 「やだなあ、決まってるじゃないですか。男装用の服装ですよ!」

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