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「あああ…もう。どうしてステラ様は暴力でしか解決できないんですか」
ウエイトレスが放った魔法をひらりと躱し、相手が女性だろうが容赦なく拳を叩き込むステラ。顔面を外しただけ感謝してもらいたい。肋骨の一本や二本折れたかもしれないが、まあそのうち治るだろう。ミアの嘆く声を無視して、次の相手へ殴りかかる。
ダミアンを連れ戻そうと派遣された伏兵たちは、次々と倒れていった。一般人相手に暴力を振るうのは騎士道精神に反すると、リュカは基本的に防戦一方だ。だが相手の男がミアに近づこうとすると、見事な背負い投げを決めた。
「騎士道精神はどうした」
「正当防衛です」
戦闘狂の勇者と手練れの戦士を相手に、ジェイドの派遣した一般人が勝てるわけがない。まだ傷を負っていなかった者も、戦わずして逃げていった。
「ふん、口ほどにもないやつらだ。こちとら化け物との戦いで鍛えられてるんだよ」
「次はもう少し平和的な解決をしてくださいよ」
「なんだミア。私に話し合いで解決しろとでも?それが無理なのは君が一番よく知ってるだろ」
「まあ、ステラ様ですからね」
言葉よりも拳のほうが手っ取り早い。パブは静まり返っており、ダミアンを狙う追手は一人残らず消えていた。
「もう大丈夫だ、フードを取っていいよ」
「…驚きました。皆さんお強いんですね」
フードの下から再び現れたダミアンの顔からは、先ほどまであった緊張が抜けている。少しリラックスした表情もまた、絵画のような美しさを際立たせていた。
「あ、あの、お店の弁償代は僕が払いますから」
「弁償しないといけないのか。むしろ私はこの店の平和を守ったつもりなんだが」
店のオーナーらしき女性に聞こえるようにわざと大声で言ってみると、鋭い目で睨まれた。
「分かった、弁償するよ。ああ、いいよ出さなくて。臨時収入があるって言っただろ?勇者をやってるとたまにすごい儲かる時があってね」
ダミアンは名家の人間らしいので、助けてやれば何倍にもなって返ってくるはずだ。弁償代と合わせて、ビールを一杯だけ注文した。オーナーは信じられないという顔をしたが、多めに金を弾んでやると、不承不承といったふうにグラスを差し出してきた。
「こら、飲んじゃダメって言ったのに」
「戦いのあとの一杯は最高に美味いんだよ。ミアも大人になれば分かるさ。ところでダミアンはなぜ、そのジェイドという我儘なお嬢さんと婚約を?」
「親同士で取り決めた婚約なんです。僕の家はいわゆる貴族階級の一族でして、この辺りの土地の地主でもあります。クラレーヌ家としては、今後のために縁談を結んでおきたかったのでしょう。僕の意思なんてまったく尊重されず、あっという間に婚約まで話が進められたんです」
「まさに政略結婚ってやつじゃないか。あー、嫌だね、お貴族様ってのは。愛のない結婚なんて許されないことだ」
「そうです、愛は大事ですよ」
口を挟んできたミアが、リュカのほうに視線を遣った。
「で、そいつがとんでもない女だったと」
「クラレーヌ家の当主、ジェイドの父親にあたる方ですが、この人はとにかく娘に甘いんです。なんでも欲しいものを与えられてきたせいで、この世に叶わない望みはないと本気で思ってるみたいで…。だから僕のことを手に入れられないと分かった時、ものすごく怒ったんです」
当時を思い出したのか、ダミアンは身震いした。よほど怖かったのだろう。
「怒り狂うジェイドから命からがら逃げてきて、今に至る…というわけです」
「君も苦労人だな。親の都合で振り回されて、さぞかし大変だっただろ」
「ステラ様、同情しながら酒を飲まないでください。嘘くさく見えますよ」
「…ほんとにお節介なことばっかり言うようになったな、ミアは」
ステラとミアのやり取りを聞いていたダミアンが、くすりと笑った。ほう、そんな顔もできるのか。笑うと少し幼い雰囲気になり、それもまたダミアンの儚さを増幅させる。
「私たちに出来ることは何かないか?言ってくれれば手伝ってやる」
「…本当にいいのですか?」
「ああ言ってみろ」
「では、そちらの方にお願いしたいことが」
ダミアンの視線が向けられたのは、リュカだった。
「え、私?」




