66
透き通るような金髪に紺碧の瞳。世に男性は星の数ほどあれど、ここまでの美しさを持つ者はいないだろう。そう思わせるほど、フードの下から出てきた顔は完璧な造形美をしていた。本当に生きているのか。作り物じゃないのかと、ステラは目の前の光景を疑った。
ステラの腕を掴んでいたミアも、隣で瞳孔を見開いている。リュカのことしか眼中にないミアだが、そういう反応になるのは仕方がない。
「あー…、なんだっけ。そう、君は何かに追われてるんだよな。私たちは旅の者でね。よければ力になるよ。困っている人は見過ごせない主義なんだ」
ステラがそう申し出た理由は、半分は善意。もう半分は、青年の耳元で煌めく宝石にあった。見るからに高価なものを身に着けている。きっと裕福な家の人間だ。恩を売っておけば、なにかと利益があるかもしれない。
「あ、ありがとうございます。でもお気持ちだけで結構なので…」
「声小さいな。なんて?」
ぼそぼそと喋る青年に耳を近づけると、宝石よりも美しい顔が至近距離に迫り、思わず身を引いた。
「おっとと、すまない。つい癖で」
「お気持ちだけで結構と仰っています」
ミアが間に入って、青年の発言をステラに伝えた。
「君の様子を見てるとただ事とは思えないな。なあ青年、名前は?」
「ダミアン…です」
ダミアンが伏せた長いまつげの間から、深い海のような青色の瞳が見え隠れする。
「遠慮しなくていいぞ、ダミアン。私は勇者として、人助けをするのは当然だ。魔物を倒すことだけが勇者の仕事じゃないからな。誰に追われてるのか話してくれないか?」
一度は浮かしかけた腰を下ろし、メニューをダミアンへ放った。
「好きなのを頼んでいいよ。つい先日、臨時収入があったんでね」
ロメオが持ち去ろうとした財宝をミアが取り返してくれたおかげで、当面の資金を入手することができた。どう見ても裕福そうなダミアンにおごるというのも変な話だが、彼は遠慮がちにメニューを開き、小さな声で何かを注文した。内容までは聞き取れない。
4人掛けの丸テーブルで、リュカとダミアンが隣同士になっている。こう見ると壮観だ。まるで絶世の美青年が2人。リュカを男扱いするとミアに怒られるが、ステラの中では、ミアとリュカを男女カップルのように捉えている節がある。一緒に旅をしていくうちに見慣れてきたが、リュカの中性的な美しさも改めて実感した。
「僕を追っている人のことなんですが…」
ダミアンがぽつぽつと話し始めた。
「この街の権力者、クラレーヌ一族をご存じですか?」
「さっき知ったよ。ずいぶんとご立派な人たちだそうだね」
「クラレーヌ家には現在、3人の娘がいるんです。次女と三女はすでに結婚していて、残っているのが長女のジェイド。僕はジェイドの婚約者に選ばれてるんです」
「おめでとう、でいいのか?」
「全然めでたくなんてありません。ジェイドはとにかく我儘な人で、あんな女性と結婚するなんて、僕には考えられないんです。だから逃げてきたんですけど…」
「なるほど、話が見えてきたぞ。ジェイドが君をクラレーヌ家に連れ戻そうとしてるんだな」
ダミアンはこくりと頷いた。
「フードを被って顔を隠してたのもそういうことか。とすると、今も近くにジェイドの手先が潜んでいる可能性もあるな」
ステラの予感は的中した。カウンターに座っていた大柄の男が立ち上がった。それを合図に、ウエイトレスの一人が料理を放りだし、魔法の杖を構えた。客の中から、わらわらと戦闘態勢の人間が出てくる。
「こいつら全員ジェイドの手先か。ここでダミアンが来るのを張っていたということだな」
「も、もうだめだ。捕まる…」
今更遅いというのに、ダミアンはフードを被りなおした。
カウンターにいた男が雄たけびをあげながらダミアンに向かって突進してきた。
「がはっ!」
ステラの蹴りが炸裂し、男は料理ごとテーブルをなぎ倒しながら、パブの外へ消えていった。
「ようし、ダミアン。君の事情は分かった。望まない結婚なんて誰も幸せにならない。どうせあれだろ?政略結婚みたいなやつだろ。私の見立てが正しければ、君もクラレーヌ家と同じくらいの名家出身と見た」
「ええ、一応は」
やはり金持ちだ。恩を売らなくては。
「君を護衛してやる。なあに、報酬は後払いで結構さ。リュカ、構えろ。ジェイドの配下を一掃するぞ」
「私たちクラレーヌに来たばかりなのに、もう街を敵に回しちゃうんですか?」
「今更なんだ。私は数々の街を出禁になった勇者だぞ!」




