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 「まだお昼前ですよ。お酒は飲んじゃダメです」

 

 「んだよケチ。昼でも夜でも一緒だろ」

 

 二日連続で野宿は嫌だとミアがうるさいので、ステラたち一行は先を急ぎ、予定よりも早く次なる目的地へと到着していた。ここ、クラレーヌの街は、鉄鋼業で財を成した一族によって統治されている。街の施設や店のほとんどは一族の名前を冠したもので、いかにその影響力が全体に及んでいるのかが窺える。


 「クラレーヌ一族ってすごいんですね。店の壁に貼ってある肖像画…、あれが一族の長でしょうか」

 

 リュカは感心した様子で、店内を見まわしている。

 

 「ずいぶん立派な口ひげだな。あの偉そうなひげは間違いなく一族のトップだろ」

 

 「とすると、その横に描かれているのが奥様でしょうか」

 

 口ひげを蓄えた恰幅のいい男性の隣には、もう一枚の肖像画が掛けられてあった。こちらは対照的に細身の女性で、どこか陰のある笑みをたたえている。お似合いの夫婦、という感じではないが、これがクラレーヌ一族の先祖なのだろう。

 

 「もともとは小さな鍛冶屋から始まったそうですよ。事業に成功して、あれよあれよと勢いが拡大。クラレーヌの街が正式に作られたのは、今から200年ほど前なんですって」

  

 「なんでミアはそんな詳しいんだよ」

 

 「ここに書いてありました」

 

 ミアが席においてあったメニューを裏返した。見るとそこには、30行ほどでクラレーヌの歴史が記されてある。こうやって住民たちの潜在意識に一族の偉大さを刷り込ませ、外部から来た人間へのアピールも欠かさないということか。

 

 「いいなあ、金持ちは。私も勇者じゃなかったら、なんか商売で一発当てたかったよ」

 

 「商売してる場合じゃないですよ。今は魔王軍との均衡がなんとか保たれてますけど、それが崩れたら一気に全面戦争なんですからね」

 

 「分かってるよ。もしもの話じゃないか。なあ、リュカは戦士以外の人生だったら何になりたい?」

 

 「戦わない人生、ですか。そうですね…」

 

 リュカは一瞬の沈黙ののちに答えた。

 

 「ぱ、パン屋さん」

 

 「私毎日食べに行きます。リュカ様の焼きたてのパン!」

 

 ミアがテーブルに身を乗り出した。

 

 いつの間にか店内は混んできており、ウエイトレスが忙しそうに動き回っている。ちょうどお昼時だ。ミアから酒を飲むことを止められたので、食べるものだけ食べてとっとと退店するとしよう。


 3人の中で最も食べるペースが速いステラは、空になった食器をわきへ退けて、スープをすするミアを見つめた。まだ熱かったらしく、一度口をつけた後にふうふうと冷ましている。リュカは戦士のくせに食事マナーが綺麗で、ナイフとフォークを丁寧に使って肉を切り分けていた。ステラはまるごと齧り付いたというのに、リュカはずいぶんと育ちがいいようだ。


 リュカが食事を終え、最後にミアの順番で昼食を平らげた。

 

 「さて、じゃあ今夜の宿を探すかあ。ミアがベッドで寝たいってうるさいからな」

  

 「草の上で寝るのはもう嫌ですよ。寝てる間に虫とか入ってくるし。それに昨日みたいなことになりかねませんからね」

 

 昨夜は獣人の呪いがかかったリュカに襲われた。脇を執拗にくすぐられ、腹筋が吊るくらい笑わされてしまった。ミアから見ればそれは邪な行為に映ったらしく、今朝もあまり口をきいてもえらず、居たたまれない思いをしたものだ。ロメオめ、厄介な置き土産を。


 席を立とうとした時、ドアベルがからんと鳴った。新しい客が入ってきたらしい。フードを被ったその客は一人で、空いている席を探している。しかしどこも満席だ。ちょうどステラたちは店を出るところだったので、手を振って空席があることを合図した。

 

 「私たちはもう出るから、ここ使いな」

 

 フードの客はぺこりと会釈すると、4人掛けのテーブルに一人で座った。顔がよく見えないので、男か女かも分からない。しかし入店してきてからずっと、怯えたように周囲を警戒しているのが気になった。

 

 「失礼だがあんた、なにかに追われてるのか?」

 

 フードの客にそう尋ねると、テーブルの下でミアに腕を引っ張られた。余計な事に首を突っ込むなと言いたいのだろう。

 

 こくりと無言で頷く客。そしてゆっくりとフードが外された。

 

 「…っ!」

 

 布の下から出てきた顔に、ステラは息を飲んだ。


 フードで隠すにはもったいないほどの美青年がそこにいたからだ。

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