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 「また野宿ですか。今夜中には次の街に着くって言ってたのに」


 ミアが分かりやすく不貞腐れた。潔癖症のミアは、外で寝ることを極端に嫌がる。長く一人旅を続けてきたステラにとっては、草地がベッドのようなものだ。砂利道の上で寝たときはさすがに疲れが取れなかったが、今夜の寝場所は大きな樹の下で、しかも柔らかい草もたくさん生えている。これを贅沢と言わず何という。

 

 「星を見ながら寝るのも気持ちがいいだろ。ミアの年齢じゃまだ分からないか。大自然の雄大さとか、そういうのがさ」

 

 「ベッドで寝たいです」

 

 「ないものを言ってもしょうがない。駄々こねてないで寝なさい」

 

 ぶーぶー文句を言うミアだったが、ステラが頭を撫ででやると、だんだん瞼が重たくなってきたようだ。今夜は夜風が気持ちいい。茂みから聞こえてくる虫の鳴き声に、ステラも眠りの世界へと誘われかけた。

 

 意識が遠のいてゆき、もう間もなく眠りに落ちる。その時だった。

 

 「まだ寝かせないにゃあ、ステラ様」

 

 ぱさぱさした毛皮が顔に押し付けられ、意識は一気に現実に引き戻された。

 

 「なっ、リュカ、またその姿に…」

 

 月明りを浴びた女豹のリュカは、艶めかしく腰をくねらせながらステラに覆いかぶさってきた。まどろんでいた直後で力が入らないのをいいことに、無理やり押さえつけてくる。リュカのしっぽが脇をくすぐり、ステラは思わず声を上げた。

 

 「ひゃっ…なにして…あははっ、や、やめろ、このメス猫、ひぃ…ひひひ」

 

 「あの時のミア様とのキス。まだ許してないにゃん」

 

 「そ、それ違うって言ったじゃん。ラミアから聞いただろ…ふあっ…、あのキスに愛とかないって…はっ…ははは…ちょ、マジでやめて」

 

 しっぽを器用に使った脇へのくすぐりに加えて、先端を数ミリだけ出した爪でわき腹をカリカリ引っかかれるので、堪ったものではない。

 

 「やっぱり納得いかない。だからちょっとだけステラ様に意地悪してやりますにゃ」


 「そ、そんなことのために出てくるなぁ…」

 

 人っ子一人いない深夜の草原に、ステラの甲高い笑い声が響いた。

 

 「…うるさい!なに騒いでるんですか。安眠妨害ですよ!」

 

 ほら、ミアが起きてしまった。寝起きのミアは必ずと言っていいほど機嫌が悪い。寝ぐせがついていただけで鏡の前で膨れていることも多いし、朝食の時にステラの卵のほうが大きいと文句を言われたこともある。


 「ひっ…ひひ、ごめんミア、違う。リュカが襲ってきて…」

 

 「あらあら、起こしちゃいましたかにゃ、ミア様」

 

 「な…!」

 

 起き抜けのミアの目に飛び込んできた光景は、誰が見てもリュカがステラを襲っている構図だ。月明りに照らされた2人の交わりは、ミアからすれば不純なものにしか映らなかっただろう。

 

 ミアはリュカを引きはがし、覚えたばかりの呪いの解除魔法を放った。黒い小さな光が瞬いたかと思うと、リュカはがっくりと気を失った。耳やしっぽは体から外れ、リュカはすうすうと寝息を立てて眠りに落ちた。

 

 「助かったよ、ありがとう」

 

 ミアは何も言わず、顔をそむけてしまった。叩き起こされたことに加えて、寝起きの機嫌の悪さも相まって、もう最悪だ。

 

 「ねえ、私悪くないって言ってるのに。くそっ、リュカめ。いやリュカも悪くないんだ。悪いのは全部呪いだよ。やっぱりロメオに引き取らせればよかった」

 

 翌朝になっても、妙に気まずい空気が流れていた。騒ぎを起こした当の本人であるリュカは、獣人の時の記憶がないので、ステラとミアの間の不穏な空気にきょとんとした顔をしていた。


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