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 こんなにも不利な戦いがあるだろうか。相手の姿を視界に捉えた時点で、呪いが発動して即死。当然目を開けることが出来ないので、相手の動きを読むことも難しい。大蛇と化したラミアの大ぶりな攻撃は、本来なら避けることなど造作もないはずだ。しかし目を閉じた状態では、それすらもままならない。しっぽが空を切る音だけを頼りに攻撃をかわそうとしたが…。

 

 「ぐふっ!…いってぇ…、鏡の体でぶん殴るとか反則だろ」

 

 ラミアの体を覆っているうろこは、すべて呪いが込められた鏡になっている。目を閉じていても、鏡に反射した光が瞼越しに差し込んできて眩しい。ラミアが暴れるたびに鏡が割れ、その破片がステラの腕に刺さった。刺すような痛みに思わず目を開けてしまいそうになったが、一瞬でもラミアを目に映してしまえば終わりだ。ロメオが言っていたではないか。1秒見れば目がつぶれる。3秒もあれば間違いなく死ぬと。


 「ミア、大丈夫か。そっちまで破片が飛んで行ってないか?」

 

 返事がない。

 

 「どこだミア。おい、返事してくれ!」

 

 目を閉じたままではミアを探すことも容易ではない。鼻をひくひくさせて嗅ぎなれたミアの甘い香りを辿ろうとしたが、自分の体から流れる血の匂いと、ラミアから発せられる爬虫類特有の湿っぽい臭いが混ざって、ミアの居場所を探ることが出来ない。


 「僧侶ちゃんならここよ。あー、ここって言っても見えないんだっけ。じゃあ説明してあげる。私に巻きつかれて、今まさに頭をがぶりと食べられそうになってるところ」

 

 「貴様、ミアをはな…」

  

 まんまとラミアの策略にはまったと気づいた時にはもう遅かった。

 

 ミアが捕まったと聞いて目を開けてしまった。顔の内側から目を押し出されるような感覚がステラを襲う。

 

 「ステラ様、見ちゃダメです!目を閉じて!」

 

 言われなくても開けていられないくらい痛い。視界が真っ赤に染まり、平衡感覚が失われた。ロメオの言う通りだ。1秒だけしか見ていないのに、眼球が潰されるほど強い呪い。その一瞬だけ視界に映ったラミアは、生命体とは思えないような見た目をしていた。鏡を纏った大蛇というより、大蛇の形をした鏡といったほうが近い。

 

 「あんたほんと間抜けね。さて、目も見えない勇者様がどうやって私を倒すというの?」

 

 「ああ、しくじったよ。これじゃミアの可愛い顔も二度と拝めないじゃないか」

 

 こうなったら街が破壊されても構わない。ミアを助け出すことが先決だ。しかし状況は圧倒的に不利であり、いくらステラの剣技が卓越していようとも、相手が見えないのなら斬撃を叩き込むことも困難だ。ラミアの図体がでかいので、適当に振っていれば当たる気もするが、万が一ミアに当たってしまってはいけない。

 

 「安心しなさい。僧侶ちゃんは殺さないわ。ソフィアの魂の入れ物になってもらうんだから」

 

 「化け物の姿になって、まだそんな事言ってるのか。もしお前の侍女が復活したとしても、目の前にこんな醜い怪物がいたらショック死しちまうだろうよ。復活させるだけ損だ」

 

 「醜い?こんな煌びやかな私のどこが醜いって?」

 

 「悪趣味なんだよ。全身ギラギラの大蛇なんてどう見てもキモイだろ」

 

 「それが遺言でいいわね?」

 

 ラミアのシューシューという息遣いが、耳元まで迫ってきていた。鏡の体がステラの腕に巻きつく。割れた破片が二の腕や手首に刺さり、血が噴き出した。

 

 目を閉じていても分かる。ラミアは大口を開けて、ステラを飲み込もうとしていると。

 

 「お前なんかに食われて…たまるかぁ!」

 

 手足を拘束されたステラに唯一残された攻撃手段は、頭突きだった。限界まで体を動かして反動をつけ、ラミアの牙をめがけて頭を突き上げた。もう目が完全に潰れてもいい覚悟で半目を開け、しっかりと牙の位置を捉える。幸い、口の中までは鏡になっていなかったようで、赤い舌と白い牙が見えた。

 

 「あぐっ!私の歯が!なにこいつの石頭!」

 

 「私の脚は馬並みの脚力、腕力はゴリラ。そして頭はダイヤモンドよりも固いと言われてるんだ」


 牙が片方抜けたラミアは、衝撃のあまり力を緩めた。そのおかげでステラは拘束から抜け出し、捕まっていたミアも解放されたらしく、地面に放り出されて軽い悲鳴をあげているのが聞こえた。


 「歯抜けの大蛇の間抜け面を拝めないのが残念だよ。お前を殺したあと、たっぷり鑑賞してやるからな。そうだ、はく製にしてやろう。またミイラに逆戻りだ」

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